でまあ、来ちゃいましたよ、昼酒しに。
昼下がり、青砥から散歩すること20分、堀切菖蒲園の駅前にはこの時間からしっかり暖簾がかかっています。裏手に回ると、きちんと商い中の札が出てますね。暖簾を潜って「こんにちは」。
時刻は1時30分を少し回ったところ、この時間から先輩達お二方がカウンターでやられています。背中を通していただいて、今日は龍の頭の部分、テレビの真正面に腰を下ろさせていただきます。
昼のサーブは、お兄さんの担当なのかな、お父さん、お母さんはいらっしゃらないご様子です。ほんわかした声音で「まずお飲み物は」と声かけてくれるお兄さんに、ボールをお願いすると、角型タンブラにすりきり一杯のハイボールがすぐに出てきます。一口いただいて、クゥッ、平日昼酒はたまらない~と、喜びを再確認。実に幸せな気分にひたります。
僕と入れ替わる形でお一方帰られて、広いお店の中には六十絡みの白髪の先輩とあたしと二人だけ。お兄さんは調理のために厨房にかかりきりです。店内にはバンクーバー五輪のスピードスケートの中継の声と、時折、震動とともに電車が行過ぎる音だけが響いています。その中で、一人ボールをゆっくりとあおる…まるで、日常から切り離された静謐な空間に滞在しているよう、なんとも贅沢なひと時です。
お品書きの数々をゆっくりと見回して、あれもいいな、これも美味しそうと、思索にふけるのも楽しい時間。普段は黒板の隅々まで眺める間もなくお願いしちゃいますからね。気づいたのが、お鍋メニューの脇に〆のうどんと卵があるとですね。先日いただいた肉豆腐にうどんで、炭水化物飲みもできるということは、完璧なランチスポットやないですか~。
数ある黒板メニューの中からアジ酢を発見、さらに厚揚焼はなんと驚愕の150円、この二品で行ってみようと、カウンターにしつらえられたベルをチリン。この澄んだ音が、何とも遠くまで良く響きます。潜水艦酒場の異名よろしく奥行が普通のお店の倍はあり、かつ稲妻型の構成では厨房から入り口付近はまるで見えません。いわば龍の頭部のコの字カウンターと、入り口から長く伸びるL字カウンターの二つのお店が無理栗ドッキングしているようなものですわ。となると注文時にはこのベルの音が大活躍するわけです。
もっとも今日は厨房に声の届く位置、ちょっと失礼でしたかね(^0^;。「は~い、ただいま」の声とともに、お隣様の魚フライを運びがてらにこちらに来てくれます。何せ一人で切り盛りですから、大変です。アジ酢があるか聞いてみると、残念ながら今は切れているとのことで、ではしめ鯖と厚揚げでお願いします。
ここでお隣のお父さんのお友達がおいでになり、少し店内が賑やかになります。大工さんかな、朴訥な喋り方のお友達、テレビを見て「オリンピック見てても、日本勝てないよ。時代劇やってないの~?」と、テレビが時代劇専門チャンネルに切り替わり、二時から水戸黄門の再放送。「お、里見浩太朗のやつだな」と、「昔は月形龍之介だったけどな、お兄ちゃん知ってるか、月形龍之介?」とお隣さんが声をかけてくれます。さすがに存じ上げないなぁ(^^;…でも、この会話をきっかけに、石坂浩二は短かったとか、里見黄門はまなじりが強すぎるとか、水戸黄門を肴にお二人の話に入れてもらえました。世代を超えて、話のネタを提供してくれるとは、水戸光圀公に感謝ですね。
和気あいあいと話をしていると、しめサバさんがご登場です。どどんと角皿に盛りつけられた、この迫力見てください。これで300円なんて、信じられますか?
しかも価格だけではなく、赤身の残るなんとも淡いしめ具合がいいじゃないですか。一口いただくとサバのもつ脂が口の中に広がり、なんともウェットな仕上がりになっています。これは絶品ですなぁ。それにつけても、一人じゃもてあますほどの分量には、頭が下がります。
続けて、出てきたのは厚揚げさん。これは予想していた四角いものではなく、薄揚げを半分にきった三角形のお揚げに、鰹節とネギをたっぷりまぶしたもの。肉厚の豆腐感たっぷりの厚揚げではないものの、サクサクした歯触りが楽しめるこのタイプもまたいいアテになりますね。
二杯めのボールをお願いしますと、お兄さんが一升ビンから魔法のエキス入りの焼酎をタンブラにどはどば、そして栓を開けた炭酸を注ぐと、これまた見事にすり切り。置かれた炭酸の瓶を拝見すると、キクスイDRINKの銘、千住の炭酸メーカーさんのようですね。千住の方にもあるんですねぇ。
なんてやりながらも、お二人との話は尽きず。
聞けばお二人は、線路沿いの角打ち、金子酒店から流れていらしたとのこと。昼過ぎから既に四つやっつけていらしたとのことで、
「お兄ちゃん、卵食べるかい?」なんて、金子からお持ち帰りになったお裾わけまでもらっちゃいました。うまかったなぁ、ゆで卵。
さて、二杯目のハイボールも干したところで、そろそろ御馳走様をしましょう。今日のお会計は、990円…では、そのままでと千円をお兄さんにお渡しすると、「ありがとうございます」と深々と頭を下げられます。いえいえ、逆にこちらが恐縮してしまいますよ。楽しい時間を過ごさせてくれた先輩方とお兄さんに、「お先します、また来ますね」とご挨拶してのれんをくぐると、ちょうど買い物からお帰りになられたお母さんとばったり。「いつもすいません」とお母さんのニコニコ笑顔も見られたし、見上げると青いテント越しに青い空、なんとも満足感いっぱいのランチ酒を堪能できました。
ごちそうさま、また昼酒しにお邪魔します♪
