幸福な食卓 /瀬尾まいこ考 | ほんのにちようび

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心に残った本のあらすじと感想をつづります。

(時に映画、マンガ、音楽などについても)



著者: 瀬尾 まいこ
タイトル: 幸福な食卓  講談社 ★★★★★100冊入り!

[あらすじ]
「父さんは今日で父さんを辞めようと思う」、ある朝佐和子の父はそう宣言した。とはいえ、“元”父さんは父さんを辞めた後も家を出るわけでもなく、最近、大学へ進学するために勉強を始めた。神童として名をはせた兄の直も、今は農業の仕事を楽しんでいるようだし、母さんは別居をはじめてからおおらかで奔放になった。少し変わった家族だが、ここはそれなりにあたたかい。しかし、やがて梅雨の季節がやってきて、自分の家族に起こったある重大な出来事を佐和子はまた思い出してしまう…

来ました! 久々の大ヒット。
素晴らしい本に会えた日は、体の中から汚れたものが一掃されていくような、とても爽やかな気分になる。思えば、こういう瞬間に出会いたくて本を読んでいるようなものだ。

まず、この少し不器用な家族を淡々とつづったぬくもりのある文章がとても心地よい。そして、この人の小説全般に言えることだが、話の中に、いやな人や、“○○タイプ”と言い表せそうなステレオタイプ化されたつまらない人物が出てこないのもいい。どの登場人物も魅力的。主人公も等身大で、過度にエネルギッシュでも無気力でもなく、それなりに地に足がついた考え方をしていて好感が持てる。

そして、この人の描く愛はとてもあたたかい。それは必ずしも友情や恋愛感情、家族愛などというカテゴリーに押し込められたものではなく、そういう分類を超えた大きな愛が作品から感じられる。

彼女の小説は全部好きだが、この作品が一番、登場人物のセリフが素晴らしかった。誰でも生きていくなかで一度や二度、信じられないくらいの、まるで奇蹟のようにあたたかく優しい言葉をかけてもらう瞬間があるだろう。この本の中には、そんな大切な言葉がいくつも光っていた。

最後の章は、吉本ばななの傑作「ムーンライトシャドウ」(キッチンに収録)を想い起こさせる味わい深い作品。「ムーンライトシャドウ」との大きな違いは、「家族」の存在がこの主人公を優しく包み込んでいることだろう。

-------------------瀬尾まいこ 既読本-------------------

「天国はまだ遠く」新潮社 ★★★☆
 
[あらすじ]
自殺を決意し、誰も知らない町で最後を迎えようと旅に出た千鶴。やがてたどりついた山あいの村の民宿で最後の宿をとる。民宿のオーナーである田村は素朴な人柄で、彼と数日を共にするうちに千鶴はゆっくりと癒されていった…

仕事で追い詰められたことのある人はきっと、深く共感できる話でしょう。

猫:誰のことを言ってるんですの?

ご、ごほん。とにかく、この「田村」という登場人物がとても魅力的。田舎の情景もうまく描かれていて、特別な出来事が起こるわけでもないのに心に静かに響いてくる、雰囲気のある小説になっている。



「図書館の神様」マガジンハウス ★★★★

[あらすじ]
清、という古風な名前を持つ主人公は、あるアクシデント以来、傷ついた心をかかえて生きることになった。文学に興味もないのになんとなく高校の国語教師になってしまった清は、部員がたった一人の文芸部顧問までも任されてしまう。家へ帰っても不倫相手のケーキ職人を待つだけの日々だ。しかし、そんな暮らしも、彼女自身の成長によって少しずつ変わっていく・・・。

初めて読んだ瀬尾まいこの本。きっと盛り上がりに欠ける淡々とした話なんだろうなあ・・・と(失礼にも)期待せずに読み始めたが、予想外にあたたかく爽やかな読後感を残す本だった。たしかに物語は淡々と流れていくのだけれど、読み進めるうちにだんだん心地よい気分になっていくのがわかる。垣内君と清が図書館で交わす何気ない会話がとても心地よい。



「卵の緒」 マガジンハウス ★★★

[あらすじ]
表題作は自分は捨て子だと確信している育生と、マイペースな母、そして周りをとりまく人々がつむぐ優しい日々の話。同時収録の「7’s blood」は異母姉弟の七子と七生が、事情により突然同居することになる話。距離をはかりかねてぎこちなく接している二人に、ある大きな出来事が襲い掛かる…

デビュー作にしてすでに安定感のある、素晴らしい作品。子どもと大人の関わり合い方が、見ていてうらやましくなるほどにあたたかい。
余談だが、本作か「図書館の神様」のあとがきで、著者が同僚の先生のところへ食事に招かれたときの話を書いていて、それがまた本編に負けず劣らず、ぬくもりのあるいい話だった。

BGM:トレモロ/クラムボン