少し昔、飲み屋で夜の11時くらいに歌を歌っていた。
女性も横に座るようなお店で思い出せない歌が頭をよぎった。メロディーも口ずさめるし、出だしの歌詞もわかる。しかし、曲名と誰が歌っていたかわからないのだ!
えーっと、うーんと!あーなんやったっけ?
♪あーいそつかしのことばがぁ~だめなあんたに似合いさと♪
確かこんな出だし・・・・
きれいに歌えるのに、この歌を次歌いたいのに、曲名わからんかったらカラオケ入れられないし、あーもどかしい!
こんな時はこの歌を知っているだろう友達に電話口で歌って曲名を教えてもらおう!
うん、それしかない!
問題は誰に電話するかだ。こんな夜遅くに、電話に出てくれて、私の下手な歌声からその曲名を当てることのできる奇特な奴!
この時間で起きているという条件で半分はアウト!子供がいたりすると掛けれないし、仕事で早く寝てるやつもいるだろう。移動中、風呂に入っているやつ、携帯を置いたままにしているやつなど考えるともうほとんどいないのだ。
さらに、この歌を知ってるやつを想像すると同年代以上で歌に興味を持っている奴。しょっちゅうカラオケ行ってるやつなどさらに範囲が狭くなる。
結局確実に知ってるやつとして思い出したのが阪急京都線の上新庄でバーを経営している又吉君だ!
彼は中高同じの元バンド仲間。今や仕事は全く違うし、大人になっての接点が全くないが、絶対にこの曲名を知っている!
問題は8年間も会っていないことだ。
彼が開業した今から14年前。開業前日にお祝いに駆けつけて以来、ざっくり8年ほどお店に行ってなかった、どころか連絡さえも取っていない!
店がつぶれていたら嫌だと感じながらも、バーをやっていて客の多いだろうこの夜の11時に寝ていることは絶対にないし、何より同窓生、少々失礼なことがあっても水に流してもらえるだろうという気楽さから彼にしようと決意したのだ。
ぷるるるるる、ぷるるるる
「おー中園、久しぶりやんけ!」
「あーいそつかしのことばがあ、ダメなあんたに似合いさと♪この歌の題名何やった?」
「ひきがね、世良公則や」
「ありがと。たすかったわ」
ガチャ!
通話時間10秒。何の挨拶もなく、こっちの都合だけの電話で終われる関係。
そのあと怒ってくるわけでもなく、季節の候も話さず、近況も知らないまま。
8年ぶりの会話には昨日も話をしていたかのような信頼感というか、何も変わらない関係性が漂っている。
小さい時から知っている同窓生は本当に気が楽である。
いくら偉くなっても、いくら時間がたっても、そんなの関係ねえ!
一緒に学校で悪さした友人との関係性は30年前のままである。
その後、又吉君のバーにはひと月に一度くらいは一杯飲みに行くようになっているのだ。
今度からは【BAR又吉屋】でピアノを弾く係を担当することにしたので聞きに来てね!