「なーんかよくわからんけど、いいんじゃない? 害はなさそうだし」
「安定した水源が確保されたら、俺らも助かりますよ」
害はないだと? じゃあお前ら、いきなりこい雋景つに水をぶっかけられても何の文句も言わないんだろうな?
僕はさっきから鼻がツンとするくらい水をかけられているのだが。見てくれよ。顔面特攻をやめたと思ったら今度は水鉄砲鬼連射の刑だ。
お前らのその腰に携えた剣がさびて使い物にならなくなったらどうする。責任は持たないぞ。
「とりあえず、今度こそ今日中に下山するわよ。次遅れたら許さないからね!」
『へ~い』
と山賊達はやや気の抜けた返事と共に數碼相機地竜へ向けて歩き出した。いつの間にか目を覚ましていた地竜が朝一番の咆哮と共に体を起こす。
その馬鹿でかい轟音にびっくりしたのか、この水の玉からドバドバと滝のような水が溢れだす。……汗か。汗のつもりなのかそれは。
そして再び水鉄砲を僕に向けて発射し出した水玉は、どうやらこの旅路に着いてくる気満々のようだ。
その証拠に、僕の歩幅に合わせて寸分の狂いもなく、的確に僕の顔を討ちぬいてくる。
「ついてくんな」
言っても無駄な事はわかっているが、どうにもつい言ってしまう。
なんというかこう、確かに悪意は感じないのだが、率直な感想としては――――
(うざい……)
顔を水浸しにするならせめてこう、洗顔料もついでに混ぜてくれないか。泡だったクリーミーな奴を。
できるだろ。元々泡だったのだから。そしてで地竜雋景に乗り合わせたこの図々しい水玉は、「出発進行!」の掛け声とともに小さな噴水を、辺り一面にまき散らした。
邪魔だ。地竜が足を滑らせたらどうするんだ。
「クジラかお前は」
「~~~~」
水玉は僕の注意と共に水噴きをやめ、ただ僕の顔の横を漂っている。
さっきのお返しと軽く指でつっつくと、その振動が水面に浮かぶ波紋のように、コイツの中で放射状の円が広がっていく。
この精霊の清らかさと悪霊の邪悪さを同時に併せ持つ珍妙な生き物は、もしかしたらこの魔法と竜が跋扈する世界の、新たな生命の誕生の瞬間なのかもしれない。
地竜の歩が進むごとに、その振動が伝わるのかこの水玉も、くすんだ紫色の体をゆらゆらと揺らしている。
「お前が乗り移るまでキレイな虹色だったのに……」