シン・ゴジラ | 映画物語(栄華物語のもじり)

映画物語(栄華物語のもじり)

「映画好き」ではない人間が綴る映画ブログ。
読書の方が好き。
満点は★5。
茶平工業製記念メダルの図鑑完成を目指す果てしなき旅路。

 

★★★★★

 みんな一生懸命仕事してるな~、という話。

 

 庵野監督が撮ると、良くも悪くもエヴァっぽくなるのかな~というのが素直な感想。でも、私はエヴァが大好きなので、それでよいのである。なんならエヴァと全く同じ曲すら使われているのだが、もうそれで良いのである。むしろそれを求めてすらいたかもしれない(正確には庵野秀明は総監督であって監督じゃないけどね~)。

 「日本を諦めていない日本映画」というような感じで評されることが多い本作であるが、確かにある意味わざとらしいくらい「日本もまだまだ捨てたもんじゃない」というようなセリフが連発されている。これらはきっと、震災に対する復興へのメッセージであり、誰でもわかるくらいわかりやすいほど、ゴジラというものが原発のメタファーとして描かれている。ラストの「凍結したけど、破壊することはできず、共存していくしかない」というメッセージは、まさにそれである。

 もちろんそうした面も評価されるべきところであると思うのだが、単純な私は、そうした深いところよりも、ゴジラ、キモッ! というところや、官僚がみんなかっこいい! というところに感銘を受けた次第である。その中でも一番感銘を受けたのは、とにかくみんなすげー仕事してるというところである。ゴジラの対策本部的なところでは、みんな昼夜を問わず一生懸命仕事をしていた(もちろん原発の危機のときもこのようだったことは想像に難くない)。そりゃゴジラなんていうものが出現したらみんな一生懸命になるだろう、と思われがちであるが、決してそうではないのがこの世の悲しいところなのである。ピンチなときほどもっともらしい理由をつけて遠くにポジションどりをしようとする人間はいるものである。何を隠そう、私自身、きっとそういう可能性があるからこそ、そう断言するのである。私は果たして危機に立ち向かえる人間なのだろうか、という自分に対する危機感は常にある。

 官僚というのはとかく批判されがちであるが、批判する者は、官僚の何を批判すべきかすらわかっておらずに批判していることは多い。一番多いのは「官僚が日本をダメにしている」というえらい漠然とした批判であるが、ではそう批判する人が日本の行政を担当したとしたら、私の予想ではもっと日本をダメにするのではないかと思うのである。

 官僚というのは、とにかく、頭が良い。頭が良くなければ行政は担当できないのである。「官僚が日本をダメにしている」と批判する者の多くは、彼らがどのような仕事をしているかすら理解できていないのではないだろうか。しかしそれでも批判するのは、「みんなそう言っているから」という大衆心理と、なんだかよくわからない漠然とした現状に対する不満がそう言わせるのだと考える。どういうわけか現代の日本人は「今とても幸せで国に対して大きな不満はありません」と言葉にするのが憚られる心理が存在するように思える。

 しかし、そんな方々にこそ本作を観ていただいて、官僚がやっている仕事って難しくてついていけないということを感じていただきたい。

 まず、みんなすげー早口でもはや観客に内容を理解してもらおうという歩み寄りが感じられないのだが、官僚の方々は、とにかく早口なのである。きっと頭の回転の速さが口を動かす速さに連動しているのもあるだろうが、何よりも大きいのは、そうやって話しても相手が理解できるという環境にあるということであろう。頭が良い人同士の会話というのは、横で聞いていても、内容もさることながら、そのスピード感からさっぱり理解できないものである。そういう人達とチームを組むと、もう好きなように勝手にやって、といつも思ってしまう私はごく凡人である。いつも「私のことを小学生だと思って説明してください」と開き直って言っちゃうくらいである。

 そんな頭の良い方々が本作で常に困っているのは、「法律がない」ということである。ああなるほどなぁ、と盲点を突かれるような思いになった。確かに、もし日本に突如としてゴジラが現れたら、それに対処するための法律がないのである。

 民主主義の法治国家では、何をするにしても、とにかく法律的根拠が必要なのである。これは独裁を防ぐためにも重要な要素であるわけだが、緊急事態に弱いのは必然でもある。特に自衛隊を動かすための法律が曖昧である点が描かれていて(どっちの法律でいく? みたいな描写がある)、異様にリアルであった。きっと似たようなやり取りは日常的にあるのだろう。

 で、法律がないないと騒ぎ、次々と新しい法律を作りながら行動に移していくわけだが、その辺の流れは私のような平民にはちょっと理解しきれないくらい難しい。難しい話を観て、なんだか頭が良くなったような錯覚に陥るアレが味わえる部分である。庵野秀明の持ち味であるといえる。

 登場人物のほとんどすべてがすげー良い人ばかりであった点も、個人的には大好きなところである。とにかく何をしても批判されてしまう内閣総理大臣ですら、良い人であった。国務大臣勢も基本的に良いおじさんおばさんばかりで、みんな国民のために一生懸命仕事をしていた。ただこれはさすがにちょっと嘘くさいと思ってしまうのは、私も悲しい日本人の一人であるからだろうか。まだ幼児体系であったゴジラ(つまり、まだ通常兵器が効きそうな雰囲気であった時)に対して、逃げ遅れたおばあちゃんの避難が遅れたせいで戦闘ヘリでの攻撃を断念したくだりでは、正直私ですらいいから撃てと思ってしまったのだが、総理大臣である大杉連は「自衛隊が国民に銃を向けるわけにはいかない」と撤退を命令した。マジ自分の人間性を疑ってしまったシーンなのだが、現実世界であったなら、撃たなかったことに対する批判が絶対に起こると思われる。少なくてもネット上では絶対に起こるだろう。と、自己弁護する私。もちろん人間として正しい姿は、大杉総理大臣の姿である。私ももっと人間性を磨かなければならない。

 そんな、美しすぎる政治家、官僚たちの姿を満喫できる本作。それはイコール、美しい日本の姿でもある。みんなもっと、国家公務員達の仕事を認めてあげましょう~

 平凡な人間にはできない仕事をしているわけなのだから。