僕たちの戦争 | ほんのにちようび

ほんのにちようび

心に残った本のあらすじと感想をつづります。

(時に映画、マンガ、音楽などについても)



著者: 荻原 浩
タイトル: 僕たちの戦争
双葉社 ★★★☆
[あらすじ]
バイトはクビ、彼女とも最近うまくいっていない……。そんな冴えない日々を過ごしていた19歳のフリーター・健太は、鬱憤を晴らすべく、大好きなサーフィンをしに海へと向かった。しかし、そんな日に限って波を読み違え、意識を失ってしまう。しばらくして意識を取り戻した健太が見たのは、なんと昭和19年の農村風景だった。そして、同じ頃、健太が遭難した海岸には海軍の練習生、吾一が倒れていた。しばらくして二人は、自分が誰かと入れ替わってしまったことに気づく…。

どうやら、9.11のテロにインスパイアされて書かれた小説のようだ。
今井雅之主演で昔公開されていた映画「WINDS OF GOD」と設定が似ている。(WINDS OF GOD」は、現代のお笑いコンビが交通事故をきっかけに戦時中にタイムスリップしてしまう話。この映画も面白かった)この小説ではさらに、戦時中へタイムスリップした主人公と入れ替えに、戦時中から現代にやってきた日本人兵士、吾一が登場する。

入れ替わった二人の若者はなんとか自分の置かれた世界になじもうと、入れ替わった人物(つまり、健太は吾一に、吾一は健太)になりきることを決意するのだが、吾一が現代へ馴染もうとする過程での奮闘ぶりが面白い。「超~」「まじ」などの現代語を使おうとしておかしな言葉になってしまったり、突然健太になりきれない吾一の地が出てしまって、周りの人がうろたえるシーンがうまく描かれている。

例えば、今まですねかじりばかりして小言の対象でしかなかった健太に、父親が逆に小言を言われて目を白黒させる場面。
「食事をする時は、よそ見をせず、きちんと食べなさい」
「あ、すまん」
「干物を残すな。もったいない、頭も食え」
「……お、おお」
 これで皇国代理店だか興国内裏店だか
(管理人注:「広告代理店」という言葉は戦時中からやってきた吾一にはよく分からないので、勝手に当て字をして判断している)の営業部長という要職に就いているというのだから、笑止千万だ。
「仕事は順調なのかね?」
「まぁ、おかげさまで」
「それはなにより、励みなさい」


現代の無気力フリーターの典型として描かれている健太が、いきなりこんなことを言うのだから、親もさぞかし戸惑うだろう(笑)。

一方、健太は戦時下の軍隊という厳しい状況のなかで「死」と直面し、順調に成長を遂げていく。

そしてもうひとつ、この二人を結びつけるのがミナミという女の子。健太の彼女だったミナミは、吾一と入れ替わっているとも知らずに健太と付き合いを続けている。女性を知らない吾一はミナミの一挙一動にどぎまぎしながら、すぐに彼女に惹かれていく。一方、吾一と入れ替わっている健太は、時空を超えた遠い空の下でミナミを思い続けている。顔がそっくりという以外に共通点のない二人だったが、やがてミナミという女性に対する愛情を共有するようになり、ひとつの答えへとたどりつくのだ。

健太と吾一という二人の主要人物の心の動きが生き生きと描かれていて、面白さと読後の爽やかさを楽しめる、いい本だった。

BGM:イツナロウバ/KICK THE CAN CREW