進化する人工細胞 と Pontificia Academia pro Vita | 安濃爾鱒のノート

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これは web log ではありません。
なんというか、私の「ノート」です。

 Johann Wolfgang von Goethe (ゲーテ) の homunculus (ホムンクルス) というと、今では、一般には、Der Zauberlehrling (「魔法使いの弟子」)の方、それも、ディズニーのミュージカルアニメ映画 "Fantasia" (「ファンタジア」)で、ミッキーマウスが演じていた魔法使いの弟子が師匠の留守中に、未だ拙い魔法で古い箒を下僕に変えて働かせて楽しようとしたら大変なことに・・・というシーンの方が世界的に有名であるが、元々は、Goethe (ゲーテ) の homunculus (ホムンクルス)といえは、Faust (ファウスト) の中の、人造人間の話であ安濃爾鱒のブログ-Mad Scientist ろう。こちらの homunculus の話は、ミッキーのかわいらしいものなんかではなく、おどろおどろしいイメージ、日本で言うと、京極夏彦が描くような、典型的な Mad scientist (マッドサイエンティスト)の世界のである。

 

 ところで、約1ヶ月前、こんなニュースが世界に発信されている。

 

 阪大、世界で初めて進化の機能を持った人工細胞の作成に成功
  ~人工細胞でRNAが複製し、突然変異が蓄積、進化
            (2013/10/7 13:36)

 

 大阪大学大学院情報科学研究科の四方哲也教授の研究チームは3日、JST課題達成型基礎研究の一環として、進化する機能を持った人工細胞の作成に世界で初めて成功したと発表した。

 同チームは、RNAからRNAを複製する酵素の遺伝子がコードされた人工ゲノムRNAを、数十種類のたんぱく質を含む水溶液とともに油の中で激しくかき混ぜ、直径約2μmの細胞状の水滴として油中に分散させた。この細胞状の各水滴を37℃で反応させると、RNAゲノムにコードされた遺伝子から複製酵素が翻訳され、その酵素は元のゲノムRNAを複製することを見いだした。

 

 これを見たとき、欧米人、特にバチカンなどは、

  Mad scientist が、homunculus を作ろうとしている

と、大騒ぎするだろうな、と思っていた。

 もしかしたら、これは、クローン技術なんかよりよっぽど凄い事、従って、非常に深刻な倫理問題に発展するかもしれないのではないか、と私は思うのである。

 ところが、これについて、バチカン、正確に言うと、バチカンにおける、この手の問題の担当部署である
   Pontificia Academia pro Vita

 ( ローマ法王(教皇)庁の生命科学アカデミー )

 ( Pontifical Academy for Life / Pontificia Accademia per la Vita )

は、それから1ヶ月たった今まで、何の声明も出していない。


安濃爾鱒のブログ-Galileo Galilei 私は、別に、阪大の四方哲也教授たちが、17世紀の Galileo Galilei のように、狂気のキリスト教徒たちによって酷いめにあわされることを望んでいるわけではないが、今の Pontificia Academia pro Vita は、いい仕事もしていて、そして、こういう仕事をしている組織は他にはない -もしかしたら日本にそういうことを担当することになっている組織があるのかもしれないけど、どーせ「原子力安全・保安院」みたいなものでしょ- ので、ここがこの件について何もしないということは、この研究について、地球上、誰も、チェックしていないということになるから、それでいいのかな?と、ちょっと思ったのである。

 

 もしかしたら、バチカンは、この研究に口を挿むと、「バチカンが今まで進化論を否定していたのは間違いであった」ということを認めなければならなくなることの方を心配して、この研究に触れたくはないのだろうか?進化論を認めない以上、この研究は、肯定的にも否定的にも評価できなくて、無視するしかないのだろうか?