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「近代化」や「自由化」、国際的な「開発」の問題や「資源」の問題に関する箴言の備忘録
第9章 ユーラシアの内陸諸国をめぐって
1.21世紀のシルクロード
(1)米国の視点
c. 中国
引き続き、米国(ブレジンスキー)の視点による捉え方である。
図表9-1 http://ameblo.jp/development-philosophy/entry-11962730918.html (2014年12月10日稿)からも明らかなように、中国は近年安定して高い成長を続けている。しかし、その発展経路上には、様々な制約要因や障害があり得ることも指摘されるところである。例えば次のような事柄を拾い出すことが出来る。
中国が今後も経済成長を続けるために必要とされる諸条件としては、
①政治的安定
②社会的安定
③有能な指導者
④貯蓄率の高さ
⑤海外からの大規模な投資の継続
⑥そして国際的環境の安定、といったものが指摘されており、これらが継続的に満たされるかどうか。また、増加率は下がったものの絶対数として増加している人口との関係で懸念される食糧輸入問題もあるし、経済成長になくてはならないエネルギーの問題もある。食料やエネルギーの確保は、基本的に中国の対外政策上の選択肢を制約する方向性を持った要素として考えておかなければならない。[31]
また、国内の地域的経済格差の調整や、経済の変化がもたらす社会の変化に対応した民主化の問題も避けて通れない。人口の絶対数が多い状態は続くので、今後たとえ一国規模でのGDPが3倍になっても、1人当たり水準で見れば決して高いとは言えず、貧困や所得分配に絡む問題は容易に解消しそうにない。[32]
以上のような発展の諸条件や諸問題が相互に関係し合っているのは言うまでもないことで、取り分け新疆方面の分離主義的動きに関係する問題も当然視野に含められるべきであるが、ここでは中央アジア地域全体との関連という切り口でのみ論を進めておきたい。
特にエネルギー問題に関して、中央アジアは、中国が深く関心を寄せる地域の一つとなっている。ところが既に見たように、この地域は、アメリカ、ロシア、イスラム圏諸国もそれぞれの関心において関わりを持ちつつある地域であるから、必然的に様々な部面での利害の衝突が生まれる。その利害の調整過程を自国に有利に展開しようとすれば、その背景には、自国の影響力の拡大を伴わなければならない。
しかし百年前ならいざ知らず、たとえ軍事力の面で他を凌駕し、かつ地理的優位性を持つ場合でも、今日のように世界規模でリンクしている経済体制の中にあっては、安易な同盟や単純なブロック化はかえって中長期的に国益を損ないかねない、とブレジンスキーは見る。
例えば既にロシアについて検討した際に見たように、中国とロシアの同盟という一つの想定は、確かに彼ら自身が、アメリカの覇権に対する一定の反抗姿勢という点で一致することはあるかもしれないが、経済面で考えれば魅力ある選択肢ではない。
中央アジア地域が中長期的に安定することで、自国(ここでは中国)のみならず他国にもそれぞれ経済的利益が或る程度行き渡り、良好な国際関係が維持発展出来るとするならば、関係各国は妥協や譲歩も重ねつつ、慎重な判断をしていかなければなるまい。各国が、中央アジア地域に進出する意欲を露わにすること自体は決して悪いことではない。むしろそれは他に対する牽制となり、相互に自重を促すことになるであろうし、そこに共通の利害が発見されることもあるはずである。
例えば、中国はエネルギー需要の増加に対応して産油地域への自由なアクセスを望み、かつその地域の政治的な安定を維持する必要を認める点で、アメリカと利害が一致している。また、中国とパキスタンの連携などについても、インドの対パキスタン政策への制約要因となるなど、多国間で利害の一致や衝突をはらみながらも、やり方次第ではユーラシア全体に精妙なバランスをもたらすと考えられる。[33]
【脚注】
[20] ⅰ)ブレジンスキー(前掲書)198,321頁
