お話
王は沈黙した。チェ・ヨンの言葉の中に、隠された意図を見つける事が出来ない
(チェ・ヨン正気か?)
悲願であった女人の帰還だ。それなのに、第二の妻にと、この男は言う
しばらくの間、王とチェ・ヨンは言葉を交わさず無言のまま、視線で語り合った
(はい、チョナ。本心です)
チェ・ヨンの真っ直ぐな、揺らぐ事のない眸が、本気なのだと物語っている
王は考える、この男はどんな人間かを
正気の沙汰とは思えぬが、それには、この男なりの考えがあっての事
「なにかそれなりの考えがあっての事だろう、まずは話してみよ」
王の求めを感じたが、チェ・ヨンは細かに話すつもりは全くなかった
真実は墓場まで持って行く心づもりだ
一度たりとも口にしてしまえば、どこからから亀裂が入りかねない
王宮には目や耳が無数に潜んでいる
それに王がこの話を、九割九分九厘、意図的に作り上げられたものと解釈しても
チェ・ヨンは王の中に、たった一厘の 『疑念の欠片』 を残したかった
もしかしたら、この話は真実なのかもしれない、これが一厘の疑念だ
その一厘を心の中に根付かせる事が、凡人の男とチェ・ヨンの違いだった
「わたしは考えなど持ちませぬ。ただ、真実を御話しておるのです」
(なんだと?言うつもりはないと申すか)
チェ・ヨンは王の求めを拒否した
(そなたの真意がわからぬ・・・)
相変らず心の裏は読み取れないが、少なくともその目が何かを訴えかけている
(分かって貰えるものと信じております)
その上、深い色を放つチェ・ヨンの漆黒の眸が、王である自分にそう告げているように思えてくる
(つまり、余にくみ取れと…な?)
ある意味、挑戦状を叩きつけられたようなものだと、片方だけ口角をあげ王は笑った
「続けよ」
チェヨンは口を開いた
「此度の戦の勝利の暁には、なんでも褒美を取らせるとおっしゃいました」
「ほう、何か思いついたか?」
他ならぬチェ・ヨンが褒美の無心とは、これまた珍しいことがあるもんだと、王は出てくる言葉を興味深く待った
「ユ・ウンスを第二の夫人に迎えたいと御願い申し上げましたが、私は天人であった医仙と婚姻を誓いました」
「いかにも」
「天人であられる、医仙を差し置いて、ユ・ウンスを私の最初の妻とするは、天に反逆するも同然と心得ます
ゆえに有るべき順序はこうなります
私は、まず医仙を本妻とし、チェ家に迎え入れようと思います
そして医仙と婚姻を結ぶと同時に、医仙の魂を弔うため、祭事も執り行いたく存じます
それが天への道理かと」
なんと架空の存在との婚姻を望むのか…それだけではなく弔いの儀式までするとは
「余に異議はないが、それでは特段、褒美にもならないのでは?」
欺かれていると手の内を見せられ、その上真実を見つけろと、挑戦状を叩きつけられた
こうなれば力量比べのようなものだ
王はしっとりと汗ばんできた手の平を、強く握り、拳の中に押し込めて隠した
相手が出してきた札を読み取って、それに合った札を一つ一つ返してやればいい
どうせチェ・ヨンこの男は、余が出す札が何かまで、 意のままに動かすのだろう
王を欺いた上、手の平で踊れと申すのだ、チェ・ヨンこの男は、ろくでもない
ならば見事に舞ってみせようではないか。こんな茶番も悪くない
此処まで来ると、もはや感服の至りで、この男を失いたくないという感情の方が勝ってくる
チェ・ヨンの行動は王の自尊心を煽った
「他に望みがあるなら申せ」
開き直った王の顔には、余裕が生まれ、薄らとだが、笑顔が戻ってきた
王の表情が困惑の強張りから、解けたのを目にしたチェ・ヨンは、心の裏側で安堵し、ほっと小さく息を吐いた
「恐れながら、医仙が天人で有られる事を、チョナは否定されました
それゆえ医仙は天人にあらず、というのが皆の認識で、しかしそれは元の断事官を欺くためでした」
「覚えておる」
「医仙がまことの天人であった旨、王名において布告して頂く事を望みます。さらには、以前ご辞退申し上げた国医大使を、御下命頂きたく存じます」
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「えっ、今なんて?」
ヨンの言葉に驚いたウンスは、もう一度確かめようと聞き返した
「イムジャは、天界のえいがとやらが、お好きでしたね?」
確かにヨンの話は、自分が登場人物の一人になっていて、まるで壮大な映画のシナリオのようでもあった
「あっ、えぇ、そうだけど」
「演じる事はできますか?」
「どうだろ?できるかしら?できないかしら?でも、親しい人達には気づかれちゃわない?」
突然振ってわいた話に不安が募る
「気心の知れた者たちは、早いうちに察するでしょう。イムジャがお辛くないよう、俺が必ずそうします」
その言葉を聞きウンスは、ほっとした。女優でもあるまいし、演じ続ける自信はない
「とても大きな戦でした。ウダルチもこの四年で人員の出入りもあり、イムジャを知る者はさほど多くありません」
長い歳月が経ったから…人も変わるのね
「それで?」
「イムジャには、俺と二度の婚姻を結び、一度は死んで頂く事になります」
続いてヨンは、四年前の天人であり医仙ウンスが生涯を終え、今、目の前にいるウンスに生まれ変わったとする話をした
「それって、この私自身が、自分の生まれ変わりって事よね…?」
「そう言う事になります。イムジャは、嘘は、お上手なようですから」
そう言いながらヨンは愉しげに笑う
「でも…何でなの?聞かせてもらえる?」
この人の事だからきっと…それなりの、深い考えがあってのことだろうとは思う
でも、そこまでする必要があるのかしら…という気持ちも心の片隅にあった
少し押し黙った後、ヨンは一度深いため息を落として、ウンスをじっと見つめた
「俺は…不安で仕方ないのです。また失うのではないかと…」
ウンスは途端に、ヨンが初めてみせた顔から、目が離せなくなってしまった
何故なら、今まで見たこともないほど、ヨンの目は不安に揺れていたからだ
「俺はイムジャを確実に妻にしたい」
出来限りの事を尽くしてくれているのだと、深く、強い想いが伝わってくる
思わずウンスはヨンの手を手に取ったが、胸がいっぱいで言葉になかった
ぎゅっと握ると、もっと強い力で、反対に包み込むように握り返される
それ以上を聞くことが躊躇われ、答えのかわりに何度も頷くしか出来なかった
なぜなら、その言葉だけで十分すぎて、それ以上望むものはないと思ったから
胸がじんとして、締め付けられるようで、互いに重ねあった視線を外さない
しばらくそうして動けないでいると…
少し先に、ヨンの視線が外れ、上から下へと徐々に下がってくる、眸、鼻、唇…
そんな顔をして俺をみないでくれ
潤んだ眸を大きくさせ、自分を見つめるウンスの表情に、堪えかねた
とりあえず話も、ひと段落した、ならば、少しだけ…少しの間だけなら…
後頭部に大きな手のひらを感じ、次の瞬間、顔の前に影がかかった
ふわりと何かがウンスの唇にぶつかる
驚いたウンスは、一瞬目を大きくさせたが、遅れて瞼を閉じたのだった
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11話をアップした時あまりに反響がなさ過ぎて、もしや、この話ってつまらない?
とめっちゃ不安だったんですが
昨日はたくさんのコメありがとうございました、よかった、楽しんで頂けますか
ノミの心臓なので