ホスピタリティ | 「避難所ウォ-カー」

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…   東日本大震災・ボランティア活動体験記

「そうか・・・ホスピタリティなんだ・・・」


僕がそう呟いたのは、Yさんに関する記憶が関係している。


十数年前、新潟県に勤務し、国際交流関係の業務を行う部署に在席していた際、同じ係にいた先輩がYさんだった。

あるとき、県費留学生として受け入れている東南アジアからの研修生から、住居トラブルに関する連絡があり、ちょうどその日、本来の留学生事務担当者が休暇を取っていたため、その代理として、Yさんと僕が、留学生のアパートまで出向くことになった。


ちなみにトラブルといっても大したことはなく、わざわざ二人で出かけるほどのこともない程度のことだったのだが、何かあったときのために複数で行動を、という上司の配慮により、僕はYさんのお伴として、ただ単に随行させてもらったようなものだった。

アパートに到着し、留学生、といっても30歳を過ぎている技術研修生から住居トラブルの状況を聴き、当面の応急対策を講ずるとともに今後の対応を話し合い、一時間ほどでYさんと僕は帰路に着いた。


その帰路で、Yさんは何かを考えていたようだが、ポツリポツリと口にした。


「オレさ、今日はじめてあの研修生に会ったけど、もう結構な年だよな。それでも技術を学ぶためなのか、家族を残して単身で来日して・・・、仕方ないんだろうけど、あんな不便な独身学生向けみたいなアパートで一人暮らしして。苦労してんだろうな」


Yさんは、研修生の暮らしぶりを目の当たりにし、当時まだ若年だった僕などでは考えが至らぬ点に思いを巡らせていたようだった。


「来る方も覚悟して来てるんだろうけど、受け入れる方だって、精一杯の気持ちで対応しないと駄目なんだよな。物とか書類じゃなくて、人が相手なんだからさ。今日だって、担当は休み取ってたけどさ、本当は休み取ってる場合じゃねえんだよ。留学生が日本で頼りにできるのは、受入窓口だけなんだから、ホスピタリティの心で接してもらいたいよな」


休みも取れないと言われては担当者も気の毒だが、Yさんの発言を耳にした僕は、そのことよりも「ホスピタリティ」という耳慣れない言葉の方が気になっていた。


(つづく)