1【挿絵あり物語】プロローグ | ディスノイズー魔法使い育成ブログー

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作品名:ディスノイズ

著者:ノイジィー・マダーレッド

 

●プロローグ●

 

――学校の七不思議。

 

誰しも耳にしたことのある言葉だろう。

ある程度の歴史が存在する校舎には、

必ずこの手の話題がついてまわる。

 

 

今年16歳になる少女、藤原茜の通う高校にも、

当然のように学校の七不思議が存在していた。

 

――夜中に悲鳴をあげる理科室の人体模型。

 ――誰もいないのに鳴り響くピアノの旋律。

  ――ニヤリと口を開く美術室のモナ・リザの絵。

   ――三番目のトイレの花子さん。

 

どれも、どこかで聞いたことのあるような噂ばかりだが、

一つだけ、この学校にしかない怪談が存在していた。

 

いわゆる「知ってはいけない七つ目の不思議」というやつだ。

 

――赤い手紙のミツキさん。

それがこの怪談の通称だった。

 

ミツキさんに出会うためのやり方は以下である。

 

 

まず、最初に黄色の封筒と便せんを用意する。

便せんには、自分が秘密にしていることを一つだけ書き、

封をして、自分の下駄箱に入れておく。

 

このことを、他の誰かに話してはいけないし、

黄色の封筒を、他人に見つかってもいけない。

きっちり三日間。

この封筒の存在を隠し通すことができた人間に、

ミツキさんからの赤い封筒が届く。

 

 

下駄箱からは黄色い封筒がなくなり、

替わりに赤い封筒が入っているというわけだ。

 

――その赤い封筒の中身を見た人間は、

ミツキさんに呪われるのだという。

 

藤原茜「…本当なのかしら。あの噂」

 

一人廊下を歩きながら、茜は呟く。

時間は夕刻、

美術部の活動を終え、これから帰宅しようと

玄関に向かっているさなかであった。

 

茜が気にしているのは、今日部活の先輩が話していた噂の内容だ。

 

――三年生の男子二人が、ミツキさんの呪いを受け、

   おかしくなってしまったらしい。

 

一人は赤い手紙を受け取った翌日から不登校になり、

もう一人は人格が豹変したかのように奇声を発し、

教室で暴れて病院送りになったそうだ。

 

加えて、十年以上昔には、ミツキさんの呪いが原因で

死に至った人間も存在していたらしい。

 

以来、赤い手紙のミツキさんの噂話は禁忌とされ、

教師たちからも、絶対にやるなと厳しくいわれている。

実際、今回の男子二人の件が発生するまでは、

ほとんどの生徒がこの怪談の存在を忘れていた。

 

藤原茜「まさかこんなことになるなんて」

 

やや肩を落としながら茜は言う。

 

藤原茜「私以外にも、ミツキさんに手紙を書いていた人がいたなんて!」

 

しかも先を越されたなんて!と嘆き続ける。

 

…そう。茜は平凡とは程遠い感受性の持ち主であり、

不思議やオカルトをこよなく愛していた。

 

学校では普段、大人しく地味な生徒を演じているが、

その内面には、不思議な現象に遭遇することへの強い憧れが根付いていた。

 

藤原茜「ミツキさんには、

     他の六つの不思議を見たあとにしか出会えないはずなのに!

     私のほかに同じことをした生徒がいたなんて」

 

一つ目は理科室で、

二つ目は音楽室で、

三つ目は二階南の女子トイレで、

四つ目は夜の体育館で、

五つ目は、踊り場の合わせ鏡で、

そして六つ目は美術室で・・・

 

茜は七不思議をコンプリートしつつあったのだ。

 

藤原茜「ミツキさんへの黄色の封筒は、

     今朝下駄箱にいれたばかりだけど、

     先輩たちの噂じゃ、

     先生たちが本格的に取り締まることになったみたい」

 

つまり、茜は七つ目の不思議というご馳走を目の前にして、

取り上げられることになってしまったのだ。

 

だから落ち込んでいて、足取りも重い。

 

「あと少しだったのに」とため息をつき、

玄関にたどり着いた。

 

 

誰もいない空間。

すこしじめっとしていて、出入り口の向こうからは西日が差し込んでいた。

 

茜はまっすぐに自分の下駄箱に向かい、

無造作に靴を取り出す。

 

…その時、ひらりと足元に落ちたものがあった。

 

 

藤原茜「…!!」

 

赤い封筒。

拾い上げてまじまじとみつめる。

下駄箱の中に入れておいたはずの黄色い封筒は、

どこにも見当たらなかった。

 

 

藤原茜「こ、これって…ミツキさんの…

     うそ。だってまだ三日たってな…な」

 

怖いのか、嬉しいのかわからない感情で声が震えていた。

そして同時に、茜の心に迷いが生まれた。

 

――封を開けるべきか、やめるべきか。

 

本当は封を開けるつもりでいた。

あの、男子生徒二人の話さえ聞いていなければ、

迷わずここで開封していただろう。

 

幸い周りには誰もいない。

不思議をこっそり楽しみたいのなら、今がチャンスだ。

 

赤い封筒は、手の中でずっしりと重くたたずんでいる。

たぶん、封筒の中身にあるのは、ただの便せんではない。

 

恐怖心と好奇心が、炎のように心の中を暴れまわっていた。

 

 

藤原茜「…。」

 

そして茜は

――好奇心に負けた。

 

ぼとり。

 

と、封筒から金色の破片が落ちる。

それと、白い便せんが一枚…

 

 

 

藤原茜「これは、鍵?」

 

???「みつけた」

 

 

瞬間、背後に立つ人の気配があり、声があった。

 

驚いて、茜は振り返る。

 

 

そこには一人の少年がいた。

同じ学校の制服を着てはいるが、

茜の知らない生徒だ。

少年は、夕日のなかで透き通るように綺麗だった。

 

 

???「はじめまして。ミツキです」

 

 

藤原茜「…!!」

 

おののいて、茜は一歩後ろにさがる。

がたんと背中が下駄箱にぶつかった。

 

 

ミツキ「怖がらなくていいよ。僕も人間だから」

 

 

藤原茜「…え?」

 

 

ミツキ「僕はね、君をうちに勧誘したいんだよ。

     先生にも、他の生徒にもナイショで」

 

 

藤原茜「勧誘って…なんの?」

 

 

ミツキ「オカルト研究倶楽部。

    いわくつきだけど顧問もいる、歴史ある倶楽部だよ」

 

 

藤原茜「――オカルト!」

 

胸が高鳴ったのは、魅惑的なお誘いのせいか、

目の前にいる少年に見惚れていたせいか、

はたまたその両方か…

 

 

ミツキ「興味をもってくれるのなら。手紙の場所で待ってるよ」

 

 

そう言い残すと、ミツキは姿を消した。

 

 

比喩ではなく、本当に完全に消えてしまったのだ。

 

――赤い手紙のミツキさん。呪いのミツキさん。

 

その秘密に、

茜は踏み入ろうとしていた。

 

 

 

――…To be continued