一年の汚れを落とし、清々しく新年を迎えようとする仕事納めの午後。
オフィスでは14時を過ぎると、恒例の大掃除が始まるのが常だった。
バケツに水を汲み、冷たさに息を呑みながら雑巾を絞る。
机をずらし、手の届かない隅々の埃を払う。
そんな賑やかな活気の中で、一人だけ決して輪に加わらない上司がいた。
実務などほとんど残っていないはずの年の瀬、彼は一人デスクに居座り、
険しい顔で受話器を耳に押し当てている。
あるいは、広げた書類に目を落とし、
いかにも「多忙な管理職」を演じているようだった。
「課長って、いつもこれですよね。なぜ掃除しないんでしょう」
手を休めた女子社員が、私の横で小声でこぼした。
現場の目はいつだって鋭い。誰が泥臭い汗を共にし、
誰が体裁を取り繕って逃げているか、誰もがとっくに見抜いていた。
一段高い場所に身を置き、雑用で手を汚すまいとする頑なな背中。
だが、架空の用事で受話器を握りしめながら、
彼は一番大切な「信頼」というものを手からこぼしていたのかもしれない。
大掃除が終わり、ピカピカに磨かれたオフィスで仲間と互いを労い合いながら、
私は心に誓ったものだ。
「どれほど立場が変わろうとも、自分は仲間と共に雑巾を絞れる男でありたい」
あれから長い年月が流れた。
今となっては懐かしい、一年の終わりに受け取った小さな教訓である。
