オランダの名匠ハイティンクとシカゴ交響楽団の公演に足を運んだ。素晴らしい演奏が聞けるのは誰もが分かっていた事で、どんな衝撃的な演奏を聞かせてくれるのか、期待していた自分である。
言わずもがなだが、そのサウンドは最高だ。モーツァルトではみずみずしい弦楽器の響きとフルートのデュフォーの美しさに酔いしれていた自分。マエストロは真新しい事をしていたわけでは全くない。譜面に忠実にモーツァルトを再現したわけで、彼らの技術が最高のものであることをまざまざと実感できるものだったといえる。個人的に「過度な脚色」をしたモーツァルト演奏が嫌いな私にとっては、この上ない瞬間の数々を楽しめた演奏だった。
『英雄の生涯』はどうか。もちろんこれも最高だ。全体的には「期待通り」という表現が適切だろう。120人にも及ぶ大所帯で臨んだ彼らだが、ハイティンクの統率のとれた抑制されたパッションの表出はさすが。名手がそろった管楽セクションもさることながら、今日の一番の白眉はコンサートマスターのロバート・チェンだといえる。彼のヴァイオリンが聞けただけでも満足出来るほどにロマンティックにして官能的な音色を聞かせてくれた。気宇壮大な演奏になりがちなリヒャルトの世界だが、マエストロ・ハイティンクは、聞き手を圧倒するというよりは、むしろ紳士的にかつ精緻に一大パノラマを築き上げたといえ、燻し銀のような職人気質を感じさせる円熟を極めた演奏だったといえる。奇を衒わず、オーソドックスな演奏であるにも関わらず、その卓越した技術と響きの壮大さと奥深さだけで、聞き手を圧倒しており、これこそこのオーケストラとマエストロが世界最高である所以を物語っていたといえる。終盤の抒情的な安息への音楽もまた豊饒なオーケストラサウンドの醍醐味であり、ただただ秀逸であった。感服である。以上、勝手な見解である。〔横浜みなとみらいホール〕
【今日の出演者】
ベルナルト・ハイティンク/シカゴ交響楽団
【今日の曲目】
モーツァルト:交響曲第41番ハ長調K.551《ジュピター》
R.シュトラウス:交響詩《英雄の生涯》作品40

かなり久し振りに読売日本交響楽団の定期演奏会に足を運んだ自分。前に聞いたプログラムがイオン・マリンが指揮した幻想交響曲だったことは鮮明に覚えているがもう10年以上も昔の話しだ。
今回は広上淳一が指揮するオール・ブラームス・プログラムだ。個人的には我が国では最もドイツ的な響きを奏でると感じている読響で聞くブラームスは、自ずと期待感は膨らみ、その期待は裏切られることはなかった。
あくの強いひと昔前の広上の印象とは、ひと味もふた味も洗練された印象を受けた今回の演奏。読売日本交響楽団だったのも大きな要因だったかもしれないが、今日のような演奏が聞けるとは、実に感慨深い。特に後半のブラームスのピアノ四重奏曲(シェーンベルク編曲版)で聞かせた懐の深い弦楽器と豊饒にして情緒豊かな管楽器。卓越した技術を兼ね備える読響だからこそ表現し得る世界なのかもしれないが、広上ならではのユニークな世界もまた音楽として存在している。特に第3楽章で聞かせた弦楽器のアイロニィと、壮大にして悠然と聳える強奏から表出されるパッション。聞き手を翻弄する音楽的演出に富んだ、渾身の名演だったといえるだろう。広上の面目躍如だったといえる。前半の二重協奏曲は溌剌とした若い二人の演奏は気持ち良く聞けたが、円熟味のあるヴェテランの演奏で聞くのが好きな自分としては、少し物足りなさが残ってしまったのは否めない。〔サントリーホール〕
【今日の出演者】
広上淳一/ルノー・カプソン(Vn)/ゴーティエ・カプソン(Vc)読売日本交響楽団

【今日の曲目】

ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲イ短調作品102
ブラームス:ピアノ四重奏曲第1番ト短調作品25(シェーンベルク編曲)

今日は、エディタ・グルベローヴァの公演に足を運んだ。
今更、彼女についてを語るつもりは毛頭ない。世界最高のコロラトゥーラは今日も「奇跡」を起こしてくれた。前半はモーツァルト、後半はドニゼッティとベッリーニといったプログラムだったが、相変わらずその歌声は人間の域を遥かに超越していた。
どの曲も彼女の至芸に圧巻であったが、特に前半は『イドメネオ』が秀逸だった。その表現力の豊かさによって、聴く者を一気に彼女の世界へと誘ったといえる。その前までは、平常心を保っていた客席も、完全に「ここ」で彼女に堕ちてしまったといえる。後半の最初に歌った『シャモニーのリンダ』は、今日の一番の白眉だったといえるだろう。アンコールの《『キャンディード』と『こうもり』も絶品。浅はかな自分の拙い言葉では彼女の演奏は言い表せない、何も頭に浮かばない興奮を通り越して「放心状態」の自分である。
…という事で、今日の演奏会の感想である。たいした感想ではないが、心中お察しください。悪しからず…。〔横浜みなとみらいホール〕
【今日の出演者】
エディタ・グルベローヴァ(S)/ラルフ・ヴァイケルト(Cond)/東京交響楽団

