堕悪魔の堕文屋《devil-69》 -16ページ目

堕悪魔の堕文屋《devil-69》

小説っぽいものを書いてみたりの堕ブログ


「一年ほど自由な時間を満喫してみようかなー。将隆も一緒に旅行とかしようよ!」

昔読んだことのある漫画みたいな話を、和志はこともなげに口に出す。

いつの間にか俺の前には、何処からか集められた見慣れた国の名ばかりの旅行パンフが、所狭しと陳べられていた。

「俺は付き合わねえからな。俺が仕事辞めたわけじゃねえんだからな!」

「えwwwwww!!まーちゃんと俺の仲なのに~、ケチンボ!」

「まーちゃん言うな!」

「まーちゃんは、まーちゃんじゃんか~」

「26の男がそんなふうに呼ばれて嬉しいはずないだろ」

「俺はカッチンて言われるの今でも嬉しいよ?」

「...。」

こいつとの会話はマジ疲れる。毎回がこんな調子だ。俺は小学生と話をしているのかと錯覚しそうになる。

話の主旨がずれるのは20数年の付き合いで嫌と言うほど身にしみて知っている。
無駄な議論は早々に放棄してしまうに限る。

「遊ぶのは止めないが二ヶ月後には仕事を探し始めろよ」

和志が文句を言い出す前に妥協案で五月蝿い口を塞いだ。

「俺の言うことを聞くなら旅行には付き合ってやるから。返事は?」

俺からの妥協案=決定事項、それはいつの間にか二人の間での決まり事になっていた。

「...分かったよ」

「行き先は俺が決めんだかんな!まーちゃんじゃないぞ! オ・レね!!」

幼稚な内容の会話に頭が痛かったが、なんとか話に決着がついた。




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出逢いは5年程前になるか。


「仕事辞めたって、お前バカか!?」

「バカって言わないでくんない?将隆ちゃん、俺傷付いちゃうんですが-」

突然の電話での呼び出しに和志の奴何事もなかったように《辞表だしてきた》だと!?
足りない頭だとは思っていたが、4年も勤めた会社をあっさり辞めてしまう程とはな。

「引き抜きか?」

「違う。飽きた!」

「飽き……!?」

簡単すぎる理由に怒鳴ることすら忘れていた。

頭の中身はアレだが大手会社に勤めてはいたんだ。それを和志らしい辞め方ではあるが。

「次の仕事はどうすんだ?まぁお前の経歴なら引き手数多だとは思うが」

一応なり心配はする。俺自身の為に。コイツをフリーにしておけば必ず俺に絡んでくる回数が増えるのが目に見えているからだ。

俺のそんな気持ちとは裏腹に和志はニヤニヤと口元を歪めていた。

「じつは…」

次の言葉に驚愕よりも恐怖が頭を掠めてしまう。



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和志は昔から色々なものを《拾って》くる奴だった。子供の頃なら虫や犬や猫、学生時代の頃にはバイクを…。

このバイク拾得事件は俺にとっても記憶に根深く残っている。

和志の長所なのだろう《人と仲良くなる》と云うスキルの延長線上に《拾う》と云う短所が必ずや付いて来る。
そう言う俺自身が拾われたらしい。

和志による自己主張によればだが。まったくなんでこんな馬鹿と俺は…。

話を戻すとしようか。拾い癖は社会人になってから悪化したが、先の白倉君も和志が拾った一部だ。実は嫁さんも。

「柚奈美さんは元気にしてる?」

旧姓、白倉 柚奈美は和志の嫁さんにして白倉君のお姉さんだ。

「はい。相変わらずの規格外な教師ぶりを発揮してますよ」

言葉とは相反して嬉しそうに答えた。仲の良い姉弟である。

今ではの話だが。



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