個人的に大好きな作品が2曲列んだ日フィルの横浜定期に足を運んだ。家族をテーマにした武満とリヒャルトの作品であり、特に武満の作品で沼尻竜典がどんな解釈でこの作品を表現するのか、楽しみにして足を運んだ。
武満の『系図』は、現代音楽に聞ける美しさに溢れている。特に、武満の他の作品(ノヴェンバー・ステップスに代表される管弦楽作品)では余り体感できない調性的でノスタルジックな響きが本来はそこにあり、小澤征爾が残している録音を何度も聴きこんだ自分である。故に、かなり「思い」が強い作品なのだ。今日はその境遇が裏目に出てしまったといえるかもしれない。遠野凪子が語りを務める小澤盤を理想とする自分には、あまりにもギャップがありすぎたのだ。今日のナレーションはあっさりなほどに淡々と進む。情感を込めてひとつひとつの言葉を「編むように」語る遠野のそれとは大きく違う。ナレーションに限らずオーケストラの進行は意外なまでにあっさりしていた感じが個人的にはする(女優のナレーションを否定するつもりは全くない)。その違いは演じる側の個性であり、それが沼尻の解釈であり、「現代の普通の女の子」がナレーションを務めるという武満の指示には適った演奏だったともいえ、聞き手の嗜好の問題なだけだと今日は結論付けた自分である。
後半のリヒャルト・シュトラウスの家庭交響曲は善くも悪くも「日フィルらしい」演奏だったといえる。「まとまった時」のオケ全体の推進力は流石のものだ。しかし、その流れがスムーズに運ばなくなると、どうにも聞き手の頭の中では音が「協調」しなくなる。そんな瞬間が何度か訪れてしまった自分。せっかくの沼尻竜典が指揮する「マイ・ベスト・プログラム」に納得が行かず、消化不良に終わった事を深く悔いる自分である。以上、勝手な見解である。〔横浜みなとみらいホール〕
【今日の出演者】


沼尻竜典/蓮佛美沙子(語り)/大田智美(Acco)/日本フィルハーモニー交響楽団
【今日の曲目】
武満徹:系図~若い人たちのための音楽詩~
R.シュトラウス:家庭交響曲作品53

ゴールデンウイークの風物詩としてすっかり定着した「ラ・フォルジュルネ」。クラシック音楽の裾野を拡げるべく、低廉な価格でそれ相応の出演者で同時多発的に公演が展開されている。横濱ジャズプロムナードのクラシック版とでも表現するのが適当かもしれない。
そんなイベントに初めて足を運んだ自分。今回聞いたのは、ファビオ・ビオンディ率いるエウローパ・ガランテの公演。イタリアを代表する彼の演奏は古楽器アンサンブルならではの躍動感とパッションに漲っていたといえる。ヴィヴァルディにパーセル、コレルリの作品を色鮮やかに弾き分けた彼等のテクニックには脱帽だ。とくにパーセルとコレルリの演奏は、明晰なタッチで適度にメリハリを効かせたもので、彼らの大きな特徴でもある「激しさ」もまた流れの中で自然に沸き上がってきていたといえる。アンコールのテレマンがまた、粋な選曲でセンスの良さを感じる。この演奏を3000円で楽しめるのだから贅沢の極みだ。
余談だが、カーテンコールにおける場内運営スタッフの立ち居振る舞いには疑問だ。万雷の拍手で湧く会場…。奏者に花束を渡そうとする女性と、それを受け取りに歩み寄るビオンディ。そこで何故か、制止に入るスタッフ。会場内への花束の持ち込みが不可という「ルール」だったとしても、あの場ではあまりにも空気が読めなさすぎるスタッフだ。耳の肥えた質の良い聴衆が多かったこともあり、お陰で会場内は大ブーイング。これ程までに場内が一丸となったブーイングは初めてだ。恐らく誰しもが初めての体験であり、同じ思いだったに違いない。逆を返せば、会場内がひとつになれた一生に一度の稀有な瞬間だった。さすが(いろんな意味で)、ラ・フォルジュルネだ。運営サイドの皆様、頑張ってください。とにもかくにも、この公演は素晴らしかった。
以上、勝手な見解である。〔東京国際フォーラム ホールB7〕
【今日の出演者】
ファビオ・ビオンディ(Vn)/エウローパ・ガランテ

【今日の曲目】

ヴィヴァルディ:シンフォニア ト長調RV149

パーセル:弦楽組曲《アブデラザール、またはムーア人の復讐》ニ短調

ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集作品4《ラ・ストラヴァガンツァ》より~第4番イ短調RV357

コレルリ:合奏協奏曲作品6-6

横浜を代表する存在といえる本郷中学校吹奏楽部の定期演奏会を覗いた。ヴァン・デル・ローストのアルセナルとリードのエル・カミーノ・レアルに始まった定期だが、レヴェルの高さを感じさせるさすがの演奏だった。自分が一昔前に聞いたときよりも個人的には少し寂しさを覚えたのも確かである。しかし、毎年新入生を向かえ、代謝をし続ける中高の吹奏楽部のレヴェルを維持し続けることは指導者と学生たちの熱意と、学校のフォローが無くしては語れない。今日もまたその三者に敬意を表したい。公立校ならなおさらだ。

