海の仙人 | ほんのにちようび

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心に残った本のあらすじと感想をつづります。

(時に映画、マンガ、音楽などについても)

著者: 絲山 秋子
タイトル: 海の仙人
新潮社 ★★★

[あらすじ]

銀座のデパートで働いていた河野勝男は、宝くじがあたったのを機に、仕事をやめて富山の海辺へと住み着いた。魚を釣ったり、島へ行ったりして悠々自適に過ごす勝男の前に、ある日「ファンタジー」という神があらわれる。勝男は相変わらずの生活を続けるうちに、一人の女性と親しくなるのだが、その女性はなぜかファンタジーを知っていて・・・。

私にとって初の絲山作品。勝手に「難しいんだろうなあ」「読みにくいんだろうなあ」という先入観を持っていたが、予想に反してものすごく読みやすかった。それどころか、読み終わったあとの余韻でしばらくぼうっとなってしまった。

登場人物はみな、どこか性別とか人間性を超越したところがあって(ファンタジーはもともと神だから当然なのだけれど)、でも、何かしらうまく泳いでいけない障害を抱えている。勝男は閉じた暮らしをしているけれど、デパート時代の唯一の友人である片桐という女性や、海で知り合ったかれんという女性、そしてファンタジーなどから、ゆるやかな好意を投げかけられている。

幸せってきっと、完全無欠なものではない。勝男のようにトラウマを抱えていたり、片桐のように届かぬ想いを持ち続けたりしていても実は身近なところに幸せがあって、でも、その幸せを失いかけるまでなかなか気がつかなかったりする。この話のなかで、ファンタジーは何の指針も示さないし、何の奇跡も起こさない。来てほしいと思うときにはやってこない。でも、彼がいる空間は、なぜだかうらやましい。

心を許せる人がそばにいる空間の、あの居心地の良さが文章になったような小説だった。

ちなみに・・・

文中で出てくる主人公、河野勝男のニックネーム「カッツォ・コーノ(注釈でイタリアの卑語と書いてある)」の意味が気になって調べてしまった。たぶんこれのこと?

http://ch.kitaguni.tv/u/2753/%A5%D6%A5%ED%A5%B0%C8%F7%CB%BA%CF%BF/0000097838.html

絲山作品は「イッツ・オンリー・トーク」も面白そうなので、次に読んでみようかな。

BGM:Moment Scale/Silent Poets