ふとしたことから1986年のコンサートの想い出を綴ったため、その流れで矢沢永吉さんの「東京ナイト」(1986年)にも間接的に触れました。
せっかくなので同アルバムを正面から取り上げてみたいと思います。
と言って、いきなり『アルバムをあなたは気に入っていますか?』と問われても、一言では答えられません。
時代が時代だし、あんな音作りになるのは仕方がないと頭では理解しても、それで好きになるとは限らない。
すなわち全体の印象を申し上げれば、楽曲は好きだが、サウンド・プロダクションは気に入らない…。
とりわけバラード曲のリズム・セクションを一部機械任せにしたため、何とも味気ない仕上がりになっています。
ただ、「FLASH IN JAPAN」(全米発売:1987年、国内発売:1999年)にてリミックス&リマスターされた“エイシャン・シー”~正確には“Secret Love”~を聴けば、なかなか深みもあると実感。
A面
1. 東京ナイト ☆
2. 風芝居 ★
3. ISLAND HOTEL 〇
4. BELIEVE IN ME ★
5. YOKO ★
B面
1. さまよい ★
2. 傘 ★
3. エイシャン・シー ☆
4. 止まらないHa~Ha ★
5. めざめたら 〇
☆西岡恭蔵さん作詞
★ちあき哲也さん作詞
〇山川啓介さん作詞
完全な職業作詞家である山川氏はともかく、西岡氏の作品が2曲とは少な過ぎるように思います。
私としては西岡さんに少なくとも半分は書いてほしかったです。
ちょうど前作「YOKOHAMA二十才(ハタチ)まえ」(1985年)の如く、西岡さん4曲、ちあきさん4曲、山川さん2曲程度がちょうど良い配分では?
しかしながら、西岡さんの作風が1970年代とは変わってしまい、ちあきさんと似た傾向を示しています。
厳密に言えば、1984年の「E´」の頃からかな。
物語的でも、行間を読ませる詞でもなく、言葉の響きを重視したとでも言おうか。
「東京ナイト」での作詞作品が少なかったことと、作風の変化に関してはネ。
西岡恭蔵さんご自身のアルバムでも殆ど詞を書いておられなかったのも、理由としては考えられるでしょう。
1曲目のアルバム表題曲は、とてもハードな曲です。
あたかも前作「YOKOHAMA…」と対をなすかのよう。
ポップなアレンジに渋いメロディの乗った“浮気な午後の雨”のことですよ(笑)
あれと比較したら完璧なロックになっており、永ちゃんのシャウトも最初から全開です。
しかしながら、ここで展開される機械的なドラムにはどうも馴染むことができません。
よく聴くと、打ち込みのドラムばかりではなくて、通常のドラム・プレイとを組み合わせているのですが、ロックでこんな手法は取ってほしくない…。
せっかくジョン・ロビンソンが参加しているのだから、全面的に任せた方がよかった。
ただ、プロとして時代の音~流行の音作り~は無視できませんからね。
“風芝居”は大好きな曲です。
軽い曲調なのに、懐の深い矢沢さんのヴォーカルが乗ることで他では聴けない世界が堪能できます。
メロディの展開が素晴らしく、『これぞメロディメイカー!』と呼びたくなりますね。
でも、どういう訳か、Bメロの♪おまえが云いだした~♪とCメロの♪I Love You…You don't Know~♪は一度しか出てきません。
その代わり、Aメロの鍵となるフレーズ『Check Tonight』が繰り返されます。
そこから前に進まない(>_<)
普通は歌詞を変えても、サビは繰り返されるはずなのに、同曲ではヴァースの一部を何度も歌う。
同じことが“さまよい”にも言えましょう。
ブリッジにあたる♪誰がいてもいいのさ ひそやかに会えれば~Someday♪も1回こっきりで終わってしまう。
ここが一番盛り上がる箇所なのに何故?
