つりぼり十番勝負≪FO編≫④ | human being

つりぼり十番勝負≪FO編≫④

「ジジーッ!!ジー…ジジジ……ジーッ!!」


大きく鳴り続けるわたくしのドラグ。

いくらリールで糸を巻こうにもどんどんと糸が送り出されてしまいます。

「スレ」なのでしょうか?


管理釣り場では魚の数が多い為、時折魚の体に針が刺さってしまう事がままあるのです。背鰭などに掛かってしまうとなかなか上げる事が大変です。

しかし今回は最初のアタリが今までの魚とは違えど「スレ」ではないとわたくしは確信がありました。

ここは慎重にと必死にバレない事だけを考えておりました。


巻けども巻けどもなかなか寄って来ない魚影。ポンドの真ん中を縦横無尽にわたくしのドラグを鳴らせながら泳いでいます。このままでは周りのアングラーに迷惑がかかってしまいます。

糸を出す量を少なくして早く取り込めばと思われるでしょうが、「管釣り」は魚に見切られないようとても細い糸を使用しています。「釣りキチ五平」のわたくしは太めの糸ですが焦ってここでドラグを締め(糸を出す量を少なくする)過ぎて糸を切られては元も子もない。


すると何とか近づいて来た魚はわたくしの前で急に右側へ、「キムタク師匠」の方へと勢いよく方向を代えて泳いでいきます。このままでは「キムタク師匠」へ「恩を仇で返す」結果になりかねません。チラリとみたところ「キムタク師匠」は既にキャスティングに入ってしまっています。「お祭り(人の糸と絡んでしまう事)」どころかトンでもない事になってしまう……




すると「キムタク師匠」はわたくしの気配を察知し、大きく腕を上げてロッド(竿)を立てこちらにやって来ました。

そしてとても優しい声で、


「どうぞ。」



自分の糸の下をくぐり抜けてトラブル回避しようと導いてくれるのでした。


「す、すいませんっ!」


頭を下げようにも魚とのバトルは進行中。更にリールを巻き続けます。

またしても魚は方向転換し、元の位置へと戻ろうとします。しかしながら流石の「キムタク師匠」。既にルアーは巻き終わって、わたくしの後ろを通って元に戻ろうとしてくれています。

なんと言うスマートな行動なんでしょう。


そしてやっとの思いで岸辺へと魚を近づけそろそろネットの出番かと思いきや、最後の力を振り絞ったのか、またしても「キムタク師匠」の方向へ行ってしまいました。

しかしながらわたくしとのファイトでポンドの中央へと戻ろうとする力は残っていないようです。「キムタク師匠」の前を通り過ぎる魚。

すると「キムタク師匠」はイケてるサングラスの下、爽やかな白い歯を覗かせて呟くのです。 その口の動きから瞬時に何のことか悟ったわたくしも顔いっぱいに広がる笑みを隠せませんでした。


左手に握ったネットに導いた「それ」。

わたくしはすぐさま「キムタク師匠」に言いました。


「すいません!ありがとうございましたっ!」


今度は深々と頭を下げて。 するとニッコリ微笑みながら


「いえいえ、おめでとうございます!」


と「キムタク師匠」。





この人になら抱かれても良いと思いました。



                                                  <止まない>