愛弟子たちと、プロデューサーのニコル・チーチョ氏とのバンド「河豚毒コロリ団」。この夏、私はコロリ団の新曲制作に取りかかっていた。実弟との協同作業により、瞬時に曲が完成。後は、詞を書くのみとなった。
一人、暗室に籠もって思考。
完成した曲は、スラッシュなリフに、ツインボーカルによる妖艶なメロディとノイジーなラップが絡み合うニューメタル・ゴシックな曲調である。そのため、詞も書きがいがあり、じっくりと時間をかけて取り組むことにした。
まず、メロディ部分は割と早々に書き上がった。残す所はラップ部分である。日本語、古語、梵語、様々な案が交錯する中で、脳裏に浮かんだものはこれであった。
呪文。
ラップをそのまま呪文を唱える形にして、ラップの概念の外側へ。しかし、この呪文というアイデアを思いついてしまったことこそが、分析気質の私を長い長い研究の沼に頭からダイビングさせてしまう要因・原因となる。
呪文を取り入れるにしても、適当ではいけない。きっちりとした研究・調査をした上で、詞は綴っていかなければならない。そこで登場するのが、これだ。
羽仁礼著『図解 近代魔術』(新紀元社)
本連載、再登場。伝説の書籍『図解 近代魔術』。愛弟子・柿薔薇皇帝とネタ合わせをしていたとき、ネタ合わせそっちのけで笑い転げた『図解 近代魔術』。早速、索引を調べると、そのものずばり「呪文」という項目があった。「第4章 魔術の道具」の中にそれはあった。
それでは、本文を引用しながら進めよう。
「魔術的な結果を生むために口に出して唱えられる特定の言葉を総称して呪文と呼ぶ。呪文の内容は、一般的に典型的なものが多く、直喩や隠喩、擬音や節回し、古語や不可解な語がしようされることもしばしばあるが、その種類や用法は様々で・・・」
なるほど、よくわかる説明である。「不可解な語」が気になるが、ここでは「様々な種類や用法」をクローズアップしたい。「様々な種類や用法」について、本文はこう続く。
「病気や災厄を祓ったり、事業の成功を祈願したり」
妥当である。これは、呪文を使う場面として極々適切である。だが、次はどうだろうか。本文はこう続くのだ。
「くしゃみやあくんびなど不吉な生理現象が生じた場合の厄払い」
不吉な生理現象に厄払いがあるか。そして、くしゃみやあくびは不吉なのだろうか。くしゃみは、誰かがうわさ話をしているなどとよく言われるが、不吉な生理現象とはいえないのではないか。それとも、西洋ではとても不吉なことなのだろうか。それならば、例えば日本だと江戸っ子の「へくしょーい!ちきしょーめ」の「ちきちょーめ」が厄払いにあたるのだろうか。さらに、本文は続く。
「体をぶつけたりしたときに痛みをこらえる文句など」
痛いの痛いの飛んでゆけ。やかましわ! 痛みをこらえる文句、他にどうのようなものがあるのか。気になる。それを教えてくれないかい、『図解 近代魔術』よ。さらにさらに、本文はこう続く。
「ほとんどありとあらゆるものがある」
なんでもありなんじゃないのかい。呪文の種類・用法には、「ほとんどありとあらゆるものがある」
なんだか、よくわからない文句であるが、奇怪さが迸る文句である。
ほとんどありとあらゆるものがある。
肝心の具体的な呪文を調べる前に、呪文の種類や用法にはまってしまった。集めるのだ。呪文関連の書籍を集めるのだ。一週間にわたる収集の結果、以下のようなタイトルの書籍が集まった。どのタイトルの書籍が参考になるのか検討したい。
『大人になる呪文』
違う! そういうのを求めてはいない。
『大人になる呪文 新学期』
だから、違う! 新学期をつけても変わらないぞ。
『少年テングサのしょっぱい呪文』
どんな呪文なんだ。所詮、少年だ。
『魔法の呪文を唱えたら』
どうなるんだ! その呪文自体を教えてくれ。
『魔法の呪文を唱えたら2』
続編はいいから、呪文のことを詳しく教えろ。
『大好き! 今日からの私~愛される心とからだをつくる秘密の呪文集』
怖いよ。これは怖いよ。
『人生を変える笑顔のつくり方:絶対、運が開ける笑顔セラピー』
呪文じゃねえじゃねえか。いや、これは本文に呪文が記載されていたのだ。
「寝る前に《自分専用の魔法の呪文》 あなたが毎日、寝る前の1分前間言い続ける言葉は何でしょう。誰でも使える呪文を2つ提示しておきました」
提示してくれている。その呪文とは。
「私は、1日、1日、すべてが良くなっていきます」
ざっくりした内容。すべてが良くなる。すべてというのは、よくばりすぎてはいないだろうか。まさに、「ほとんどありとあらゆるもの」なのではないか。
さらに、もう一つの呪文とは。
「ツイテル、ツイテル、ニコニコ元氣!」
ほとんどありとあらゆるものがある。
呪文とはかくも奥深きものだったのか。いやいや、ちょっと待ってくれ。これは、自己啓発、もしくは「おまじない」の類ではないか。そうではなく、私は魔術的な呪文の調査・研究をしていたのだ。サラ・リトヴィノフ編、風間賢二訳『世界オカルト事典』によると、悪魔を呼び出す際の召喚魔術なるものがあるという。
集めろ、集めるんだ。召喚魔術関連の書籍・資料を!
詞が完成する日は来るのだろうか。
