ホットスナックコーナーの方法 | black kairitu

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デス師匠のweb連載Season3。毎月1日更新。コラム、レビュー、レポート、詩、ショートショート、日記など。増刊号、号外、休刊あり。

 前シリーズのコラム『ハガクレガクレ』において、私は書いてきた。

 大人への関門を。

 2007年6月 29歳にして、一人でカレー専門店に行くことに成功。

 2007年7月 29歳にして、一人で牛丼店に行くことに成功。

 当時、私は友人・知人と一緒にではなく、一人で食べ物屋に入ることができないという長年のリスクを克服した。32歳となった今、私はだいたいの所に一人で食べに行くことができるようになっている。
 ところが、2010年、新たなミッションが眼前に立ちはだかったのだ。

 コンビニのホットスナックコーナー。


 コンビニのレジの横にある、あれだ。あれを私は、注文したことがない。そもそも、家庭の方針で幼少のころから炭酸飲料とジャンクフードを禁止されてきた。今でもコーラを飲むと、しゃっくりがでる。ホットスナックコーナーの品物など注文しようとしたことすらなかった。30歳をすぎ、「からあげくん」も「ファミチキ」も一回も食べたことがないのである。友人との会話で「からあげくん」という言葉が登場しても、なんとなくで理解しているふり、知っているふりをしてきた。あろうことか、「からあげくん食べたい」という友人に対して、「ああ食べたいね」などと同調したり、「からあげくんぐらい人気か!」などと、食べたことがないくせに例えツッコミの材料として使用していたこともあるのだ。

 なんという空虚感。

 ただ、必ずあのコーナーの商品は、美味しいに違いない。そして、経験に裏打ちされた正しい例えツッコミをするためにも、スナックコーナーの商品を実際に食してみる必要がある。

 しかし、注文の仕方・方法が分からない。まず、ホットスナックコーナーのものを注文するためには、レジの横に近づくことが必要である。何の商品も持たずに、レジに近づくと店員が不振・不思議に思うのではないか。想像してほしい。

 

 何の商品も持たずにレジに近づいてくる客。

 

 恐ろしい。末恐ろしい。商品を購入することが目的のコンビニエンスストアで何の商品も持たずにレジに客が近づく。これは、まさに不条理でないのか。カミュもベケットも裸足で逃げ出すほどではないが、とにかく不条理だ。商品を購入することが目的のコンビニエンスストアで何の商品も持たずにレジに近づいてくる客。それは、もはや不条理ゾンビである。『不条理ゾンビ』近日レンタル開始!

 さて、話をもどそう。つまり、何の商品も持たずにレジに行くことは避けたい。ならば、何でもいいダミーの商品、スナックコーナーの商品を購入するために、何か別の商品をレジに持って行けばいい。

 しかし、しかしである。レジに商品を持っていった場合、すぐにその商品のバーコードが読み取られ、商品購入の一連の流れが進んでいくことになる。そうなると、早急にスナックコーナーの商品を注文する必要がある。おちおちしていては、スナックコーナーの商品を注文する前に、精算が終わってしまうのではないか。それだけは阻止しなければならない。そのためには、まず、あらかじめ自然な感じでスナックコーナーに何の商品があるかを調べた上で、挑むのが得策。在庫のない商品を注文しても、失敗してしまう。自然な感じで、在庫を確かめる。そうだ、お菓子が売っているコーナーから横目で確かめる。これが、ベストだ。これで完璧と思った瞬間、また一つ懸念材料が脳裏を過ぎった。


 どのタイミングでホットスナックコーナーの商品を注文したらよいのだろうか。


 別の商品をレジに持って行ったと同時に注文する。早すぎてもおかしい。商品をまだレジに持って行く前に注文するのも明らかにおかしい。また、遅すぎてもおかしい。ホットスナックコーナーの商品を買うためのダミーの商品のバーコードをバーコード・リーダーによって読み取られた後では、店員に迷惑がかかってしまう。別の商品をレジに持って行ったと同時。これしかない。


 決戦当日、ホットスナックコーナーの中で目についたのは。

 

 アメリカン・ドッグ。


 それをほおばる全ての民をアメリカンな気分にさせてくれると言われる「アメリカン・ドッグ」。CDを持っていなくても、ほおばるだけで「モトリー・クルー(※1)」が聞こえてくる貴重な調理品。それが、「アメリカン・ドッグ」。うわさには、聞いていたが、こんな所で売買・取引されていたのか。


 私は、計画通りに注文をし、精算をすませた。


 成功したのである。

 

 「からあげくん」、「ファミチキ」を食す日は近い。


 P.S.ただし、食しながら聞こえてきたのは、「モトリー・クルー」ではなく、「ラット(※2)」であった。

 

 「Round and round  Will love find a way  Just give it time!」



 〈FOOTNOTE〉


 ※1 モトリー・クルー (Mötley Crüe)  1981にロサンゼルスで結成されたロックバンド。結成以降、ロックシーンを数々のゴシップで騒がせている「セックス、ドラッグ&ロッケンロール」を地で行くバンド。

 ※2 ラット(Ratt) アメリカのハードロックバンド。1980年代に隆盛したLAメタルの代表的存在で、モトリー・クル   ーと双璧をなす。