野蛮で優雅。


SAVAGE GRACE


LAの4人組。Gのクリスチャン・ロウグを中心に、Bのブライアン・イースト、Drのダン・フィンチ、そしてランディ・ローズの兄、ケル・ローズをVoとして81年に結成される。
当時はまだMARQUIS DE SADEと名乗っていたが、Voをケルからドワイト・クリフに替わったのを機にバンド名もSAVEGE GRACEとした。
ケルは後に自らのバンド、RHOADSを結成、アルバムも出している。そこでDrを叩くのは元MEGADETHのニック・メンザだ。

83年にMETAL BLADEの新人バンド発掘シリーズ、METAL MASSACREのIIに参加、その後Voのドワイト・クリフがクビになりジョン・バークが加入、さらにセカンドギタリストとしてケニー・パウエルが加わって5人編成となった。
そして同年、5曲入りミニアルバム「THE DOMINATRESS」でデビューする。


THE DOMINATRESS


当時のLAメタル主流の音に比べるとかなり激しい音で、ヘアメタルな軽薄さはなくヨーロッパ寄りのパワーメタルをやっている。根元にNWOBHM、そしてMAIDENやJUDASがあり、あの時代のアメリカに常にいたUS正統派メタルの典型的なタイプだが内容はそれなり、どこにでもいるようなバンドで悪くはないがまだまだ。



地元でライブをこなすが、新たに加わったジョンとケニーが相次いで脱退、再びメンバー探しに時間を費やされる。
ケニー・パウエルはOMENを結成する。OMENはアメリカのIRON MAIDENと日本でも話題になった。

オーディションによってVoにマイク・スミスが加入。
84年に1stフルアルバム「MASTER OF DISGUISE」を発表する。ヨーロッパではフランスのBLACK DRAGONからの発売。


MASTER OF DISGUISE


よりドラマティックなヨーロピアンパワーメタルへと進化した彼らはヨーロッパで歓迎され、話題になって結構売れたようだ。
しかしまあ、趣味の悪いジャケだなぁ。SPINAL TAPも真っ青。SAVAGE GRACEのジャケはだいたい皆こんなんだ。女性蔑視的な。クリスチャン・ロウグの趣味だろうか?
それでも内容は素晴らしい、力のこもった良い作品でUS正統派メタルの名盤として知られる。



なかなか名盤だった、次が出るまでは。
新たにセカンドギタリストとして、元AGENT STEELのマーク "チェイス" マーシャルを迎えてヨーロッパツアーに備える。このころヨーロッパでの人気が高くなっていた。
そしたらなんと、これからという時にVoのマイク・スミスが突然脱退。すでにツアーの日程が組まれ、そこには大規模なフェスティバルもあったという。キャンセルなど出来ない。絶望的な状況の中、クリスチャン・ロウグは自ら歌うことを決意、ツアーを敢行し、それを無事に終えている。

86年にDrのダン・フィンチが脱退、マーク・マーカムが加入。2ndフルアルバムを86年に発表する。


AFTER THE FALL FROM GRACE


強力無比!!とんでもねぇ!!
恐ろしいアルバムを出してきた。かなり良かった前作がク◯アルバムに聴こえるほどの超強力作。
クリスチャン・ロウグが歌うことによって、全くの別次元のバンドになった。まっすぐ伸びる素直で優しい声、それがドラマティックなSAVAGE GRACEの音楽にバッチリハマった。(少々音程が怪しいが)もちろん楽曲の質も数段レベルアップしている。捨て曲なし。

不協和音的ツインギターのイントロで幕を開け、そのまま "We Came, We Saw, We Conquered" へなだれ込む様は圧巻。激烈なパワーメタルに明るいメロディを持ち込むことに成功、しかもそこに違和感や幼稚さ、おちゃらけた部分は一切なく、そういう意味ではHELLOWEENなどのジャーマン系を上回っているように思える。
メロディアスなUSパワーメタルということでHEATHENの1stに近い感覚だが壮大さではこちらのが上、個人的には百万倍好きだ。悲壮感漂う勇壮さ、ヘタウマなクリスが歌うことによって、偶然にその絶妙のバランスを保つことが出来たのかもしれない。

