#がん治療研究
標的α線治療薬アスタチンを用いた新しいがん治療の安全性・有効性を確認 難治性甲状腺がんへの医師主導治験を実施/理化学研究所
●体内から放射線照射
●標準治療で効果が無い甲状腺がん11名での試験→3名で転位病変消失、別の3名で腫瘍マーカー1/2に 他

https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2025/20251007_1

【記事の概要(所要1-2分)】
大阪大学と理化学研究所の研究チームは、これまで治療が難しかった甲状腺がんに対して、新しい放射線治療薬「アスタチン」を使った世界初のヒト臨床試験を行い、安全性と高い治療効果を確認しました。

アスタチンは、体の中から放射線を放つ「アルファ線治療薬」です。従来の放射性ヨウ素(¹³¹I)治療と似た仕組みですが、アルファ線はごく短い距離しか飛ばず、そのぶんエネルギーが非常に高いのが特徴です。そのため、がん細胞だけを正確に攻撃し、周囲の正常な細胞へのダメージを最小限に抑えることができます。

今回の治験では、標準治療でも効果が出なかった甲状腺がん患者11人に単回投与を実施。その結果、重い副作用は見られず、安全に使用できることが確認されました。さらに中〜高用量を受けた患者のうち3人で腫瘍マーカーが半分以下に下がり、別の3人では転移した病変が画像上で完全またはほぼ消失しました。従来の治療が効かなくなった患者にも効果を示した点は、世界的に注目されています。

アスタチンは国内の加速器で製造でき、輸入に頼る必要がない点でも大きな利点があります。今後は大阪大学発のスタートアップ「アルファフュージョン株式会社」が企業治験を進め、実用化を目指します。専用の隔離病室が必要な放射性ヨウ素治療と違い、外来で投与できる「通院型のがん治療」となる見込みで、患者への負担も軽減されます。

この技術が確立すれば、甲状腺がんにとどまらず、他の固形がんにも応用できる可能性があります。国産の最先端治療として、アスタチンによる「標的アルファ線治療」は、日本発の新しい希望の光として、がん治療の未来を大きく変える一歩となりそうです。

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今回、大阪大学と理化学研究所の研究チームは、アスタチンをナトリウム化したものを使い、標準治療で効果が十分に得られなかった分化型甲状腺がんの患者さんを対象に、世界初となるヒトでの医師主導治験を実施しました。

2022年から2024年にかけて11名に単回投与を行い、半年間の経過観察の結果、投与直後に一時的な吐き気などはみられたものの重い副作用は認められず、安全に投与できることが確かめられました。
効果は上の通りですが、これまで効きづらかった患者さんに変化が現れたことは、臨床現場にとって明るい材料といえるでしょう。

この治療の注目すべき点として、将来的に外来での投与が視野に入っているということです。

従来の治療では、周囲への放射線管理のため専用病室での入院が必要でしたが、アルファ線は飛程が極めて短いため、隔離環境を必ずしも要しない可能性があります。

加えて、日本国内でアスタチンを製造できることも重要です。
従来型が海外原子炉に大きく依存しているのに対し、国内で安定供給体制を築ける見込みがあり、理研と大阪大学の連携に加え、新型加速器の導入で量産体制が整えば、全国の医療機関へ届けるためのネットワーク構築が現実的となってきます。

もちろん、今回の結果は初期試験としての安全性確認と有効性のシグナルであり、効果の持続期間や最適な投与量、繰り返し投与の妥当性、他の治療との組み合わせなど、今後の企業治験で丁寧に検証されていくことになります。

それでも、がん細胞だけに効果を発揮するというアルファ線の特性は、甲状腺がんにとどまらず、他の固形がんにも応用可能性を広げます。

ヨウ素を目印にする現行の仕組みから、抗体やペプチド、低分子など、がん特異的に集まる“運び手”を使い分ければ、標的が増えるほど治療の出番も増えていくはずです。

入院を前提としない放射線治療+正常組織への影響を最小限に抑えた内側からの狙い撃ち+国産製造による安定供給
という三つの柱がそろえば、治療をあきらめないための一手が確かな形を持ち始めます。

現状はまだ道半ばですが、すでに見えてきた手応えは小さくありません。
この日本発の挑戦が、日常の外来で受けられる治療として根づいていく未来を期待します。