「泣き虫弱虫諸葛孔明」と酒見賢一 | ほんのにちようび

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心に残った本のあらすじと感想をつづります。

(時に映画、マンガ、音楽などについても)



著者: 酒見 賢一
タイトル: 泣き虫弱虫諸葛孔明
文藝春秋 ★★★

[あらすじ]口げんかでは無敗をほこる、かわいげのない子どもだった孔明。成人するにつれて奇怪なおしゃれをするようになり、話が宇宙哲学に及び始めると、町に変人孔明の噂が流れるようになる。そんななか、孔明の姉は、孔明のために嫁探しをするのだが…

デビュー作「後宮小説」では、「(管理人注:皇帝は)腹上死であった、と記載されている」、の一文で始まるという、なんとも人を食った筆の走りっぷりが痛快だった酒見賢一。最近は「陋巷に在り」シリーズで、孔子の愛弟子である顔回についてそれほど遊びのない文章でみっちり書いていたが、ついに原点回帰ともいえる遊びごころたっぷりの本作が出た。

私はかの有名な三国志を今まで読んだことがないのだけれど、この本はそもそも著者自身が「かの有名な三国志をようやく読んでみたら、孔明って意外となさけない男なんですよ、ほら」というスタンスで書いているので、予備知識がなくても、全然問題なく読み進んでいける。

また、歴史小説なのに地の文で横文字がけっこう出てきたり、著者がいきなり語り始めた挙句、「正直、すまん」などと(地の文で!)出てくるという無邪気っぷり。このあたり、坂口安吾の「信長」などにも通じる自由さが感じられて面白い。
主役の孔明の変人ぶりもさることながら、脇を固める人物らのキャラクターもそれぞれ個性的で、久々にこんなに登場人物が魅力的な話を読んだな、と感じた。面白い本を読みたいな、というときにおすすめ。


「後宮小説」殿堂入り
“シンデレラ+三国志+金瓶梅+ラスト・エンペラー”の面白さ、と評された、輝かしき第1回ファンタジーノベル大賞受賞作。この茶目っ気と毒がたっぷりのいわゆる「ファンタジー」とは一線を画する作品を、作者があえてファンタジーノベル大賞に応募した、という、それだけでもう賞をあげたい気分になる。

あらすじはというと、前皇帝が崩御し、新皇帝の妃を集めるために素乾国(思いっきり中国っぽい仮想国らしい)で宮女狩り(妃募集)が行われる。応募者は女大学で講習を受けたのち、選ばれたものだけが後宮に残ることができる。田舎娘の銀河は「お妃になれば三食昼寝付き」と聞き、早速応募することにしたのだが…というもの。

何しろ、後宮といえば皇帝用のハーレム。お世継ぎを誕生させるのが最大の使命であるからして、女大学で教えることも房中術(いかに子をつくるか)が中心となる。このあたり、しらーっとした文体で平然と房中術について書き連ねている作者が想像できて面白い。
さらに、後宮は女性の子宮を模したもので、最初に応募者がくぐっていく長いトンネルが産道、月に一回応募者から脱落者が出るのを月経に見立てている、など、設定も練られている。

話は後半に向かうにつれてどんどん展開し、面白さを増していくのだが、この話にはさらにもうひとつの楽しみ方がある。この小説をアニメ化した「雲のように 風のように」(昔金曜ロードショーでたまにやっていた)を、これを読んでから見ると、子ども向けに性的な部分が見事なまでに削除されていて、それなのによく見ると読んだ人にはちょっぴりわかったりするので、アニメ制作者の苦労が偲ばれてなんとも面白い。


BGM:風をあつめて/はっぴいえんど