ゼロ・ダーク・サーティ | 映画物語(栄華物語のもじり)

映画物語(栄華物語のもじり)

「映画好き」ではない人間が綴る映画ブログ。
読書の方が好き。
満点は★5。
茶平工業製記念メダルの図鑑完成を目指す果てしなき旅路。




★★★★☆

 女の執念は怖いよね、っていう話。上司飛ばされちゃうし。


 2011年のウサマ・ビンラディン暗殺作戦を描いた作品。主人公の女性が実際に存在したのかどうかは議論が分かれるところのようだが、出来事自体は実際にあったことを忠実になぞっていると思われる。劇中に登場したアルカイダ専門のCIA局員が自爆テロによって暗殺される事件も実際に起こっている。

 2時間半にも及ぶ長編ではあるが、物語自体は淡々と、あっさりサクサクと進んでいく。それだけに実際の出来事を忠実に、丁寧に描いている印象が強く、ドッカンドッカン派手な戦闘シーンがあるわけでもないのに、作品の雰囲気にどんどん引き込まれていく。特に、ラストのビンラディン潜伏場所に突入するシーンは、銃撃戦であるにも関わらず静かに淡々と進んでいき、妙にリアリティがあった。『ゼロ・ダーク・サーティ』というのは午前0時30分のことだそうで、この作戦の決行時間のことであり、深夜ということもあってライフルに消音機をつけて突入しているところが生々しい。それにしても、泣き叫ぶ子供の前で両親を射殺し、その上さらにとどめの一発を撃ち込むような念の入れようなのに、その横でシールズ隊員が「大丈夫。怖がらないで」とか言って子供をなだめようとするが、そりゃ無茶でんがなという話である。いきなり外国の軍人が大量に家に押し入ってきて両親達を銃殺しまくっているのに、たかがペンライト一本あげたくらいでどうにかしようというのが土台無理な話である。たとえ相手がオタ芸をマスターしたアイドルオタクであったとしても、ペンライトは1本じゃ足りないし。

 で、この作戦で活躍したのが、最近のマイブーム「ネイビーシールズ」である。しかしこの作品でのSEALsは今までの中で一番ドジを踏んでいた。何の外的要因もなく、うっかりミスに近いようなミスでステルス処理を施したヘリコプターをビンラディン潜伏場所に墜落させるのである。家の住民からしてみたら、「勝手に何やってんの?」と言いたくなるような惨状(参上)だが、実際にあったことなので、笑えない。さらに言えば、この人たち、「捕まえる」という発想が皆無であった。銃を持った男はもちろん銃殺するのだが、そのそばにいた奥さんやら女やらも、完全に非武装なのについでのように殺していくのである。まあこれが戦争であり戦闘なのだろうが、まさに「暗殺」という名に相応しい作戦である。潜伏先だったパキスタンにこっそりとやってるしね。

 この映画では、当時かなりの話題になった「捕虜に対する拷問」も取り上げられている。というか、のっけから拷問シーンである。ただ、映像としてはとてもソフトに作ってあるので、その手の描写が嫌いな人でも、なんとか耐えられるレベルではなかろうか。内容も「水をかける」とか「狭い箱に閉じ込める」とか拷問界の中ではきっとやさしめのチョイスであると思うので、これを理由に遠ざけて欲しくはないというのが個人的な思い。

 拷問には大きく分けて「肉体に苦痛を与える系」と「人間としての尊厳を踏みにじる系」があると思うのだが、日本でも江戸時代に残された資料などを見ると、「肉体に苦痛を与える系」は本当にヤバい。どうしてそんなことが思いつけるのか、というような拷問ばかりで、時代劇でお馴染み『鬼平犯科帳』の原作小説を読むと、鬼平さん、ドラマと違って「ほれ、ほれ」とか言いながらかなりむごい拷問をしている。そもそも、江戸時代の刑罰というとよく耳にする「市中引きずりまわしの刑」とか、よく考えるととんでもない刑罰である。現代では競馬でジョッキーが落馬したくらいで7時のニュースになるのに、馬に足を結びつけて町中引きずりまわすのである。擦り傷の上をまた擦りむくだけでも涙が出るほどの痛みなのに、どんだけ痛いねん。

 話がズレたが、拷問をされる方はいわずもがなだが、拷問をする方も、とてもまともな神経ではいられないだろう。それこそ、サイコパスのような人間でなければ、あるいはそうならなければ、とてもやっていけない。劇中でもリタイアがでるが、それはそうであろう。

 そんなわけで、だいぶ風化しつつある「9.11」や「アフガニスタン戦争」を、「ビンラディン暗殺作戦」を軸にして思い出させる作品である。当然全てが事実であるとは限らないけれど、「何があったのか」ということがよくわかる良作である。少なくても、同監督作にしてアカデミー賞受賞作『ハート・ロッカー』より断然面白い。

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