ここの学校はアンサンブル能力が一際優れていると常々思っている自分。今日もまた、第2部でその片鱗を見た気がする。最後まで聞くことができなかったが、今後のますますの活躍を期待したい。最後に申し添えるが自分は本郷中学の卒業生ではない。以上、勝手な見解だ。〔関内ホール〕

【今日の出演者】

原口正一/横浜市立本郷中学校吹奏楽部

今日は神奈川フィルハーモニー管弦楽団の公演へ足を運んだ。マエストロ・シュナイトの同楽団音楽監督としては最後の定期公演ということで、誰しもが特別な想いで臨んだに違いない公演だ。最後を飾るには華やかな選曲とは到底言い難く、実に滋味深い作品が列んだが、それこそマエストロと楽団が「作り上げてきたもの」を享受するに相応しい選曲だったといえるし、その成果は実に素晴らしいものだったといえる。
ブラームスの悲劇的序曲の冒頭の厳然たる2つの和音からして、ただならぬ緊張感を帯びており、楽団がかける意気込みをも感じた第一印象。
合唱が加わった哀悼の歌、運命の歌、ブルックナーのテ・デウムでは、どれもが素晴らしく、ついつい感傷に耽ってしまうほど。安直な表現だが、ホントに素晴らしかった。
アマチュア合唱団ならではのサウンド(特に高音域)もあったには違いない。しかし、それだけを見て否定するのも実に浅はかだ。それこそ安直な発想過ぎる。人間臭くも包容力のある哀感を帯びた安息の響きこそ、この合唱団ならではの響きであると思うし、それに対してこそ、今日は感嘆の声を送るべきだと強く言いたい。特にブラームスの2曲で聞かせた美しさはなんとも秀逸だった。
「偉大なる父」のような存在感で座る指揮台のマエストロ。それに対して、いつも以上の緊張感と集中力で応えた楽団と合唱団の渾身の演奏に今日は心から敬意を表したい。以上、安直な修飾語しか浮かばないほどに感傷に耽ってしまった自分の勝手な見解である〔横浜みなとみらいホール〕
【今日の出演者】
ハンス=マルティン・シュナイト/平松英子(S)/加納悦子(Ms)/小原啓楼(T)/青山貴(Br)/神奈川フィル合唱団/神奈川フィルハーモニー管弦楽団
【今日の曲目】
ブラームス:悲劇的序曲作品81
ブラームス:哀悼の歌作品82
ブラームス:運命の歌作品54
ブルックナー:テ・デウム(ノヴァーク版)
横浜の興奮も醒めやらぬまま、今日もシカゴ交響楽団の演奏会を聴きにサントリーホールへ。
曲目はハイドンの交響曲第101番『時計』とブルックナーの交響曲第7番だ。横浜での印象をそのままに、今日は、難しい事は一切考えずただひたすらにシカゴ響の極上のサウンドに身を委ねようと臨んだ自分だ。
今日もまた正攻法の演奏を聞かせてくれたマエストロ・ハイティンクだが、その存在感を存分に感じさせる演奏を繰り広げたといえる。相変わらず今時にしては、珍しい程に古臭い解釈と奏法ながら、全くそれを感じさせないサウンドは秀逸。オーケストラの魅力を存分に引き出すマエストロの手腕はここでも健在であり、輝くオーケストラの響きに、ただただ溜め息をつきながら聴き入ってしまった。
特にブルックナーでは、一気に巨大化したオーケストラからこの上なく壮大にして厳粛なサウンドを引き出したマエストロに客席は飲み込まれたといえる。今後語り継がれるであろう名演がスタートしたのだ。第一楽章冒頭、第一ヴァイオリンの最弱音によるトレモロ、続くチェロが奏でる主題。これから始まる演奏が最高のものになることを予感させるに難くない緊張と、相反するふくよかなる安堵を聞き手に与える不思議な瞬間から始まったブルックナーだ。奥行きのある朗々たる弦楽器、木管楽器の響きの多彩さも去る事ながら、金管楽器の面目躍如たる華麗にして荘重なサウンドはシカゴの醍醐味。特に第二楽章で聴かせたワーグナーへのカントゥスとも言えるアダージョは筆舌に尽くし難いものだ。高雅にして豊饒なカンタービレは、まるで教会のステンドグラスに降り注ぐ陽光に天使が舞っているかのように、美しくも厳粛なオーケストラサウンドに包まれたといえ、このオーケストラの至極のハーモニーとテクニックに翻弄され、圧倒された客席だったといえる。
今日の公演は自分にとって、今後の人生に大きな影響を及ぼすであろう名演だ。横浜では「期待通り」の演奏だったが、今日は期待を遥かに超越した演奏だったといえる。マエストロ・ハイティンクとシカゴ響に脱帽である。こんな演奏には、そうは出会うことはできないだろう。ましてや、マエストロ・ハイティンクは今年で80歳を迎える。次はいつお目にかかれるか…。今日のこの瞬間を深く脳裏に焼き付け、日々精進していきたいと切に思う自分である。そんな気持ちにさせられた演奏会だ。〔サントリーホール〕
【今日の出演者】
ベルナルト・ハイティンク/シカゴ交響楽団
【今日の曲目】
ハイドン:交響曲第101番ニ長調《時計》
ブルックナー:交響曲第7番ホ長調(ノヴァーク版)