music-geek -500ページ目

ラッパの練習で使うエチュード

練習するときはかなりの時間をエチュードに使います。どうも非クラシカルな音楽から入ってしまうと、こういう「お勉強」な匂いのするものにはどうも距離を置いてしまう傾向があるように思えるのですが、これらは楽器を演奏する為の効率の良いトレーニング方法を書いてあるものなのですから、やったほうが良いに決まっています。それに実は非クラシカルな分野で活躍している人の多くはこういうことをきちんとこなしてきた人なのです。クラシカルであろうが、ジャズであろうが、楽器のクリニックで語られることはほとんど同じなのです。
で、私は以下のようなエチュード群を使います。

Theo Charlier: 36 etudestranscendants
シャーリエのエチュードは非常に難解ですが、それぞれのエチュードがきちんとした音楽になっていてやっていて非常に楽しいです。どうしても機械的になりがちなアーバンもやらないといけないのであうが、こっちに傾きます。

H.L Clarke : Technical Studies
20世紀前半を代表するコルネットの名手、クラーク。トランペットという楽器は音域の拡張も含めてこの時代のアメリカでその完成を見たように思います。楽器をきちんと鳴らす、ということに主眼が置かれており、アメリカではアーバン以上にポピュラーなものです。大きな音を要求していない、というところにこの本の目的がきちんと出ていると思います。

Claude Gordon: Systematic approach to daily practice
クラークの一番弟子だったゴードンのエチュード。ゴードンは自己の経験をもとに、楽器をきちんと正しく吹く為には体をどう機能させたら良いのか、ということを追求し、研究し、この本を書きました。極端なことが書かれていて一瞬たじろぎますが、注釈をきとんと読めば納得ですし、効果は大きいです。できればゴードンに習った人にオリエンテーションしてもらうと良いですね。

John McNeil: The Art of Jazz trumpet
エチュードというよりは読み物なのですが、アーティキュレーションなど参考になることが沢山書いてあります。必読です。

Oliver Nelson: Pattenrs for improvisation
昔はPatterns for Jazzっていう題だったんですよ。シーケンシャルなフレージングのストックに最適です。

まだあるのですが、まずはこれくらい。こういうことを書くと「音楽なんてセンスやフィーリングの方が大事だ」なんて仰る方もいらっしゃいます。でも、技巧はあればあるだけ、その人のセンスやフィーリングを表す表現力が大きくなるわけだから、その指摘は正しくないんです。

さぁ今日も練習しないと。

Tom Harrellと私

私の尊敬する友人であり、世界屈指のジャズトランペット奏者にTom Harrellという人がいる。この人は学生時代からいわゆる妄想型の統合失調症っていうのを患っているのだ。いわゆる幻覚や幻聴で飛び降りちゃうタイプのものだ。
歩き方も少しぎこちなく、常にうつむいていて、時々小刻みに震えたり、ステージでの外見からして少し変なのだが、楽器を吹いているときだけは乱れない。時々演奏中に体が震えたりするのだが、音楽は乱れない。自分の演奏が終わるとまたうつむいて動かなくなってしまう。こういう感じなので、日本のファンの間ではやれ「自閉症」だのなんだのと様々な憶測が流れていたものだし、彼を初めて見た92年頃には私もそう思っていたのだ。でもその恩学は純粋で素晴らしく、92年のセッションでは彼のソロが終わった後の拍手歓声が凄過ぎて次のプレイヤーが入れず、リズムセクションの三人も信じられない、という感じでお互いを見合わせながら1コーラスをスルーした、なんていうハプニングがあったくらいなのである。その後彼の音楽にどんどん魅了されて行き、彼の譜面が欲しかったので、2001年にNYCに行ったときに彼の自宅を訪ねたりしたのだが、これは現地の関係者も驚いていたから、やはり接触するのが難しいというイメージの強い人だったんだなぁ、と思います。
え?なんでコンタクトが取れたかって?当時のトムのアルバムにはhpもメールアドレスも公開してましたからね。閉じてる人はこういうことはしない、と思ったわけです(でも実はこういうものの管理は夫人のアンジェラさんがやってるんですけど)。

で、

彼の自宅で初めてトムと話してみると、確かに外見はあんな風なのですが、音楽のことについてはどもりながらも非常に沢山話したし、楽器を吹かしてくれたりしたり、病気でスポイルされている部分はあるとはいえ、非常に素晴らしい音楽家であることがひしひしと伝わってきました。純粋で、知的で、教わることが沢山ありました。一時間くらいずーっと音楽談義をしてました。あれだけ沢山のレコーディングに参加し、大勢のミュージシャンと交流があるわけだから、閉じている人ではない、という私の推察は間違いではありませんでした。

それから数年経った去年の暮れに、プライベートで東京に来るというメールをもらいました。私としてはjust say helloでも良かったのですが、それではあまりに勿体なかったので、セッションの打診をしたところ受けてくれました。しかも今回は彼らの都合で来ているのだからギャラのことは考えないでくれ、というではないですか。実は彼のギャラは非常に高いので、過去に断ったケースもあったのです。結果十数年ぶりに東京で演奏することとなった彼を見られる、ということで、SNS限定での連絡であったにもかかわらず、非常に多くのお客さんと一緒に彼とのセッションを楽しめたのは、望外の喜びでした。滞在中、かなり長い時間を彼と共有したのですが、その時間の中で、薄い皮を一枚一枚剥いて行くような感じで彼の人となりが理解できるような気がしました。

彼は「自分が音楽を演奏しているのか、音楽に演奏させられているのか分からない」と言ったことがあるそうなのですが、彼自身の内面はまったく問題ないのに、病気がそれを邪魔している、という印象を受けました。病気の症状は人それぞれなのだと思いますが、少なくとも彼と接することで、自分の中での統合失調症というものに対するイメージは少し変わったような気がします。

その彼が9月に初めて自分のバンドでリーダーとして来日します。病気によるイメージで日本ではまったく話題に上らなかった彼は、間違いなく「リーダーで来日していない最後の大物ジャズミュージシャン」でしょう。これを東京で見られるのは本当に嬉しい。

H.L Clarke's Technical Study

日本だと圧倒的にArbanの教則本が有名なのですが、アメリカではArbanと同じくらい知名度のあるエチュードです。私もいい大人になるまでこれは使っていなかったのですが。

で、この本、よく見るとダイナミクスの指示がほとんどppなんです。しかもワンブレスで出来る限りリピートすることが要求されてたりもします。やはり「少ない息できちんと楽器を鳴らす」というのがコンセプトとしてあるように思えます。このあたりのことをきちんと検証すると、クラークやゴードンやリーヴスと行った人達が言っている、ゴールは同じなのに様々な違う意見が一本の線で結べるような気がします。それを理解し、体得できるように、今日も練習しようっと。