NEW YORKにて
本日、ニューヨーク入りしました。雪が降っています。予定していたフライトだと下手したら今日中に辿り着かなかったかもしれませんが、天気が悪くなりそうだったので一便早いフライトに変更して正解でした。お蔭で、日曜までで一旦終了してしまう期間限定のブロードウェイ公演で、アル・パチーノ主演の『ヴェニスの商人』の当日券を劇場ボックスオフィスでゲットできました。土日分はすでに完売なので、唯一のチャンスだったわけです。……ただし、さきほど観終わった帰ってきたところなのですが、内容的には大いに不満がありました。パチーノは映画版でもシャイロックを演じていましたから適役なのは判りきっているのですが、彼一流のエモーショナルな演技と、それ以外のキャストのドタバタ・コメディ的な演技とがいまひとつ噛み合っていなくて、明らかに演出の迷走という感じを受けました。舞台装置がモダンになっていて、時代設定を幾分あとの時代に変えている(今、出先なので手元に情報がなくて正確な設定年代は原作・今回の舞台版ともにわかりませんが)ことを含めて、かなりシェイクスピアの原作を改変している印象を受けたのですが、それがあまり良い方向に作用しなかった感じです。パチーノの映画版はもっとオーソドックスでしたし、20年ほど前にやはりプロードウェイで観たダスティン・ホフマンのシャイロック版が役者の衣装から演出に至るまで正統派だった印象が強いので、今回はやや奇をてらいすぎて墓穴を掘っている感じが否めませんでした。アル・パチーノは舞台だと本当に半径10メートルくらいの空気を変えてしまうような磁力を持っている人ですが、これもやはり10年くらい前に観た『ヒューイ』などと比べると観客の目をくぎ付けにしてしまうような緊張感のある演技から、今回はやや予定調和的なところに収まってしまっている印象で、「ニューヨーク・タイムズ」の劇評でパチーノの演技は今シーズンの白眉と書いていたのが白々しい感じさえしました。……と、やや辛口なことを書きましたが、やはり普段映画でしか接していないような超一流の俳優の生の演技に接することができるのはやはりニューヨークのいいところで、今回はこのあともヴァネッサ・レッドグレイヴとジェームズ・アール・ジョーンズ主演の『ドライビング・ミス・デイジー』のチケットを購入済みなので楽しみです。
さて、実はデニス・ホッパーも生涯でただ一度だけブロードウェイの舞台に立ったことがあります。それは(確か)1961年に上演され、ほんのわずかな公演で終了してしまった『マンディンゴ』という芝居で、ヒロイン役を演じたブルック・ヘイワードとデニスが結婚するきっかけとなった舞台です。ブルック・ヘイワードは舞台プロデューサーのリーランド・ヘイワードと映画女優マーガレット・サラヴァンの間の娘で、映画プロデューサーになったビル、若くして自殺したブリジットとの三人兄弟でしたが、サラヴァンの最初の夫というのがヘンリー・フォンダで、しかもリーランド・ヘイワードがフォンダの舞台におけるエージェントだったこともあり、ヘイワード家とフォンダ家はロサンゼルスで、そしてその後はニューヨークで常に隣同士に住み、二家族が一つの家族のようにして過ごしており、フォンダ家の子供たち、ジェーンとピーターはヘイワード家の三人の子供と一緒に育ったのでした。……つまり、この『マンディンゴ』という舞台でブルックと結婚したことによって、デニス・ホッパーはピーター・フォンダの義兄弟になったということになります。そしたもちろん、ピル・ヘイワードは『イージー・ライダー』のプロデューサーになるわけです。このあたりの経緯については、筑摩書房から出した拙著『「イージー・ライダー」伝説』に詳しく紹介しています。谷川建司@ニューヨーク