葛城の迷宮 -30ページ目

『ヒミズ』

監督:園子温
出演:染谷将太
    二階堂ふみ
    渡辺哲
    でんでん
    光石研
    渡辺真起子
    窪塚洋介

広大な瓦礫の世界を歩いている。
そこにひとつ、緑色のペンキが付いた見覚えのある古い洗濯機。
ふたを開けると、そこには拳銃が一丁。
拳銃を取り出し、こめかみに突き付けてみる。
引き金を引くと同時に目が覚めた。

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住田佑一(染谷将太)、15歳。
彼の願いは立派な大人になって、現実的で平凡な“普通”の人生を送ること。
大きな夢を持たず、ただ誰にも迷惑をかけずに生きたいと彼は考えていた。

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川のほとりの実家で貸ボート屋を経営している母親(渡辺真起子)と二人暮らしをしているが、母親はたまに男と帰ってくる程度で、ほとんど一人で生活していた。
あの震災で全てを失った夜野正造(渡辺哲)や、田村夫婦(吹越満、神楽坂恵)などの大人たちが、なぜか住田を慕って周辺にブルーシートのテントを建てていた。

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茶沢景子(二階堂ふみ)、15歳。
夢は、愛する人と守り守られ生きること。
他のクラスメートとは違い、大人びた雰囲気を持つ住田に恋い焦がれる彼女は盲目的に彼を慕い、どんなに虐げられても常に付きまとう。
疎ましがられながらも住田との距離を縮めていけることに、日々喜びを感じる茶沢。

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ある日、借金を作って蒸発していた住田の父(光石研)がふらりと戻ってきた。
「金持ってねぇか?」
「ねぇよ、そんなもん!」
「オメェさ、死んでくれねぇか?
 昔、その川で溺れて死にかけたことあったろ?
 何であの時死んでくれなかったんだよ。
 オメェ、いらねーんだよ!」

そう言いながら、住田を激しく殴りつける父親。


ある日、家に帰ると何も無くなっていた。
ほとんど全て持ち出された部屋に、一言“がんばってね!”と書かれた置手紙。
母親がいつも一緒にいた中年男と一緒に駆け落ちしたのだ。
住田は中学3年生にして天涯孤独の身となる。


そんな住田を必死で励ます茶沢。
しかし彼女の両親(黒沢あすか、堀部圭亮)も娘に保険を掛け、自殺をするように手製の首吊り台を作っていた。
「わたしたちが幸せになるのに、あの子いらないよー!!」


茶沢が言う。
「ハイ、住田くんにピッタリの詩を作りました!」

  牛乳の中にいる蝿、その白黒はよくわかる、
  どんな人かは、着ているものでわかる、
  天気が良いか悪いかもわかる、
  林檎の木を見ればどんな林檎だかわかる、
  樹脂を見れば木がわかる、
  皆がみな同じであれば、よくわかる、
  働き者か怠け者かもわかる、
  何だってわかる、自分のこと以外なら。

「ウソです。ヴィヨンの詩です」


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茶沢は貸しボート屋を繁盛させるために、街でチラシを配って宣伝をする。
その甲斐あって客の入りが良くなり、住田は僅かだが収入を得ることができた。
しかしやって来た父親に、その金さえ奪われてしまう。

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夜野は町で偶然、天才的なスリのテクニックを持つテル彦(窪塚洋介)を見かける。
住田のために、夜野はそのテクニックを伝授してくれと弟子入りを願い出るが、もっと大きな金儲けをテル彦から持ち掛けられ、怖くなって逃げ出す。

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ある日、えんじ色のジャガーがボート屋にやってきた。
車から降りてきた人相の悪い男(でんでん)の名刺には、“金子ローン”と書かれていた。
「オマエのお父さんがさぁ、600万円の借金を返さないで消えちゃったんだよねー。
 お父さん帰ってきたら、名刺に書いてある番号に電話してくれない?」

