つりぼり十番勝負≪FO編≫⑤
『イトウ』 (Wikipedia)
今両腕で支えたネットの中には確実に「そいつ」が蠢いているのでした。
直径40センチのネットの枠に体を折り曲げて収まっているところを見ると、おそらく50センチをやや下回るところでしょうか。この感激と感動を伝えなくてはならない人物………
そう。
対岸で釣果の下がった状況と寒さでイヤな唇の色になった「パックン」(「俺左利きだからよお!」ととうとう自動改札にまで噛みつく昭和の遺産)に他なりません。
目を向けると、今まで気になって見ていたくせに
「べ、べつに見てねえよ…」
を気取りたいのか瞬時に目を逸らす、チッチャい「三平師匠」……「三ペイペイ」が見えました。
ネットを水辺より掬い上げて対岸へと向かいます。
「師匠!!…これっ!」
「え?…何よ?」
わざわざ持ってくるなと言わんばかりの素っ気ない態度です。
「『イトウ』釣ったっす!!」
「ええっ!?」
やはり「イトウ」と言う響きに驚いたようです。
すぐさまロッドを置き駆け寄って来ます。
「うわっ!すげえっ!!」
釣り上がった「イトウ」を肉眼で見るのは「三平師匠」も初めてのはず。自分の事のように喜んでくれています。
「写メ、写メっ!五平、逃がすんじゃないよっ!」
さすがにこのサイズをネットで持っているには両手が離せません。
「『カシャ』…よし、もう一枚は魚メインで……『カシャ』…よしっ!」
「あざっす!!」
長い間捕まえていては魚が弱ってしまいます。写メもおさえたのでここはリリース。
人生初の「イトウ」はゆっくりとポンドの中央へ戻っていきました。
「いやいや、やられたなあ…。」
と、それでも「イトウ」を釣った事を褒めてくれる「三平師匠」。まんざら悪い人ではないんだと思いました……………この時は。
その後、段々と下がって行く釣果と気温。冷たい雨も落ちてきました。
一日券のないこの管理釣り場で最長時間券の6時間ももう少しで終わります。
横に立つ「三平師匠」。おそらくあの台詞を言うんでしょう。
「もう一時間…いっとく?」
予想通りです。
もちろん快諾し今までの釣果を聞いてみました。「射程圏」です。朝一で一気に二桁の釣果を出すも、その後全く釣れなくなった「三平師匠」に対して、こちらは徐々に調子が上がってきています。更に、人生初「イトウ」のオマケ付き。
この勢いをもってすれば、久々の「タイトル奪回」も………… 延長を決めて間もなく、激しくなってきた雨に雨具を着込みますが、
「何か…「雪っぽく」ね?」
「五分後」
「………「雪」だな。」
完全に雪となった空模様。釣りを始めてやっと一年目の二人は雪の状況も初体験です。
手探りで何とか釣果を………………………………………………
終了。
《管理釣り場『FO』の結果》
パックン 15 匹
わたくし 12匹
規定により
『釣りキチ 三平』・パックン
「釣りキチ 五平」・ぢゅんぢょヴィ
追いつかない……がしかし、
「いやあ「イトウ」が入ってるからなあ…勝った気しないや…」
と「三平師匠」も言うように、わたくしも何だかゴキゲンで管理釣り場を後にしたのでした……………… この時までは。
<終わると見せかける>
つりぼり十番勝負≪FO編≫④
「ジジーッ!!ジー…ジジジ……ジーッ!!」
大きく鳴り続けるわたくしのドラグ。
いくらリールで糸を巻こうにもどんどんと糸が送り出されてしまいます。
「スレ」なのでしょうか?
管理釣り場では魚の数が多い為、時折魚の体に針が刺さってしまう事がままあるのです。背鰭などに掛かってしまうとなかなか上げる事が大変です。
しかし今回は最初のアタリが今までの魚とは違えど「スレ」ではないとわたくしは確信がありました。
ここは慎重にと必死にバレない事だけを考えておりました。
巻けども巻けどもなかなか寄って来ない魚影。ポンドの真ん中を縦横無尽にわたくしのドラグを鳴らせながら泳いでいます。このままでは周りのアングラーに迷惑がかかってしまいます。
糸を出す量を少なくして早く取り込めばと思われるでしょうが、「管釣り」は魚に見切られないようとても細い糸を使用しています。「釣りキチ五平」のわたくしは太めの糸ですが焦ってここでドラグを締め(糸を出す量を少なくする)過ぎて糸を切られては元も子もない。
すると何とか近づいて来た魚はわたくしの前で急に右側へ、「キムタク師匠」の方へと勢いよく方向を代えて泳いでいきます。このままでは「キムタク師匠」へ「恩を仇で返す」結果になりかねません。チラリとみたところ「キムタク師匠」は既にキャスティングに入ってしまっています。「お祭り(人の糸と絡んでしまう事)」どころかトンでもない事になってしまう……
すると「キムタク師匠」はわたくしの気配を察知し、大きく腕を上げてロッド(竿)を立てこちらにやって来ました。
そしてとても優しい声で、
「どうぞ。」
自分の糸の下をくぐり抜けてトラブル回避しようと導いてくれるのでした。
「す、すいませんっ!」
頭を下げようにも魚とのバトルは進行中。更にリールを巻き続けます。
またしても魚は方向転換し、元の位置へと戻ろうとします。しかしながら流石の「キムタク師匠」。既にルアーは巻き終わって、わたくしの後ろを通って元に戻ろうとしてくれています。
なんと言うスマートな行動なんでしょう。
そしてやっとの思いで岸辺へと魚を近づけそろそろネットの出番かと思いきや、最後の力を振り絞ったのか、またしても「キムタク師匠」の方向へ行ってしまいました。
しかしながらわたくしとのファイトでポンドの中央へと戻ろうとする力は残っていないようです。「キムタク師匠」の前を通り過ぎる魚。
すると「キムタク師匠」はイケてるサングラスの下、爽やかな白い歯を覗かせて呟くのです。 その口の動きから瞬時に何のことか悟ったわたくしも顔いっぱいに広がる笑みを隠せませんでした。
左手に握ったネットに導いた「それ」。
わたくしはすぐさま「キムタク師匠」に言いました。
「すいません!ありがとうございましたっ!」
今度は深々と頭を下げて。 するとニッコリ微笑みながら
「いえいえ、おめでとうございます!」
と「キムタク師匠」。
この人になら抱かれても良いと思いました。
<止まない>