今日はイルジー・コウトが指揮するNHK交響楽団の演奏会へ行った。曲はイルジー・パウエルのファゴット協奏曲とブルックナーの『ロマンチック』だ。コウトの演奏は98年にベルリン・ドイツ・オペラの来日公演で観た『ばらの騎士』以来で、ブルックナーの『ロマンチック』はアバドとルツェルン祝祭管の来日公演以来、久しぶりに接するもので個人的な思い入れの強い演奏会といえた。ベルリン・ドイツ・オペラやアバド/ルツェルンと今日の演奏を比較するつもりは毛頭ないが、N響らしい質の高い演奏を繰り広げてくれたといえるだろう。
ブルックナーの交響曲第4番『ロマンチック』は実に端正な矍鑠とした演奏だったといえる。ヴァントや朝比奈のような重厚なフォルムではなく、ただ、ブルックナーの敬虔でかつ、大自然の空気を感じさせる奥深さを兼ね備えた演奏だったといえる。ペーター・ミリングをゲスト・コンサートマスターに迎え、相変わらず各奏者のレベルの高さを実感したが、今日は特にフルートの輝き、美しさは格別だっただろう。まさに「ブラボー」である。とにもかくにも、期待通りの演奏に満足である。
休憩前にはコウトが愛するチェコの作曲家、イルジー・パウエルのファゴット協奏曲がN響首席奏者の岡崎耕治の独奏で演奏された。20世紀に活躍し、この作品も1949年に作曲されたもので、新古典主義風でリズムもテンポもメロディも、どれもが時代のわりには親しみやすい曲調といえる。雰囲気としてはショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第2番の雰囲気を感じた自分である。岡崎の好演といえる。
以上、取り急ぎの個人的見解である。〔横浜みなとみらいホール〕
【今日の出演者】
イルジー・コウト/岡崎耕治(Fg)/NHK交響楽団

【今日の曲目】

イルジー・パウエル:ファゴット協奏曲(1949)
ブルックナー:交響曲第4番変ホ長調《ロマンチック》(ノヴァーク版 1878/80)

最近熱い演奏を聞かせてくれている神奈川フィルの定期演奏会。今日はフランスの中堅指揮者、パスカル・ヴェロを迎えてルーセル、トマジ、ベルリオーズを聞いた。弦楽器群の充実が音楽に顕著に現れてきている昨今の彼らだが、今日もそれを強く感じさせるものだったといえる。
ルーセルの晩年の佳品、弦楽器のためのシンフォニエッタは10分にも満たない小品だが、懐の深い奥行きのある演奏が印象的。弦楽器群の最近の充実ぶりを実感できるものだった。
トマジのトランペット協奏曲は名手、アントンセンの技巧に圧倒された。さながら映画音楽の雰囲気をも感じさせ、時には武満徹の調性的にしてフランス的な雰囲気も垣間見ることができるこのトマジの作品は初めて接した作品だが、なかなか面白い作品といえる。アントンセンの超絶技巧ばかりに目が行きがちだが、この演奏の影の立役者は、パーカッションの平尾氏だろう。存在感のある(ただ目立つことはない)スネアドラムは、特筆に価するといえる。時々感じる平尾氏の存在感の大きさ・・・、今日は顕在だった。
メインのベルリオーズは前半の満足感を超越することができるのか、楽しみに聴いたが、それを裏切ることはない堅実な演奏だったといえる。ヴェロは、テンポを自由に操り、ドラマを精緻に演出していたといえる。劇的になりすぎず、少し大人しい印象も否めないが、ベルリオーズの幻想交響曲が持つ恋愛物語を、フランス人の視点から切り開いた点、新たな発見があったといえる。フランス人が奏でる神奈川フィルの幻想・・・、この視点から見れば、かなり新鮮な演奏だったといえるだろう。今日の勝手な個人的な見解である。〔横浜みなとみらいホール〕
【今日の出演者】
パスカル・ヴェロ/オーレ・エドワルド・アントンセン(Tp)/神奈川フィルハーモニー管弦楽団

【今日の曲目】

ルーセル:シンフォニエッタ作品52
トマジ:トランペット協奏曲
ベルリオーズ:幻想交響曲作品14a