1月29日二軒目~
小島屋での思わぬ出会いを楽しんだあと、K坂夫妻の旦那様を巻き込んで、さあ参りましょう、本日の目的店。駅前に見目鮮やかな青いテント、夜だとまた綺麗だねえ。堀切菖蒲園下車30秒、ガード下の潜水艦酒場と名付けたのは下町の巨匠Fさんですが、ここがきよしさんでございます。
数日前に、歩く酒場データベースKさんから、メールをいただきました。その内容はちょっと衝撃的なもので、きよしが移転のため3月末で現在のお店を閉めてしまうというものでした。再開発があるでもなく、ガード下にしっかり根を張って営業されているきよし、まさか移転の話が持ち上がるなんて、まさに青天の霹靂、機会を見ていかなければと思っていたところに、折よくへいちゃんからのメールが舞い込んだわけでございます。その話を小島屋でしました所、地元在住5年のK坂さん、まだきよしは未体験ということで、ご同席と相成りました。これも縁ですねぇ。
こちらのお店、駅側に向いた入口と、線路沿いの路地に少し入り込んだところにもう一つと、入口が二つあります。駅側の入口から入りますと、延々人様の背中を歩くことになりますので、今日は脇の入口からこんばんわ。
と、入ってすぐのL字の短辺にお客様がお二人、2席空けてまたお二人、3人並ぶのは難しいかな?…と思っていましたら、先の方のお客さんがカウンターの段差(きよしは、入口から続くL字と奥のブロックとでカウンターの高さが違うのです)を乗り越えて、移動してくださるとのこと。「ありがとうございます」と御礼を言って、無事3人並んで掛けることができました。
黒板前のベストポジションですねえ。注文は、もちろんボールを三つお願いします。広い店内を接客のお父さんと、厨房の中のおかみさんとお兄さんの3人で賄っています。小島屋で下地は出来上がっていますので、ゆっくり店内を見回しながら待ちましょう。
はじめていらした二人はもちろん、僕も相当久しぶり。やっぱり迫力あるよなぁ、この店内。駅前の入口を見る限り、カウンター15席位の狭い店内と思っている方が多いのですが、実はこのお店、先ほど言いましたように、奥があるんです。
特徴的なのはそのカウンターの姿。駅前からガードに沿って長い直線カウンターが延び、側面入口の前で直角に折れ、今我々のいるブロックの先で更に逆に折れた先がコの字を成しています。その形状はさながら、奥に向けて口を開いた龍が、駅に向けて長い尾を延ばしているかのよう。このため席数は30近くになるんじゃないかしら…いや、もっとかな…、なんて話を3人でしていますと、四角いタンブラに並々と黄色い葛飾ボールが運ばれてきます。
まずは本日2回目の乾杯を交わして一口。小島屋のものほど炭酸のキックは強くありませんが、色に比例して素の味わいが強調されているように思います。実は大きな記憶違いで、きよしのボールは無色のドライ系だと思い込んでいました。それだけご無沙汰の僕だけに、感慨もひとしお。実に美味しいボールです。
さてさて黒板メニューから食べたいものをば、あたしは名物の肉豆腐は外せないとして、ハムカツに馬刺しなんかも行っちゃいますか。よく見るとツッコミ処満載のメニューの中でも、書き間違いじゃないかと思う最たるのを行きましょう。合鴨煮もお願いします。
ひとしきりオーダーを済ませたところで、改めて店内を見回し、その趣にひたります。初めていらしたk坂さんも感激しきりのご様子で、きよしのような建物や立石ののんべ横丁のような施設は、失ったら取り返しのつかないものなので、お金がかかっても残すべきだと力説しています。まったく同感ですね。先日、新聞のコラムにも丸ノ内あたりの伝統的建築がかたや潰され、一つは復元されというお話しが出ていましたが、石造建築ならともかく、木と紙の建築では、新しく立て直したらそれは新しい建物。 なかなか積み重ねられた古色まで再現することは難しいですよね。だからこそ保存が必要なんじゃないかなぁ>と、k飾区議場の方向にそれとなく目を向けながら、誰とはなく(苦笑)。
なんぞとやっておりますと、まずはハムカツと馬刺しがご登場。ハムカツは分厚い塊がごろっと四つ。一口いただくとクリスピーな衣の歯ごたえが快く、断面を見てみると半分に切られた赤いハムが二枚重ねになっています。それでこの厚さかぁ。なんともポリューミィ。加えて、ソースと衣の油の味わいって、酒のあてとして絶品ですよね、特にボールにはよく合うんだよね。このボリューム感で280円でいいんでしょうか、一人酒だとこれで結構おなか膨れてきますよ。
