堕悪魔の堕文屋《devil-69》 -15ページ目

堕悪魔の堕文屋《devil-69》

小説っぽいものを書いてみたりの堕ブログ


その晩は予定通り(?)深夜遅くまで続いた接待で、俺はしこたま酔わされていた。

気を抜くと落ちてしまいそうな重たい瞼を気合だけでもたせ、まだまだ煌びやかな街を後にタクシーで帰路についた。

運転手に目的地を告げホッと肩の力が抜けたその時、鞄の中で携帯が鳴った。

先程まで一緒だった上司からかと思えば、液晶には《和志》の文字が。

「いい加減にしろ、このバカ和志!!」

電話に出るなり、酔いと疲れの所為か大声で怒鳴りつけた。だが予想に反し無言が返ってくる。
それにすら苛立ち、再び怒鳴ろうとした俺を止めたのは、和志とは別人の落ち着いた呼び掛けの声だった。

「こちらの携帯の持ち主の方が佐々倉和志さんで間違いはありませんか?」

「失礼致しました、私は南警察署の生活安全課の西脇と申します。お電話を差し上げたのは・・・・」

教えられた内容に、流石の酔いも眠気も一瞬で吹き飛ぶ。
西脇さんとの通話を続けながら、俺は運転手に目的地の変更を指示していた。





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心配していた通りの展開が翌日から俺を襲った。

「まーちゃん、ご飯に行こー」

「今晩呑みにいくぞ!」

・・・・・。既に一週間の間がこの調子だ。はっきり言って鬱陶しい以外のなにものでもない。

十代の頃の付き合いってんなら分かる。が、俺たちは二十歳も過ぎ、社会人としての日々と外見もある大人のはずだ。和志も一度はエリートと区分されるランクの会社に勤めたことのある社会人のはず・・だ。

「和志いい加減にしろよ。毎日はかまってやると言った記憶はないぞ!」

小声で怒鳴っても些か迫力に欠けるが、仕方がない。俺は得意先の接待中で料亭の廊下の隅っこで、このアホからの電話を受けたからだ。

本当なら今すぐ和志のとこに飛んでいって奴を蹴飛ばしたい気持ちで一杯だ。否、そんなことをしたら反対に喜びそうだが。俺が相手をしてくれているとかなんとか勘違いしてな。

「拓真や長戸なんかも遊んでくれるだろ?俺ばっかりに言うんじゃねえよ」

高校からの腐れ縁仲間の名前を出せば。

「拓真はデートで、長っちゃんは残業だったし~、だからまーちゃんが遊んでくんないと俺が寂しいじゃんか~」

「みんなも言ってたし、将隆なら遊んでくれるって」

理不尽だ・・・。お前のその理由のどこに同情の余地があるというのか。
たんに他の奴らは和志を騙くらかし、面倒ごとを俺に丸投げしただけじゃねえかよ!次に会った時覚えてろよ・・。

「今夜は接待で出先だから絶対に無理だ」

「大人しく寝ちまうか、一人で飲みに行け。じゃ切るぞ」

返事を聞く前にとっとと電話を切った。

この電話で言ったことを後悔するとは、今の俺は知る由もなかった。






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《SS》閉じた眼差し




眠れないこんな夜

僕は暗闇を独り占めしてみる

目を閉じ何もない空間へと手を伸ばし

目蓋の内側に煌めく世界へと走り出す

無限に広がる黒色(こくしょく)が銀色の空間へ

僕の支配する感覚全てを染め上げる

僕が僕じゃなくなる瞬間

現実に堕とされる

さあ また朝が僕に影という現実を突きつける

再び訪れる夜の為に

この陽の光の中を生きていこう


END