「知らねぇーよ、そんなモン!」
部下の谷村(村上淳)に、殴る蹴るの暴行を受ける住田。

「その程度のはした金で、そんなにムキにならなくてもいいじゃねぇか。」
その場に居合わせた夜野は、そう金子に言い放つ。
「そんなに言うなら、お前が代わりに返してくれるのか!?」
そう言われた夜野は、先日のテル彦の話を思い出す。


そして、少しずつ彼女の気持ちが住田の心を解かしつつあるとき、とうとう“事件”は起こってしまう・・・


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ヒミズ(日不見、日見ず):トガリネズミ目モグラ科。

地下のごく浅いところや落ち葉の下に住み、夜になると地上を徘徊するが、日光の照る場所には出てこない。

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『愛のむきだし』、『恋の罪』の園子温監督作品。
今回は、古谷実原作の『ヒミズ』を映像化。
(彼の代表作『行け!稲中卓球部』は、15年ほど前に借りて読んだ。腹筋が痛くなるほど笑った。)

染谷将太演じる主人公住田は、始まった時から目には悲しみ映っていないように見える。
今の自分の現状がどん底だと思っているので、口から発する言葉も誰にも媚びない。
でも彼は信じている。
立派な大人になって、普通の人生を歩むのだと。

しかし物語は、彼をさらに奈落の底へと陥れる。

そして二階堂ふみ演じる、茶沢景子。
彼女の行動は、住田に纏わりつくストーカーのように感じるけど、考えてみればよくあること。
アーティストやアイドルに夢中になって追っかけになったり、文学やアニメに夢中になったり。
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年頃の女の子が部屋中にポスターを貼るように、茶沢は”住田語録“を部屋中に貼っている。
同じような境遇の彼女は、住田の発言に心から共感するのだ。
ちょっと気持ち悪いけど。

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窪塚洋介が、『池袋ウエストゲートパーク』のキャラ、”G-BOYS”のタカシがそのまま大人になったようなテル彦役で出演。
天才スリ師という設定だけど、カリスマ盗撮師レベルだ。

でんでん、渡辺哲など、渋いオッサン俳優が主要キャラを、過去の園作品に出演していた豪華俳優たちが、ほとんどセリフもない役を演じている。


今作は、これまでの園作品と較べて大きく違う。
彼の代名詞だった、エロとグロが極端に抑えられている。
通り魔が出て来たり、”メスブタ“と書かれた女性がゴミを捨ててたりするけど、ハリウッドのアクション映画と較べてもおとなしい。

園作品にずっと感じる”違和感”、今回も健在だ。
それを担うのが、茶沢景子の行動。
ムリヤリ住田に近付こうとするので、お互いビンタの応酬になったり、河の土手からパンツ丸見えで転げ落ちたりする。
その度に、「呪いの石ひとつ目!ポケットいっぱいになったら、思い切り投げつけるからね!」

おせっかい極まりない行動だと思っていた住田だけど、極限まで追い込まれた自分に寄り添ってくれている彼女の愛に気づく。
彼女がいるから生きていける。
茶沢も知っている。
住田がいるからこそ、最悪の家庭環境でも明るく振舞える。
お互いに必要な存在だったことを住田が知ったとき、”オマケ”の人生と思っていた自分の残りの人生に生きる意味を見出せる。
ヒミズのように生きたいと願った彼が、どん底の闇に堕ちて茶沢という希望の光に気づくのだ。

その時、奇跡が起こる。
今まで違和感の塊だった茶沢の行動に共感している、自分の気持ちに気がつく。
とうとう園子温が、観客の心に寄り添う演出したのだ。


茶沢は叫ぶ。
「住田、がんばれ!!」

住田も叫ぶ。
「住田、がんばれ!!」

ぼくもスクリーンに向かって思わず叫びたくなる。
「住田、がんばれ!!」

そして心の中で思う。
「茶沢もがんばれ。」と。

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