週に何度か行くBarがある。名前は内緒だ。

一人で行くことが多いが、時々は女性と。

女性と言っても恋人ではない。

彼女の愚痴を聞くのが私の役目だ。

「ねぇ、ヒドイと思わない?」

ヒドイの内容はよく覚えていないが、確か「ピザの切り方」が発端になり喧嘩が始まっ
たという話だった。

どっちにしても他愛もない話から喧嘩が始まったみたいだ。

「ねぇ、ヒドイでしょ?」

彼女はもう一度言った。

「うぅん、ヒドイね」私は笑いながら言った。



少し間があいて、二つ隣のカウンター席から同じセリフが聞こえてきた。

「ヒドイでしょ?」

「それヒドイ!」

こちらは女二人で盛り上がっている。

世の中にどれだけヒドイ男が溢れているんだと思うくらい「ヒドイ、ヒドイ」


でも、私の考えはちょっと違う。

なぜなら数ヶ月前、同じ店でやっぱり女友達の愚痴を聞いていた。

そして

「ヒドイと思わない?」

散々、愚痴を聞いて朝まで飲み明かした。

数日後、ヘトヘトに疲れた仕事帰りにメールが届いた。


「この間はありがとう。私たち結婚することにしました。また飲もうね。」





だから私は「あまりヒドイとは思わないけどなぁ」と今、隣にいる彼女に言ってみた。
少し驚いたような顔をしたので、「ヒドイ。それ、ヒドイ」と言い直した。



今日もこの瞬間、あちらこちらで「ヒドイでしょ?」の会話がされている。

最近、私はそれが「アイノウタ」に聞こえてしょうがないのだ…