
毎度お馴染み寅さんが故郷・葛飾柴又に帰って、ひと騒動起こす人気シリーズ第5作。1970年公開作品。監督は山田洋次で、出演は渥美清、倍賞千恵子、長山藍子、森川信、三崎千恵子。
『男はつらいよ』シリーズは、山田が全48作を監督していると思われがちですが、第3作『男はつらいよ フーテンの寅』と第4作『新・男はつらいよ』を監督していません。しかし、全作品の脚本を書いているので、本シリーズは山田監督の“アンダー・コントロール”であると言えます。出演者に一切のアドリブも許さないという話もあるほどです。
本作のマドンナ役は長山ですが、後半でやっと出てくるので、印象があまり残りません。終始寅さんを心配する、異母妹さくら(倍賞)の方が印象に残ります。本作の真のマドンナは倍賞だと思います(ドラマ版のさくら役は長山だったそうですが)。
寅さん(渥美)は、テキ屋稼業から足を洗い、地道な生活を歩もうとして失敗します。いつもどおりマドンナへの片思いは結実しません。生来の気質のため、勤労に不向きな寅さんに山田監督は幸福な結末を用意しません。山田監督には、自由人の存在を肯定するが、勤労しない自由人に市民的幸福(結婚や家庭)を与えないという哲学があるようです。自由人が市民的幸福を得ると、自由人らしさが失われますし、真面目に勤労している市民が報われませんからね。本シリーズで市民的幸福を得るのは、汗水垂らして勤労する、さくらの夫・博(前田吟)です。
山田監督は本シリーズのおかげで、「情」の人というイメージが定着しています。しかし、東大卒で日本共産党シンパという山田監督は、時には冷徹と思われるほどの「理」の人だと思うのです。
★★★☆☆(2015年5月6日(水)DVD鑑賞)
『男はつらいよ』コンプリートまでは、まだまだ遠く・・・。