週に何度か行くBarがある。名前は内緒だ。

一人で行くことが多いが、時々は女性と。

女性と言っても恋人ではない。

彼女の愚痴を聞くのが私の役目だ。

「ねぇ、ヒドイと思わない?」

ヒドイの内容はよく覚えていないが、確か「ピザの切り方」が発端になり喧嘩が始まっ
たという話だった。

どっちにしても他愛もない話から喧嘩が始まったみたいだ。

「ねぇ、ヒドイでしょ?」

彼女はもう一度言った。

「うぅん、ヒドイね」私は笑いながら言った。



少し間があいて、二つ隣のカウンター席から同じセリフが聞こえてきた。

「ヒドイでしょ?」

「それヒドイ!」

こちらは女二人で盛り上がっている。

世の中にどれだけヒドイ男が溢れているんだと思うくらい「ヒドイ、ヒドイ」


でも、私の考えはちょっと違う。

なぜなら数ヶ月前、同じ店でやっぱり女友達の愚痴を聞いていた。

そして

「ヒドイと思わない?」

散々、愚痴を聞いて朝まで飲み明かした。

数日後、ヘトヘトに疲れた仕事帰りにメールが届いた。


「この間はありがとう。私たち結婚することにしました。また飲もうね。」





だから私は「あまりヒドイとは思わないけどなぁ」と今、隣にいる彼女に言ってみた。
少し驚いたような顔をしたので、「ヒドイ。それ、ヒドイ」と言い直した。



今日もこの瞬間、あちらこちらで「ヒドイでしょ?」の会話がされている。

最近、私はそれが「アイノウタ」に聞こえてしょうがないのだ…

(ショートストーリー)

もう何年前になるかな。たぶん2~3年前。

ある一人の女性が好きでした。

世界的に有名な演出家の芝居を観て。夜、食事をした。

「また、会おうね」と言って地下鉄の改札で別れた。

それ以来。会わなくなった。どうしてだろう。

嫌いになったわけじゃない。好きだった。



しばらくしてからメールがきた。「元気?なんとなく思い出してみた」

短いメールだったけど、うれしかったな。

すぐに返信したんだ。ちょうど、彼女とあの日別れた場所にいたから。

「今、銀座にいるんだ。食事でもしない?」

でも断られた。当たり前か。「また今度」

それでもうれしかった。


また、しばらくして、なんとなくネットでブログを見ていた。

たまたま彼女のブログを見つけた。

「大好きな人と一緒にいることが幸せ」

そう書いてあった。


大好きな人できたんんだ…

秋はもうすぐ。そこまでやってきた。