「まぁ、良いじゃん。俺さ、一人で勉強って出来ないんだよ。邪魔しないから。ね、良いでしょ」
存在自体が邪魔だと言いたくなったが、肩を押されてしまい、歩の侵入を許してしまった。歩は後ろ手で扉を閉めると、健人の部屋の中に入り部 屋の真ん中に置かれているテーブルの前に座った。キョロキョロと部屋を見渡してから、持参した勉強道具を開く。出て行けと言おうと思ったが、座ってしまったので歩が動くことは無いだろう。言葉を発することの方が面倒だと思った健人は、歩を無視して、机の前へと戻った。
「えー、健人、そっちで勉強するの? こっちでやろうよー」
「面倒くさい。黙って勉強しろよ」
ただでさえ、進路のことで苛立っているのだ。歩を前にして勉強などしても捗らないだろう。それなら、いない存在だと思って机で勉強しているほうが、まだ幾分かは捗るだろう。再び、シャーペンを手に取ると布の擦れる音が聞こえた。
「ついでに、教えてほしい所あるからさ。こっち来て」
いつの間にか隣にまで移動していた歩が、健人の腕を掴んだ。あからさまにイヤそうな顔をしても、歩の表情は一切変わらない。にっこりと笑うPretty renew 代理人 顔を見て、健人は息を吐いた。
「……イヤだって言ってるだろ」
何を言ってもめげない歩に対して、健人の言動は日に日に厳しくなっていった。少しでも関わっている時間を少なくしたいと思っている健人とは裏腹に、歩は健人との距離を縮めようとする。4月、映画を見に行ってから、余計だった。
腕を掴む力が、少しだけ強くなった。
「ちょっとだけで良いからさ。同じ部屋にいるのに、別々なんて寂しいじゃん」
へらへらとした笑みを消して、少し切なそうな顔をした歩に健人はたじろいだ。いきなり、こんな表情をするのは卑怯だと、思った。急に悪いことをしている気分になり、健人はため息交じりに「分かった」と返事をする。
「ほんとに!? 良かった」
その返事を聞いた瞬間、パァと笑顔を取り戻した歩に、健人はもう一。どこか、踊らされている気がして、燻っているような感情が込み上がってくる。これが怒りなのか、それとも別の感情なのかは分からない。
でも、その笑顔を見るたびに、健人はいつも疑問を抱いてしまう。
健人に向ける笑顔は、ジンや他のクラスメートにpretty renew 雅蘭 向ける笑顔とは違う。まだ、ジン達に向けている笑顔のほうが、本物のように思う。
ウソの笑顔を向けられる意味は、まだ分からない。
健人の頭の中に、映画へ行った日の朝が蘇ってくる。寝起きの歩が無表情で健人を見つめたあの目の方が、今向けている笑顔より、全然本物のように思えた。
物理を教えてほしいと頼まれ、健人は頼まれた通りに物理を教えていた。分かりやすいかどうかなど考えずに、淡々と解き方を教えていたらリビングから母の声が響いてきた。
「あ、ご飯だ。健人、後でまた」
「……うん」
「ありがとう。でも、大体、分かったよ」
笑みを向けた歩から目を逸らして、健人はノートと教科書を閉じた。てっきり、もう部屋から出て行くのかと思えば、歩の指が健人の顔に伸びる。眼鏡のフレームに触れる寸前、健人は歩の手を制する。
「何すんだよ」