『…お家に…帰りたい…』

 

これが

愛妻さんの

最期の言葉。

 

 

11月9日

22時過ぎ

 

クスリの効果が切れたのか

『トイレに行きたい』と

ベッドから降りようとする愛妻さん、

 

とても歩ける状態ではない。

大慌てで

介抱しながらトイレへ誘導。

 

何とか

間に合った…。

 

ベッドに戻る直前

ベランダのガラス戸に掴り立ちしながら

 

…焦点の合わない目つきで

ベランダを見つめる。

 

そして

私の耳元に口を近づけ

 

確かに

吐息で

呟いた。

 

『…お家に…帰りたい…』

 

えっ?

・・・

 

ここ、

愛妻さんのお家だよ。

 

言いかけて

止めた。

 

強い

医療麻薬と

強い痛み止めの坐薬とで

意識朦朧としているに

違いない。

 

しかも

熱発している。

37.9度

 

ベッドへ戻らせ

横になるのを介助。

 

彼女は

再び

深い眠りについた。

 

 まさか

まさか

これが

愛妻さんの

最期の言葉になるとは😢

 

 

 

 

 

11月9日、10時00分過ぎ。

 

昨夜から

坐薬が入って

穏やかな顔をして

眠っている愛妻さん。

 

医師が言う

『眉間のしわはないし、とても穏やかな顔をされています。

今は痛みを感じないでいる証拠です。』

 

昨日の、あの苦しみ様は

今までに

見たことがない。

 

とりあえず

なんでもいいから

苦しまないでほしい。

 

愛妻さんの寝顔を見ながら

一安心…

 

それにしても

多くの関係者。

 

 

医師と看護師。

それに

訪問看護師も2名。

ケーマネージャーまでも来宅。

 

計5名。

 

皆に心配して頂いている

ありがたい。

 

 

 

 

 

平成22年2月22日

 

私が大腸がんの摘出手術をした日。

 

14年前のこと。

 

14回目の誕生日と言う事になるが

 

愛妻さんを大腸がんで亡くして3か月のいま、

 

手放しでは喜べない。

 

 

 

つらい

 

記念日の

 

今日。

 

 

 

 

 

痛みをこらえて

汗びっしょりの愛妻さん。

 

私は

乾いたタオルと  蒸しタオルで  

全身を拭き 

腰をさすり

 介抱を続けた。

 

間もなく

医師と看護師が

到着した。

 

クスリ3包を飲ませ

20分近くが経過したこと、

 

見たこともない痛がりようだと

伝える。

 

医師は頷き

『後10分待って、痛みが止まらないようなら

その薬、

あと2包追加しましょう。』

 

その間、

この痛みに対応する新しいクスリを

取り寄せましょう、

パソコンに向かった。

 

「処方箋」薬局に送信。

念のためとして

電話も入れた。

 

数分後

痛みが治まる様子が見受けられない愛妻さんに

医師が再度訊く。

『痛みは?』

 

やはり

声が出せない愛妻さん

 

息声で

『痛い!!』

 

クスリが2包追加されて

 

30分も過ぎただろうか

薬剤師が到着。

新しい薬が届いた。

 

これで愛妻さんの苦しみが治まる。

不思議な

安堵感が流れた。

 

 

 

2023.11.8  18時過ぎ

 

 

11月8日・昼~夕

 

仕事中

なんだか

胸騒ぎがする。

 

仕事が手に付かない。

 

15時過ぎころ

仕事を切り上げて

自宅に戻る。

 

インターホンに

反応がない。

 

ドアのカギを自分で開けて

自宅に飛び込む。

 

ドアを開けると同時に

 

「愛妻さん!!」

叫んでいた。

 

ベッドルームに飛び込む。

 

床に座って

ベッドにうつ伏せになっている愛妻さん。

 

ベッドに上れず

そのままうつ伏しているのが

見て取れる。

 

「どうしたッ?!」

 

返事がない。

 

「痛い?」

 

うつ伏せのまま

頭を振る愛妻さん。

 

やっぱり…

 

俯せた体を起こして

「ベッドへ上ろうッ!?」

身体を持ち上げようとして

驚いた

 

全身が汗で熱い。

 

全身

汗びっしょり。

 

その瞬間

痛みの強さが分かる。

 

長時間

痛みと闘っていたことが分かる。

 

「クスリ、、、飲んだ?」

 

愛妻さん、

俯せたまま頭を横に振る。

 

枕元にあるクスリを

1包

封を切り

飲ませる。

 

これだけでは効くはずがない

 

もう一包飲ませる。

 

更に

もう一包飲ませる。

 

愛妻さんも

素直に飲んでくれた。

 

そして

ベッドに上らせて

身体を横にし

…枕を当てた。

 

お腹を抱えて

身体は

丸まったままだ。

 

自分では動けない愛妻さん。

 

「先生、呼ぶよ!」

 

縦に

何度も頭を振る愛妻さん。

 

私はスマホを取り

訪問診療医師の

「緊急連絡先」を

押した。


「先生、今来てくれるって。」

 

 

一言も

声が出せない愛妻さん。

 

息声で

 

『痛いッ!(>_<)』

 

 

 

2023.11.8  16時ころ

 

 

 

 

 

11月8日・朝

 

愛妻さんは

いつものように

朝食を準備してくれた。

 

愛妻さんも

朝食を摂り

いつもの薬を飲んだ。

 

私は

仕事に出た。

 

愛妻さんは玄関まで

見送りに出た。

 

何も変わらない平常

 

 

朝だった。

 

が、夕刻

 

事態は一変した。

 

(2024.2.13筆)

 

 

11月6日

私も仕事に出た。

 

夕食も

愛妻さんの手料理で

揃って食べた。

 

少々では弱音を吐かない愛妻さん。

やせ我慢をしているのか

何事もなかったかのような

顔をしている。

 

口数が

普段より

遥かに少ない

 

 

11月7日

この日も

愛妻さんの手料理夕食

 

夕食のあと

愛妻さんは

 

『明日、飲み会だと言ってたでしょう?

    私なら大丈夫ですから

    ちゃんと

    行ってくださいね。』

私は

 

・・・うん、

ありがとう…。

 

としか

答えようがなかった。

 

(しかし、

    飲み会どころではないでしょう。

    行けるはずが

    ないじゃん…。)

 

私は

心の中で

そう

呟いていた。


(2024.2.13筆)

思い出作りの旅計画は

愛妻さんの

元気回復が大前提。

 

一旦

中断することとした。

 

 

11月5日

愛妻さんは

07時過ぎに

目を覚ました。

 

ホッとした。

 

 

ただ、

ベッドに横になっている時間が増えた。

 

眠る時間が長いせいか

宙を見ているような

弱い目力(めぢから)が

気になった。

 




本日、愛妻さんの
3回目の月命日。

11月5日

06時過ぎ

 

愛妻さんは

目を覚ますと

消え入りそうな声で

こう言った。

 

『悪いけど

今月の旅行

行けそうもないから

キャンセルしてくれる?』

 

私も

内心、

そう思い始めていた。

 

OK、OK、分かったよ。

大丈夫だよ。

そうしようね。

 

安心したのか

愛妻さんは

再び

寝息を立てた。

 

あれからずっと

眠ったままだ。