矢沢永吉さんの「東京ナイト」(1985年)まで取り上げたから、ここは勢いでその前作にあたる「YOKOHAMA二十才(ハタチ)まえ」(1985年)についても書いてみましょう。
連載の趣旨にも合っていますしね。
すなわち、LPからCDへの過渡期に発売されたアルバムであり、CDは本来リマスターされているはずなのに放置状態だから、購入を見合わせている、と。
勿論、中には本当にCD化されていないものや、CD化されてはいても国内盤が出ていないアルバムも本連載の対象!
「YOKOHAMA二十(ハタチ)まえ」が出た頃が、個人的に最も音楽を聴いていない時期でした。
洋楽でもやたらニュー・ウェイヴがもてはやされ、もしくは「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」(1984年)やヒューイ・ルイス&ザ・ニュースのような大雑把なアメリカン・ロックがMTV絡みで流行っていた。
いや、BOSSやヒューイ・ルイスのアルバムは嫌いではなかったけれど、のめり込むほどではなかったです(特にブルースの1970年代作品と比べて)。
『ニュー・ウェイヴかMTVに毒されたアメリカン・ロックか』といった二極化は歓迎できませんでした。
もっとわかりやすく言えば、故グレン・フライの“ヒート・イズ・オン”(1984年)に象徴されるようなリズム、サウンドに耐えられなかったのです。
亡くなった人の批判は慎むべきですが、これは予め申したように『象徴』として失礼ながら曲名を上げました。
つまり、斯様なプラスティックなサウンドを導入していたのは、グレン・フライや西海岸の人だけではなく、まさに世界中を席巻したと言ってよいでしょう。
おっと、ヒューイ・ルイスはマシンのドラムは使っていませんでしたね。
それでも響きがあの時代特有のサウンドになっていたのは事実。
正直に言えば、「スポーツ」(1983年)も「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」も同時期の他の作品よりずっと好きでした。
どっちやねん!
そんな中「YOKOHAMA二十才(ハタチ)まえ」も例外ではありませんでした。
これがもっとジャズ寄りの人がプロデュースしたならまだしも、アンドリュー・ゴールドですからね。
A面
1. 浮気な午後の雨 ☆
2. Take It Time ★
3. YOKOHAMA二十才まえ ★
4. Morning Rain 〇
5. 光に濡れて ★
B面
1. 苦い雨 ☆
2. 瞬間を二人 ☆
3. SORRY… 〇
4. 逃避行 ★
5. あ・い・つ ☆
☆西岡恭蔵さん
★ちあき哲也さん
〇山川啓介さん
「東京ナイト」とは異なり、本作は西岡さんとちあきさんの作品が半々と、そこに山川さんの2曲が加わっています。
山川啓介さんが矢沢永吉さんの楽曲を手掛けるのは名作「ゴールドラッシュ」(1978年)以来。
しかし、このお三方が参加していても、聴いてすぐに誰の詞か区別が付きませんでした。
西岡さんが参加しているのは、FMで聴いて知っていたため、購入後歌詞カードを見ずにどれが氏の作品か当てようとしたものの、当てられたのは“浮気な午後の雨”と“あ・い・つ”のみ。
私は決して使わない表現ですが、俗に言う『ブラインド・テスト』ですよ(苦笑)
アルバム表題曲がちあきさんの詞とは意外です。
なるほど英語の繰り返しは多いものの、音韻を合わせだけでなく、きちんと意味を踏まえて無理がない。
だから西岡さんの詞だと思った訳です。
回顧的な~『懐古的な』ではなく~歌詞なのに、♪Echo's of love♪のおかげで、ロックらしさを保っています。
表題曲は好きですよ。
基本打ち込みばかりなのに?