ⅱ)Brzezinski (1997) pp.121-121, 201-202
[21] ⅰ)ブレジンスキー(前掲書)242~243,315~316,322~323頁
ⅱ)Brzezinski (1997) pp.148-149, 198, 203, 209
[22] ⅰ)ブレジンスキー(前掲書)270頁
ⅱ)Brzezinski (1997) p.168
[23] ⅰ)ブレジンスキー(前掲書)220~221,226,241,244,324頁
ⅱ)Brzezinski (1997) pp.133, 136, 148-150, 203-204
ⅲ)http://www.pecj.or.jp/japanese/minireport/pdf/H26_2014/2014-010.pdf 「トルコの石油・エネルギー産業」も参照。
[24] ⅰ)ブレジンスキー(前掲書)98頁
ⅱ)Brzezinski (1997) pp. 53-54
[25] ⅰ)ブレジンスキー(前掲書)221~222頁
ⅱ)Brzezinski (1997) pp. 134-135
[26] ⅰ)ブレジンスキー(前掲書)244頁
ⅱ)Brzezinski (1997) pp. 149-150
[27] ⅰ)エマニュエル・トッド『帝国以後』(石崎晴己訳)2,34,46頁・藤原書店(2003) ⅱ)Todd, Emmanuel 2003: After the
empire. translated by C. Jon Delogu, pp. 12, 22 Columbia University Press
[28] ⅰ)ブレジンスキー(前掲書)219~220頁
ⅱ)Brzezinski (1997) p.133
[29] ⅰ)トッド(前掲書)59~60,63~65頁
ⅱ)Todd (2003)pp.33-34, 36-37
[30] ⅰ)トッド(前掲書)65~67頁
ⅱ)Todd (2003)pp.37-39
ⅲ)ちなみにトッドによれば、ロシア経済およびロシアとヨーロッパの連携についても、楽観的な見通しが立てられている。
すなわち、ロシアには、労働力人口の教育水準が相対的に高いことと、エネルギー面でのいかなる依存性も持たないという、二つの強みがある。これらを組み合わせることによって、独特の経済強国になる可能性がある。ロシアの広大な国土と豊富な資源は、かつてはスターリンの一国社会主義という考え方を可能にしたが、今後は、対外収支の均衡とエネルギーに関する自律性を備えた巨大な民主制国家として浮上することも出来よう。
数値としては古いが、トッドの同著によれば、2001年にロシアとアメリカの貿易量は約100億ユーロ、ロシアとEUのそれは約750億ユーロであった。ロシアは、アメリカ抜きでやってはいけても、ヨーロッパ抜きでは立ち行かない。最近数年ロシア経済は回復を続けており、対外債務の利払いも困難でなくなって、国際経済面で信頼出来るパートナーとして振舞えるようになってきた。ロシア経済の再始動は、カフカスや中央アジアの全域に再び活気を与えることが出来るかもしれない、という。
なお、ロシアのみならずカフカスや中央アジア地域に共通する社会的特徴として、共同体的家族構造を持っていることが挙げられる。この特徴は、粗暴な個人主義に抵抗し、確かに権威主義的な政体を保存する要因にもなったが、今後は、自由化されながらも共同体的感性を踏まえることの出来る政治的・経済的政体のあり方の模索へとつながっていき、いわゆる民主主義のあり方に多様性を与えていくであろう。
このような政治経済理論的な領域においても、昨今のCISの動向は重要性を持つと見られる。
ⅰ)トッド(前掲書)206,210,217~221頁
ⅱ)Todd (2003)pp.156-158
[31] ⅰ)ブレジンスキー(前掲書)259~260頁
ⅱ)Brzezinski (1997) p.160
[32] ⅰ)ブレジンスキー(前掲書)261~264頁
ⅱ)Brzezinski (1997) pp.161-164
[33] ⅰ)ブレジンスキー(前掲書)296頁
ⅱ)Brzezinski (1997) p.187