もっとも、ライヴではそこのところは永ちゃんも心得ているのか、後半に繰り返して歌ってくれます。
それによって曲も引き締まるというものです。
過去2回コンサートにて“さまよい”を聴く機会に恵まれましたが、いずれも1曲目でした。
レコードではB面の頭でも、ライヴでは幕開けにピッタリである事実に永ちゃんもファンも納得しているのでしょう。
ダブル・トラックのギター・ソロも素晴らしいです。
本当言えば、こんなに早く終わらせず、もっともっと演奏してもらいたいほど。
ではインストゥルメンタル・パートが軽視されているかと言えば、そんなことはありません。
A面4曲目の“BELIEVE IN ME”はイントロが1分以上もある!
YAZAWA史上最も長いイントロとなりました(笑)
流麗なアルト・サックスの独奏を存分に堪能した後、登場するのはフィル・スペクター・サウンドです。
まあ、ヴォーカルにもバッキング・トラックにもあそこまで分厚いエコーは掛かっていませんが、一聴してそれとわかる音作りでしょ?
プロデューサーの故アンドリュー・ゴールドが意図して狙ったサウンドかもしれませんが、永ちゃんの歌との相性は抜群ですね。
1970年代にレコーディングされていたら、絶対本物のストリングスを使ったはず。
レイド・バックした“YOKO”も時代が違えば名曲になっていた可能性があります。
いや、勿論今聴ける音源も名曲ですよ(笑)
ベース・ギターとドラムスが限りなく目立たないのは、シンセサイザーのせいなどではなく、小さめに編集されたからに過ぎません。
ドラムは本物を使っています。
リム・ショットと要所ではタムの音がはっきりと聴こえるでしょう。
同曲でもコーネリアス・バンパスの味わい深いサックス・ソロが愉しめます。
こちらはテナー・サックス。
それにしても、名実ともに優れたミュージシャンが参加していながら、誰1人として「東京ナイト」のお披露目ツアーで見掛けなかったのが残念でなりません。
ギターがダン・ハフ、ベース・ギターはボブ・グラウブとニール・スチューベンハウスですが、“エイシャン・シー”の演奏はニールによるものと判断して間違いありません。
そしてドラムスがジョン・ロビンソン、サックスがコーネリアス・バンパス、シンセがアンドリュー・ゴールド。
このうちの誰も矢沢さんと生で共演している場面を見ていない。
普通、新しいアルバムに参加しているミュージシャン~全員は無理でも~をライヴでも見たいものでしょ?
レコードとライヴでミュージシャンの顔触れが変わってしまうと、どこか興味を削がれてしまいます。
当たり前ですが、私が言っているのは有名・無名の話ではありませんよ。
最後にアルバムに関するこぼれ話を載せておきます。
出典は『ロッキング・オン 1986年10月号』の渋谷陽一氏によるインタヴューから。
<一つ笑い話があってね―今回の「東京ナイト」、聴かれたら分かると思うんだけど、ほとんどの曲でいつもよりキー高いんだ。何故だと思う。理由があるわけよ。ホテルに閉じこもって曲書いてたって言ったでしょ。で、他の部屋の人に迷惑かけちゃいけないと思って、ささやくような声で曲作ってたわけよ。つまりファルセットで歌ってたんだね。で、ファルセットで高いというのを、原音入れる時に気付きゃいいのに、アンドリューも僕も全員気付かずに、スタジオ入っちゃった。で、いざボーカル・ダビングになったら、みんなキー高いの(笑) “ちょっと待て、なんでこんなにキー高いんだ”“あれ?なんでだろう”って。全部ファルセットで曲作ってる(笑) いまさら変えるわけにもいかないしさ>
少しだけ解説しておきますと、『ホテルに閉じこもって曲書いてた』のはそうせざるを得ない理由があったからです。
同じインタヴューに載っていますが、前年の1985年はずっとツアーに出ていて曲を書く暇(いとま)がなく、レコーディング日が迫り、慌てて曲を書いたとのこと。
しかも、ロスアンジェルスでの録音直前になっても半数しかできず、渡米してから現地のホテルで作曲した結果がファルセットになった、と(苦笑)
そうか、もしこのレコーディング・セッションにもう少しソウル、R & B系のミュージシャンが参加していたら、“YOKO”や“エイシャン・シー”、“めざめたら”もそのまま裏声で録られていたかもしれない。
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