10cm「愛に行く」(16)
「黄菜の気持ちはよくわかる。だけど前にも言ったように俺は遠距離恋愛を2回も経験して、どちらもうまく行かなかった。それに黄菜は東京で働いていて、俺は大学院を卒業したらニューヨークで働くつもりだし、そうなると年に何回会えるかもわからない。遠距離恋愛はそう簡単ではないんだよ。」
「...うん...」
”ジョンの言いたいこともわかってる。前の彼女たちと遠距離がうまく行かなかったことも知ってる。でもそれは自分に対してフェアーじゃない。前の彼女たちとうまく行かなかったかもしれないけど、私とはまだ遠距離恋愛をしたこともないのに、どうして最初からダメだと決めつけけるのはおかしくないか。”
ジョンに言い返したかったが、私の口はきつく閉じてしまった。
”はるばる日本から意を決して一人でニューヨークにやってきて、二人でこんなに楽しい時間を過ごしたのに…。”
「…もし今宿泊しているホステルに戻りたかったら、戻ってもいいんだよ。その方が今の黄菜にとって楽であれば…。」
うつむいたまま、じっと冷たい電車の薄く汚れた床を見ていた。
ガタン、ガタン…。ガタン、ガタン…。
レールの上を車輪が回転して進んでいく音が、更に2倍に膨らんでうるさく聞こえる。
一気に押し寄せてくる波のように、すぐに目の前がぼやけ始めた。感情をコントロールしようと必死に我慢し、どんどん顔が熱くなる。
”フェアーじゃない。フェアじゃない。フェアじゃない…。”
同じ言葉が頭を螺旋のように駆け巡る。
マンハッタンに近づくにつれ、各駅からどんどんと乗客の数が増す。
英語だけではなく、複数の言語で様々な会話が頭上を飛び交った。
私とジョンだけは口をつむったまま、電車の揺れを除いては微動だにしない。2人の間の長い沈黙は、ストレスと言えるほど重いものだった。
小さいころからそうだが、人の意見に反して自分の意見を発信するのが私は大の苦手だった。
特に討論の形式であれば、自分を正当化しようとお互いに感情的になり、主題とは関係ないことまで飛び出すこともある。
それは私の父に大いに関係している。
性格上、普段は温厚だが一度かっとなるとこちらがどう反論してもお構いなし。むしろ一つ反論すれば100の怒り、言い掛かり、更に侮辱や罵りさえ返ってくる始末である。
それを幾度も小さいころから経験してから、私は単に反論しないことを学習した。
黙って聞いて、頷いて、認めたふりをする。
全く健康的な解決策ではないが、これが自分に降りかかる災難を最小限に抑えられる唯一の方法だった。
そして今も自分の意見を直接ジョンの目を見て言いたかったが、数年かけて根付いた習慣がそうはさせなかった。
”ジョンはすぐ私の隣にいるのに、私と彼の心の距離は日本とアメリカほどかけ離れているようなものだ。このままでは引き下がれない。いや、引き下がりたくない。”
ガタン、ガタン…、ガタン、キキー。
「黄菜、ここで降りるよ。」
はっと我に戻ると、私は自分の両手を強く握りしめ、そこには三日月形の爪の跡が残っていた。
私は返答せず、ただジョンの後をついて沈黙電車から下車した。
「...うん...」
”ジョンの言いたいこともわかってる。前の彼女たちと遠距離がうまく行かなかったことも知ってる。でもそれは自分に対してフェアーじゃない。前の彼女たちとうまく行かなかったかもしれないけど、私とはまだ遠距離恋愛をしたこともないのに、どうして最初からダメだと決めつけけるのはおかしくないか。”
ジョンに言い返したかったが、私の口はきつく閉じてしまった。
”はるばる日本から意を決して一人でニューヨークにやってきて、二人でこんなに楽しい時間を過ごしたのに…。”
「…もし今宿泊しているホステルに戻りたかったら、戻ってもいいんだよ。その方が今の黄菜にとって楽であれば…。」
うつむいたまま、じっと冷たい電車の薄く汚れた床を見ていた。
ガタン、ガタン…。ガタン、ガタン…。
レールの上を車輪が回転して進んでいく音が、更に2倍に膨らんでうるさく聞こえる。
一気に押し寄せてくる波のように、すぐに目の前がぼやけ始めた。感情をコントロールしようと必死に我慢し、どんどん顔が熱くなる。
”フェアーじゃない。フェアじゃない。フェアじゃない…。”
同じ言葉が頭を螺旋のように駆け巡る。
マンハッタンに近づくにつれ、各駅からどんどんと乗客の数が増す。
英語だけではなく、複数の言語で様々な会話が頭上を飛び交った。
私とジョンだけは口をつむったまま、電車の揺れを除いては微動だにしない。2人の間の長い沈黙は、ストレスと言えるほど重いものだった。
小さいころからそうだが、人の意見に反して自分の意見を発信するのが私は大の苦手だった。
特に討論の形式であれば、自分を正当化しようとお互いに感情的になり、主題とは関係ないことまで飛び出すこともある。
それは私の父に大いに関係している。
性格上、普段は温厚だが一度かっとなるとこちらがどう反論してもお構いなし。むしろ一つ反論すれば100の怒り、言い掛かり、更に侮辱や罵りさえ返ってくる始末である。
それを幾度も小さいころから経験してから、私は単に反論しないことを学習した。
黙って聞いて、頷いて、認めたふりをする。
全く健康的な解決策ではないが、これが自分に降りかかる災難を最小限に抑えられる唯一の方法だった。
そして今も自分の意見を直接ジョンの目を見て言いたかったが、数年かけて根付いた習慣がそうはさせなかった。
”ジョンはすぐ私の隣にいるのに、私と彼の心の距離は日本とアメリカほどかけ離れているようなものだ。このままでは引き下がれない。いや、引き下がりたくない。”
ガタン、ガタン…、ガタン、キキー。
「黄菜、ここで降りるよ。」
はっと我に戻ると、私は自分の両手を強く握りしめ、そこには三日月形の爪の跡が残っていた。
私は返答せず、ただジョンの後をついて沈黙電車から下車した。