
東京の片隅で予備校に通う浪人生。大学受験までのカウントダウンは始まっているが、未来はまったく見えない。鬱々と日常生活を送る彼に、暴発の瞬間は突然やってくる…(映画.comより引用)。1977年製作作品。監督は石井聰互(現:岳龍)で、出演は入戸野誠、山崎いずみ。
石井監督の自主映画第2作にして、衝撃の問題作です。デビュー作『高校大パニック』が「狂気が爆発してから」を描いたのに対し、本作は「狂気が爆発するまで」を描いたものと言えます。
主人公の浪人生は、息抜きにポルノ映画を観て、健康のためブルワーカーで身体を鍛え、鏡に映った自分自身に語りかける、孤独な若者です。彼とそっくりなのが『タクシードライバー』のトラヴィスです。『タクシードライバー』の方が先に公開されていますから、本作が真似たのでしょうけど。
孤独な生活の中で自己を肥大化させたトラヴィスは、次期大統領候補の射殺を計画したり(失敗)、少女を救うために女衒一味を全滅させたり(成功)します。本作の主人公が最後に至る「凶行」は、トラヴィスに比べ、ランクが落ちるものかもしれません。しかし、銃社会ではない日本において、突発的な狂気の爆発は本作の「凶行」の方がリアルです(平凡な浪人生が拳銃を手に入れたら、その物語はリアリティを欠きます)。
未来が見えず、鬱々とした毎日を送る間、狂気を蓄積させている孤独な若者は、本作から30年近く経過した現代でも少なくありません。本作は今なお普遍性を有する作品です。
★★★☆☆(2015年9月17日(木)DVD鑑賞)
本作のキャストに佐々部清という名があります。『半落ち』や『夕凪の街 桜の国』の監督でしょうか?