【連載・第1回】「おめでとう」という名の混乱
――コーチからの、あまりに無神経な第一声
それは、私が大学受験を目前に控えた、高校3年生の1月のことでした。
受験生にとって、1月はまさに正念場。追い込みの真っ最中で、
正月気分など微塵もありません。
そんな時、私の自宅に一本の電話がかかってきました。
相手は、W大バレー部のHコーチでした。
受話器を取った私に、彼はこう言いました。
「おめでとうございます!」
私は一瞬、頭が真っ白になりました。
「えっ、もしかして特待生か何かで、もう合格が決まったのか?」
そんな制度はないはずなのに、あまりに明るい声だったので、
そう勘違いしてしまったのです。
しかし、現実は違いました。彼はただ、「あけましておめでとう」
という意味で言っただけだったのです。
この時期の受験生が、合格以外の「おめでとう」という言葉にどれほど敏感で、
どれほどその言葉が重く響くか。彼はそんなことにはお構いなしでした。
電話の内容はこうでした。
「勉強で忙しいだろうけど、気晴らしにW大の体育館でバレーをするから、遊びに来ないか?」
私は、本当にただの「気晴らしの誘い」だと思っていました。
しかし、これこそが実は「セレクション(選抜テスト)」への誘いだったのです。
なぜ、最初から「君のプレーを見たいから、テストを受けに来てほしい」--(バレーボール)
と正直に言わないのか。意図を隠したまま、相手の都合も考えずに誘い出す。
この、相手の立場への想像力を欠いた「言葉の軽さ」と、
物事をはっきり言わない「不透明なやり方」。
これが、その後の4年間にわたる、Hコーチとの相容れない関係の幕開けでした。