4曲目の "Trial By Fire" などはスラッシュバンドも裸足で逃げ出す迫力、マーク・マーカムのドラムが見事、中間部のギターソロから強烈なタム回しへ、そして「1、2、3、4!」のカウントによって刻まれるギターリフ、一瞬、真空状態を感じるような、曲の良さとともにそのドラミングに圧倒される。
B面に入っても曲の質は落ちることなく、いやむしろ上がっている、どの曲も泣けてくるようなメロディに溢れている。激しさの中に優しさ、悲しみの中に希望が見えるような、そんな切ない感覚を彼らの音楽に感じる。"Destination Unknown" が良い曲すぎて泣ける。
マイナー系にしては音質も良い。メタル好きを自認するなら死ぬまでに必ず聴くべき1枚。



このアルバムは日本盤も発売された。VAPがメタル系を出していた時期、EXCITERの4th、ウェンディ・O・ウィリアムズの2ndなんかが同時に出ていた。

USメタル史に残る必殺のアルバムを引っさげ、これからの活躍を期待されたが、その後の彼らの活動は徐々にフェイドアウトしていく。「GERMAN EP」というミニアルバムが出るというニュースを見たが一向に発売されない。日本盤も出る予定だったが中止。
ようやく87年、タイトルも「RIDE INTO THE NIGHT」となって登場。


RIDE INTO THE NIGHT


ピクチャーディスク。4曲入りEP。
がっくりと肩を落とす。あの名作はなんだったんだろう。単なる奇跡だったんだろうか?つまらない作品。音質も悪い。
1曲目はまあまあ。2ndの後と思わなかったらオリジナル3曲は決して悪くない。4曲目はパープルのカヴァー。こんな酷い "Burn" は聴いたことないよ。最悪。この内容では日本盤が流れたのも理解出来る。
「GERMAN EP」という仮タイトルは、ドイツのレーベルからの発売だったからなのだろう。

ブライアン・イーストも去った。Bには新たに元HEIR APPARENTのデレク・ピアースが加入していた。HEIR APPARENTもBLACK DRAGONからデビューしたQUEENSRŸCHE型のバンドだった。
ブライアンは日系人だったのかな?



間違いなくアジア系の血が入っている顔に見える。
そのままバンドは消滅。

奇跡的なアルバムを残して消えたSAVAGE GRACE。
そのSAVAGE GRACEというバンド名。対極にある言葉を組み合わせた良いバンド名、そしてそれは2ndのイメージにこそふさわしい。一見、悪趣味だが「AFTER THE FALL FROM GRACE」というタイトルを表すこのジャケにも、もの悲しさを感じる。
あのときの彼らは神懸かっていた。不運さえ味方にし、全てがプラスに作用したかのような作品を生み出した。そこには間違いなく神の恩恵があったのだろう。

NEW RENAISSANCEからのオムニバス、「SPEED METAL HELL」と「CALIFORNIA'S BEST METAL」にその名がある。「SPEED METAL HELL」は見つからなかったが「CALIFORNIA'S BEST METAL」はあった。


CALIFORNIA'S BEST METAL


85年、SAVAGE GRACEは "Betrayer" で参加、B!のレビューで「なにがベストメタルだ!」と、マサ伊藤がこき下ろしていたのを思い出す。

調べたら再結成してるらしい。クリスがいたらSAVAGE GRACEは成り立つよ。頑張ってほしい。もう一度あの奇跡を呼んでくれ。



"Call To Arms / We Came, We Saw, We Conquered"


"Trial By Fire"


"Destination Unknown"


長年、忘れ去られた存在だったが今年、彼らのアルバムが再発された。


MASTER OF DISGUISE+THE DOMINATRESS


AFTER THE FALL FROM GRACE+RIDE INTO THE NIGHT

この再発CD、なんか最初の音がおかしい。一瞬、回転数を間違えたみたいな感じになってる。今、レコードと聴き比べてみたら1音目の立ち上がりが明らかに違う。
それでも「AFTER~」は聴いといたほうがいい。「RIDE~」も一緒になってるから、期待した当時のメタル者の落胆ぶりまでも伝わると思う。
それ以外のボーナストラックは聴く価値なし。これホンマにSAVAGE GRACEか?同じバンドとは思えん。極初期のデモということで資料的価値のみ。