葛城の迷宮 -16ページ目

『太陽を盗んだ男』

監督:長谷川和彦
出演:沢田研二
    菅原文太
    池上希実子
    風間杜夫
    伊藤雄之助


中学校で理科を教えている風変わりな教師、城戸誠(沢田研二)。
いつもガムを噛んでいることから“風船ガム”とアダ名で呼ばれているが、生徒たちとはそれなりに上手くやっている。

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社会見学の帰り道、城戸が担任するクラスのバスが武装した軍服姿の男に乗っ取られる。
年老いたバスジャック犯(伊藤雄之助)が示した行き先は皇居。
目的は天皇陛下に直接会って、息子を返してほしいと伝える事だった。
城戸は丸の内署の山下警部(菅原文太)らと協力し、命からがらバスジャック犯から生徒たちを救出することに成功。
彼は生徒たちからも見直される



城戸は冴えない男の振りをしているが、身体を鍛え、ボロアパートで夜な夜な実験を繰り返している。
明け方、いつも双眼鏡を持って現れるのは茨城県東海村。
何の目的も持たずに生きる彼は、空虚な心の中を狂気によって膨らませていた。


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そして決行の日は訪れる。
彼は全身黒尽くめの服装に身を包み、海岸から原子力発電所へ侵入。
その目的は液体プルトニウムを盗み出すため。
綿密に計画した強奪作戦は、何とか成功する。

秋葉原などで買い集めた部品、サラ金から金を借りて購入した炉、自作の放射線防護服を使って、城戸はとうとう自宅で原子爆弾を組み立ててしまう。

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当時、世界で核爆弾を保有していたのは8カ国。
それにちなんで“9番”と名乗った城戸は、バスジャック事件で知った山下警部を指名して日本政府を脅迫する。

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第一の要求
「夜9時にテレビ放送が終了する予定の
“読売ジャイアンツ × 大洋ホエールズ”
を試合終了までナイター中継しろ」


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今はさすがにマズイんじゃないか・・・?と思ってたけど、CATVでも放送してたから書いちゃおう。

水谷豊・原田美枝子主演の『青春の殺人者』で鮮烈な監督デビューを果たした長谷川和彦。
監督二作目となる今作は、無名の新人によるアクション大作になるはずだった。
しかし出来上がったのは、現代では荒唐無稽で製作中止ギリギリの問題作。
その内容ゆえに虜となる人も多くて次回作を待ち焦がれているファンも多かったけど、1979年製作の今作以来、酒を飲んで暴れているだけのヒモ暮らし。
すでに66歳。
みんな新作は諦めてしまったけど、デヴィッド・リンチと同い年。
マーティン・スコセッシやリドリー・スコットはもっと年上。
ホントに作らないのか?

原案・共同脚本のレナード・シュナイダーは、『タクシー・ドライバー』の脚本を書いたポール・シュナイダーの実兄。
拳銃を構えるポーズやボイス・チェンジャーに話しかけるセリフは、デ・ニーロが演じたトラヴィスを彷彿させる。


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特に何の思想も無く、夜はビールを飲みながらプロ野球のナイター中継を観戦するのが趣味の普通の男。
学校に遅刻して来たり、授業中に居眠りしたりと、教師としては完全に失格!
そんなに上手くは無いけど、キャラクターには見事にハマって印象的。

原爆の製造工程をウソとはいえ、とっても丁寧に見せてくれる。
命掛けで作り上げた爆弾にはとびきりの愛着が・・・

”ザ・タイガース”時代の沢田研二を知らないぼくだけど、グラムロックを目指していたジュリーは見たことある。

「壁際に寝返りうって、出て行ってくれ~  Ah~♪」
って歌ってたな。

昔の記憶ほど格好良くないけど、怪しげな雰囲気はこの作品にピッタリ。



第二の要求
「ローリング・ストーンズの日本公演を実現させろ」

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原爆を作り上げたのはいいが使い途がわからない城戸は、リスナーとしてラジオに電話する。
その時に出た要求のアイデアがコレ。
「ダメなアナタとダメな私の共犯放送”ゼロのブタブタジョッキー”
なんてベタなオープニングで始まるラジオ番組で、DJをしている沢井零子を演じるのは池上季実子。
自分のことを”ゼロ”と呼ぶイタい女。
うわぁ、昭和だなぁ。
楽しければそれでいいをモットーに、ミステリアスな城戸に魅かれて協力する。



第三の要求
「現金五億円を用意しろ」

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サラ金から利息を請求されて、仕方なく要求する城戸。
9番と接触するチャンスを待っていた山下警部は、彼を逮捕することができるのか。
”政府の犬”と呼ばれながらも、自分の信念に忠実な山下を演じる菅原文太。
普通の映画なら、絶対コッチが主役だな。
自分の身体を呈してでも、犯人を捕まえることに執念を燃やす男。
とてつもない行動力で、もはや人間ではないアクションを見せてくれる。


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”原子力発電所に侵入してプルトニウムを盗みだす”
などという今の日本では絶対に撮影ができないような設定。
もちろん製作当時も問題視されてきた。
特に”原爆”という題材を扱うことに対して、かなりの抗議があったらしい。
しかし広島出身の長谷川監督は自身が胎内被爆者だということで、”特別被爆者手帳”を持っており、それを見せつけては無理矢理納得させたとのこと。

発電所内部の映像や演出は、いろいろアイデアがあったんだろうけどチョット稚拙。
もっと冴えたアクション演出にしてほしかった。
伏線の張り方や城戸の奇行癖も少しわざとらしい。
しかし、そんなこと全く気にならない勢いで
物語はとんでもない展開を見せる!

この違和感、『愛のむきだし』を観たときとよく似てる。
傑作になりそこねた作品なのだ。


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”皇居前広場にバスを突っ込ませて暴走させる”

”マタニティー姿の沢田研二を国会議事堂に侵入させる”

”東急デパートの屋上から現金五億円をバラまく”

”首都高速でトラック2台を並走させて渋滞させ、その合間にカーチェイスを撮る”

など、ムチャクチャなゲリラロケを繰り返したために、警察沙汰となることも想定済み。
撮影B班は”逮捕され要員”とされ、その代表は相米慎二だった。


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「誰も観たことがない映画を作ってやろう」
確かに観たことがない。
そして今後も決して作ることができない作品。
突っ込みどころ満載
だけど、とてつもないエネルギーで作り上げた想いがヒシヒシと伝わってくる。

その証拠に長谷川和彦はこの作品で燃え尽きてしまった。

この時期にこんな映画、不謹慎じゃないかって思うけど、今となっては警鐘とも思える。
荒唐無稽だと思ってきた物語も、現在の日本では現実に起こりうる可能性もゼロじゃない。
もし技術を持った命知らずのテロリストが破壊工作を行ったら、今の日本政府なら脅迫に屈してしまうかも・・・



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