いや、それで合っているというか、それでしか表現できない音楽であれば、私は全く抵抗ありません。
確かに、この曲が70年代に出ていたら、ギターの16ビート・カッティングをもっと前面に出し、跳ねたベース・ギターとドラムスが中核を担うでしょうが、これはこれでカッコいい編曲です。
メロディも永ちゃんの広い音域を利用した素晴らしい出来映えです。
“あ・い・つ”こそ1983年以前のアルバムに入っていたら、もっとちゃんとした音になったはず。
オールディーズ風のロッカ・バラードなのに、ヴォーカルが前面に出ず、オフ気味なところにその上変なエコーまで掛けられている。
本当は、華麗なピアノと控えめなギターとベース、そしてドラムスはブラシを使うべきような曲でしょ?
歌詞は西岡恭蔵さん版の“渚のラブレター”(1981年)かな(笑)
でも今は気に入っています。
不思議なことに、西岡さんは自曲にこんな歌詞をお書きになった例はなく、この頃ご自分の曲も殆ど作曲に専念しておられました。
“浮気な午後の雨”も大好きな曲です。
とは言え、こんな軽い曲を~ただしパチパチと騒がしいシンセ・ドラムはない~よくA面1曲目に持ってきたなと思いました。
とても大人しい歌とサウンドで、永ちゃんも随分丸くなったと感じたものです。
しかし、ヴォーカル・メロディに耳を傾ければ、とても渋い魅力に溢れていることに気付きます。
同年のツアー『Take It Time』は夏休み期間中に開催され、私も友人と見に行きましたが、もしかしてアルバム通りこの曲をライヴの1曲目に持って来るのでは、と予想しました。
勿論、そうはならず実際は“スタイナー~苦い雨”でした。
本来“スタイナー”は“逃亡者”(1984年)の序曲としてミッチェル・フルームが作った曲でしたが、“苦い雨”とのつながりも意外性があり、とても良かったです。
ちなみにミッチェル・フルームは本作にもシンセサイザー奏者として参加しています。
私は京都公演しか見ていませんが、結局新作お披露目時のツアーで歌ったのは、”苦い雨”と“YOKOHAMA二十才まえ”、そしてシングル曲の“Take It Time”の3曲でした。
期待した“浮気な午後の雨”と“あ・い・つ”は演奏されませんでした。
ただし前者は1989年のツアーで聴くことができました。
“あ・い・つ”はいつかライヴで聴いてみたい楽曲のひとつです。
恐らくレコードを聴いて物足りなく感じた人も、生の演奏を耳にすれば感激する…そんな曲でしょう(笑)
最後に、このアルバムのインタヴューを掘り起こしておきましょう。
と言って、カセットテープを再生できる環境にはありますが、肝心のインタヴューを録音したテープが見つからないため、記憶の範疇で少しだけ…。
番組は『サウンドストリート』で、訊き手は勿論渋谷陽一さんです。
ただし、1986年7月に放送された分であり、本来は「東京ナイト」のプロモーションが主体だったところに、渋谷氏が前作との比較の意味で引用したと記憶しています。
渋谷氏『今、「YOKOHAMA二十才(ハタチ)まえ」というアルバムを振り返ってどのように感じておられますか?』
矢沢氏『あれは少々行き過ぎたかなと思う。作っている時は夢中になっていて、気付いたらこれまでの僕の作品とはかけ離れたアルバムになった。その反動から数か月後に「TEN YEARS AGO」を作ったようなものだ』
渋谷氏『僕も「TEN YEARS AGO」には正直ぶっ飛びました!』
矢沢氏『ひとつ面白い話をするとね、僕が嫌いな曲にもかかわらず、ファンレターを読んでいたらとても人気の高い曲があるのよ。どれだと思う?』
渋谷氏『何ですか?』
矢沢氏『B面4曲目の“逃避行”。自分は好きではなかったのに、周囲の反応を見て、今では『俺も結構良い曲書いてるじゃん』なんて思ってしまって(笑)』
理由は私にも何となくわかりますよ。
アルバム中で最も従来の路線に近いからでしょう。
ライヴで演奏しても乗りやすいし。
しかしながら、ライヴで聴いた憶えがない…。
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ワンちゃんの写真、載せてみよう♪
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