言わずもがなだが、そのサウンドは最高だ。モーツァルトではみずみずしい弦楽器の響きとフルートのデュフォーの美しさに酔いしれていた自分。マエストロは真新しい事をしていたわけでは全くない。譜面に忠実にモーツァルトを再現したわけで、彼らの技術が最高のものであることをまざまざと実感できるものだったといえる。個人的に「過度な脚色」をしたモーツァルト演奏が嫌いな私にとっては、この上ない瞬間の数々を楽しめた演奏だった。
『英雄の生涯』はどうか。もちろんこれも最高だ。全体的には「期待通り」という表現が適切だろう。120人にも及ぶ大所帯で臨んだ彼らだが、ハイティンクの統率のとれた抑制されたパッションの表出はさすが。名手がそろった管楽セクションもさることながら、今日の一番の白眉はコンサートマスターのロバート・チェンだといえる。彼のヴァイオリンが聞けただけでも満足出来るほどにロマンティックにして官能的な音色を聞かせてくれた。気宇壮大な演奏になりがちなリヒャルトの世界だが、マエストロ・ハイティンクは、聞き手を圧倒するというよりは、むしろ紳士的にかつ精緻に一大パノラマを築き上げたといえ、燻し銀のような職人気質を感じさせる円熟を極めた演奏だったといえる。奇を衒わず、オーソドックスな演奏であるにも関わらず、その卓越した技術と響きの壮大さと奥深さだけで、聞き手を圧倒しており、これこそこのオーケストラとマエストロが世界最高である所以を物語っていたといえる。終盤の抒情的な安息への音楽もまた豊饒なオーケストラサウンドの醍醐味であり、ただただ秀逸であった。感服である。以上、勝手な見解である。〔横浜みなとみらいホール〕
【今日の出演者】
ベルナルト・ハイティンク/シカゴ交響楽団
【今日の曲目】
モーツァルト:交響曲第41番ハ長調K.551《ジュピター》
R.シュトラウス:交響詩《英雄の生涯》作品40