これがあたしの原体験 -お好み焼き石井(西千葉) | 丁稚烏龍帳

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today,detch stood live on the earth,too…

                               1月16日(土)しょにょ3

 雪の熱海、夕暮れの葛西と凍え切った夕暮れ時、観覧車の影にまもなく日が沈みますね。

 ガラスでできたテラスから、東京湾の向こうに沈む夕日を眺めるのもいいけれど、もう間に合いそうもありません。では、葛西を後におなかを満たしに行きましょう。

丁稚飲酒帳-紫のれん  西船橋で京葉線から総武線に乗り継いで、降り立った駅は西千葉。あたくしの学生時代、思い出のまちであります。西千葉駅を南口に下りると、正面に西友、と駅前すぐのとんかつ屋さんが閉店されてたり、一方、昔古本屋さんのあったところに、手羽先で飲めるお店ができていたりなど、移り変わる時代の波を突きつけられる感があります。あれから15年ですからね、そりゃ町の様子も変わりますよ。


 でも、変わらないで頑張っていてくれるお店もあるのです。今夜はそんなお店で温まろうと、紫に染め抜かれた大暖簾をくぐります。場所は弥生小学校近くのファミリーマートのお隣、お好み焼きいしいさんです。

 のれんをくぐると、鉄板前で新聞を読んでいたおばちゃんが、「あらあら、ようこそ、いらっしゃい」と人懐こい笑顔を浮かべてくれます。「今日は寒かったでしょ」と、言いながら焼き台向こうに入って行かれます。暖房の効いた店内は温かく、また学生時代から変わらないおばちゃんの声のトーンが、ほっと心を温めてくれます。


丁稚飲酒帳-鉄板屋  店内は鉄板前に五席、四人掛けと二人掛けのテーブルというつくり。鉄板の上の、大阪弁の暖簾も変わらないなぁ…って、このいしいさんには、年に二、三回はお邪魔しているので、あの頃以来というわけではないんですけどね(^^;


 いろいろ種類のある中で、たまにはヤキソバもいいなぁなんて思いながらも、つい決まったものをオーダーしてしまいます。今日も電車の中での打ち合わせどおりに、豚玉の大とネギ焼のスジコンをお願いします。「はい、ありがとうね」言いながら、早速冷蔵庫から野菜の入ったバットを取り出すおばちゃん。お皿にサービスのサラダを盛り付けて、ドレッシングのボトルを菜ばしでグルグルッとかき混ぜる姿も矍鑠として、おばちゃん本当にお元気やねぇ。「ようきてくれたね、ありがとうね」とこれがおばちゃんの口癖のように、入ってきたとき、サラダを出すとき、そしてお店を出る時、繰り返し語りかけてくれる言葉が嬉しいですね。


丁稚飲酒帳-いしいサラダ  また、今日のサラダは盛り盛りですねぇ。m蔵さんなどは、「ワシは食が細いきに、こんサラダで腹ぁ一杯になってしまうわ」と言ってます。お酢と塩気の効いた自家製ドレッシングがまた美味しいんですよね。オイリーな中に酸味と塩気がガツンと効いて、これが荒切りのキャベツとキュウリにぴったり合うんだなあ。単純な構成に思えるんですが、この味わいはどこでも食べたことがないのですよ。どちらかのメーカーさん、「いしいのドレッシング」売りだしませんかぁ?


 お好みは、おばちゃんが奥の台で焼いてくれるのがいしいの流儀。山芋たっぷりの粘り気の強い生地に、卵を割りいれて混ぜて混ぜて、これを焼き台の上に広げるのですが、たっぷり30cmはあろうかというボリューム感が目を楽しませてくれます。

 スジコンの方は、サラリとした生地をクレープ状に薄く広げて、ここに青ネギをたっぷりと広げ、その上にスジコンニャクを丁寧に並べてくれます。丁寧に隙間なく並べられたスジコンの量はまた、こんなにいいんですか?という位。

 大振りの生地をコテ二本でひっくり返し、火の通り具合を確認する様子は、まさにお好みを丁寧に育てているよう。焼きながらも、「今日はセンター試験で、大学院生が締め出しになっちゃったんだよ」とか、「西千葉の駅前、変わったでしょ」と、最近の西千葉事情を色々語ってくれるので、サラダを食べながら焼き上がりを待つ間も楽しめます。


丁稚飲酒帳-原体験豚玉  さてさて、豚玉の脂がコンガリと焼けて、いい香りが漂ってきましたよ。焼きあがったところでソースをたっぷり、マヨをドカン、青海苔に鰹節をまぶしたら、いよいよ完成です。温められた鉄板の上に、巨大な楕円が運ばれてきます。大きいなあ、厚いなあ、踊る鰹節が食欲をいやが応にも刺激してくれます。「スジコンもあがるから、食べててね」と渡された小さいコテで二つにわって、一口。

 ふっくら仕上がった甘味を感じる生地に、紅しょうがの香りが効いて、これです、これ、美味しいなあ。山芋がたくさん入っているからだという、生地のふんわり感がたまりません。生地だけでなく、コンガリ焼けた豚のクリスプさと脂の旨味が食欲を刺激して、さらにソースの甘さが舌を心地よく刺激してくれますねぇ。

 
丁稚飲酒帳-こてを使うて  色々な食べ物の原体験ってあると思うんですが、僕にとってのお好み焼きの原体験って、ヨーカドー系列のイートインショップ、ポッポの味なんですよね。あの紅しょうがの効いた生地の味わい、それに通じる美味しさがこのいしいの生地にはあります。おばちゃんのトークともあいまって、なにか懐かしさを感じるのは、この原体験のせいなのかもしれません。


 さて、つづいてまん丸なスジコンが焼きあがってきましたよ。

 こちらは薄手の生地がパリッと焼き上げられて、中に敷き詰められたスジのトロンとした食感との好対照が楽しめます。甘辛く煮込まれたスジの濃厚な旨味と、ネギのサッパリ感が口の中に広がります。いつも思うけど、これだけ手間隙掛けて750円でいいんやろか。聞いてみるとスジは四時間煮込むとのこと、それだけの手間をかけてこのお値段、おばちゃん、まさに学生達の母だね。

丁稚飲酒帳-とろとろスジこん  「この前、初めて来てくれたお客さんが、これが関西の味やって言うてたけど、ただ自分の家でつくってたものを出してるだけなのにねぇ」とおばちゃん。おばちゃんは西宮の出身だそうで、それは本場関西の味わいですがな。お孫さんのお話やら、最近来てくれたお客さんのお話やら、果てはおばちゃんのお母さんが、スイスで柿を分けてくれなかったことをいまだに言われるという、クスリと笑える話まで、おばちゃんのトークはとどまることを知らず。でも、いわゆる関西おばさんにありがちな押しつけトークじゃなくて、耳に柔らかいのはおばちゃんの人柄なのかなあ。


 食べ終えて、おなかぽっこり、心ほっこり、おなかも心も満たされた夜になりました。すると「リンゴ食べる?」とおばちゃん。おなか一杯だけど、いただいたリンゴの酸味が嬉しかったなあ。リンゴを食べ終えて、お会計をお願いすると、「おおきに、ありがとう、気をつけて帰ってね」と深く頭を下げてくれます。

 「息子がね、健康のためにもお店続けろって言うから」とおばちゃん。おばちゃんに会えると、こっちこそ元気がもらえるよ。毎日五時前から、休みなく営業されているいしいさん、マイペースで続けてね、おばちゃん。また食べに来ますね、ご馳走様でした。


お好み焼きいしい 16:30頃~21:00頃 無休