憧れの武蔵屋での二杯目、またお兄さんが土瓶を片手にお酒を注いでくれます。と二杯目と合わせて、よく練られた納豆が出されますね。これが酒肴の四品目。
カウンターの奥にいらした先客さんも、その手前の後からいらしたお客さまも二杯と四品でお会計をされました。さっと飲みで帰られる方もおいでなんですね。僕らは折角ですから、もう少しこの時間を楽しませていただきましょう。
ご近所と二人、飲んでいて嬉しいのは、お互いに無理な会話がいらないこと。熊さんや親分と酌み交わしてるときにも感じるのですが、一緒に飲んでいながら、お店と向き合うことができるのが嬉しいのですね。お話好きな友人と近況報告などをしあいながら飲むのも、それはそれで楽しいのですが、どうしてもそうするとお酒やお料理、あるいはお店の雰囲気を味わうことに気が注げないんですね。ご近所の場合、それがないのがなんとも有難いです。
さて、そうして飲んでおりますと、壁に掛けられた漢詩が気にかかる。一献一献又一献、守三杯限とあることから、武蔵屋さんを読んだ詩なのでしょうが、読み方がわからない。教養のある方がうらやましく思えますね。
そうそう、こちらのお店の大切なルールをご紹介していませんでした。
こちらで飲めるお酒は三杯まで。これはどれだけ通い詰めた方でも、初めての方でも同じ、武蔵屋のルールなのです。このルールの故に、こちらは野毛の三杯屋とも通称されているのです。
さてでは、最後の三杯目をいただくとしましょうか。
お酒のおかわりをお願いしますと、なんとお婆さんが土瓶を持ってわざわざ入口近くの僕らのところまで出てきてくれます。これは嬉しかったですねぇ。しかも「お寒くなりましたね」と優しく一声かけてくれて、左手を器用に使って土瓶からお酒を注いでくれます。すると「どうぞ一口きいてください」と…最初何かなと思いましたが、一口どうぞということだと気付きまして、表面張力が効いたグラスから一口。するとその減った分をさらにやかんから注ぎたしてくれます。この心配りの温かさには二人でしびれました。寒い雨の中を歩き回った一日の疲れが、一瞬でどこかに吹き飛んでしまったようです。
三杯めの酒肴にはおしんこの盛り合わせが出されます。大根、キュウリ、紅ショウガに瓜に菜っ葉と、五種類のおしんこが小皿にたっぷり。これまでひとしきりでいただいてきた、三杯五品のフルコースで2200円のお会計となるそうですが、この時間を味わえる席料も含めればなんともお得なお値段ではありませんか。
最初は歴史の重みに圧倒された僕らも、お店の方の醸し出す雰囲気に触れ、またお酒が進むほどにリラックス。家飲み感がたまりませんねぇ。やはり気になるあの漢詩を指差すと、お姉さんが「灰皿ですか?」と一言。いえいえ、あの漢詩の読み方がわからなくて…という僕の言葉に、お婆さんが朗々と詩を読み下してくれます。なんとも耳に心地よい響き、遠く横浜まで来た甲斐がありますねえ。
いつまでもこの雰囲気に浸っていたいけど、もう店内は満席状態。先ほども覗いて諦めた方がおいででした。もしかすると、僕らのように遠くからの方もいるかもしれません。なるべくたくさんの人に、この空間を共有いただきたいですものね、残ったお酒をゆっくりあおって、さて、お勘定をお願いしましょうか。
二人分、4400円に大瓶代で五千円ちょっとのお会計。
去り際お婆さんの「なるべくまっすぐお帰りくださいね」という言葉に送られて、引き戸をガラリ。外にぱらつく雨の寒さも、あまり気にならないのは、燗酒で温まったからなのか、心がほっと温かくなったからなのか。
路地に出て振り返ると、そこにはやわらかな灯りのもれるしもたや。またいつか、時間をつくってお邪魔したいと思います。素敵な時間をありがとうございました。
武蔵屋 17:00~20:00 火・水・金のみ営業 不定期長期休業あり
※ ご許可をいただいて何枚か写真を撮らせていただきましたが、「個人の趣味としてお使いください」とのことでしたので、前回・今回と文章だけの記事といたしました。写真がないといつにも増して、長いばかりの文章の稚拙さが浮き彫りとなります。皆様には駄文にいつもお付き合いくださり、ありがとうございます。改めて御礼申し上げます。