続いていただく馬刺しの色合いがいいですね。赤すぎず茶色でもなく、なんとも落ち着いた風合い。しょうが醤油にちょっとつけていただけば、舌に絡みつくようなしっとりした質感が嬉しい。これまた何切れのっているのやら、これで350円ですからね、奥様の味方ですわよ、オホホホ。
席数も多いけど、入っていらっしゃるお客様もまた多い。比較的手前は会社帰りのネクタイ組が多く、グループ毎に一席二席空けていらっしゃるのに対して、奥の頭の方はなじみの方が多いようで、皆さんびっちり席を詰めて、膝詰めでお話しを楽しんでいます。先ほどずれていただいたご夫婦と僕の間にも、いつの間にやらどてらを着た白髭のご老公が座られています。
ご老公、新参の僕らに「初めて来たのかい?」、僕は何回かで彼らは始めてですとお返しすると、「俺は年に300回くらい来てるから、わかんないことがあったら何でも聞いてくれよ。」と、こういう新参に気安く声をかけてくれる常連さんのいるお店は、嬉しいですよね。
それにしても年に300回って、しんちゃんじゃないんだから…あ、しんちゃんと言いますのは、人形町のおでんやナポリの超常連さんでして、平日のみ営業のナポリに年間200回以上は通ってらっしゃるそうです。でも、ご老公にしてもしんちゃんにしても、なじみのお店に毎日通う楽しみ方も、酒場の楽しみ方の理想系の一つですよね。あちこち渡り歩く楽しさもあるけど、お店の人、お客さんと家族のように親しめる関係、うらやましいなぁ…というか、普通のかたはそういう楽しみ方の方が一般的ですよね(^^;。
居酒屋開拓のあり方に思いをはせていますと、お母さんが奥から鍋台をもってきて、目の前のガス栓にセットしてくれます。続けて厨房から運ばれてきたのは、予想外に大きな鉄鍋。中には豆腐に白菜、牛肉とてんこ盛り、これがきよしの肉豆腐じゃい!早速火をつけていただいて、ぐつぐつ煮込みが始まります。
火加減が強いなあと思って調整しようとするも、手前のコックが回らない…あれ?と思っていると、お母さん、置くのガス栓で調整してくれます。「古いから、こっちで調整するのよ。このお店も、三月までで引っ越すから…」と、少し淋しそうな様子のお母さん。亀屋さん同様移転して続けていただけるのは嬉しいところですが、毎日帳場に立ってきたお店が移るというのは、やっぱり感慨もひとしおなんでしょうね。
さあ、煮上がったぞといただきますてぇと、これがみんなに一椀ずつ分けてもまだ半分位の残りのある量。先ほどのハムカツでもあてとしてボリュームがあると申しましたが、一人で来たらこれだけで終われますぜ(笑)。
角度の問題で二人からはお鍋メニューの値段が見えません。さて、おいくらでしょうか?…とお教えしますと、これが450円。二人も目を丸くしていました。ボールが270円ですから、肉豆腐にボール二杯で990円、見事なセンベロ酒場でございます。らもさん、斉藤酒場まで行かなくても、おいらの近所にあったよセンベロ酒場(笑)。
そして、リーズナブルの極地をご覧ください。鴨の身を削ぎ切りにして、しっかりと煮しめられたこちら合鴨煮。なんと驚きの150円でっせ。あたしも身間違いかなと思って、黒板を何度見もしたんですけど、やっぱり150円って書いてあるように見えるんだよなあ。ちなみに値段だけじゃない、鴨肉の旨味と煮汁の旨味が掛け算して、九九88って感じの美味しさです…ってわかりづらいわ。計算以上の旨味ということを表現したかったんですが、やっぱり伝わりませんよね(^^;
あ、12時からランチ営業してるんでしたね、これは三月までに是非昼酒のゆるい気分で、龍のカウンターを満喫したいものです。どうもご馳走様でしたとお会計をお願いすると、金額はなんと3200円。
いやはや、これだけのクオリティのあてで、しかもボールもほどよくいただいて、なんとも幸せな気分になれる酒場です。まして文化遺産としての建物、そして店全体の雰囲気も上質で、ああ久々に来れて大満足の一日になりました。これも声をかけてくれたへいちゃんのおかげ、気をつけて岡山に帰ってくださいね。また、上京の折は今度こそ一緒に宇ち入りましょう。k坂さんとはまた千住で~。
駅でお二人を見送って、家までは京成電車でわずか二駅。歩いても30分ほどの道行きに、これだけのお店がある嬉しさ、それでいてその魅力に気づかないままに、足早に前を通り過ぎてきたこれまでの自分。幸せは身近なところにあるものですね。きよしに再び出会わせてくれたkさんのご連絡に改めて感謝して、今日の結びとしたいと思います。またお邪魔しますね!
きよし 12:00~23:00(金・土遅くまで) 水曜定休 (※2010年3月末移転予定)