8月9日(土)
田端駅に降り立って、初恋屋のしまっている土曜日。目指すは田端新町、神谷酒場。
今日は神谷酒場の閉店日です。
最後の日ですから相当混むだろうと思いつつも、席につけなくともおかみさんのご様子をうかがいたいということで、田端駅着は午後4時。少しはやめのお邪魔です。呑み助の考えることはみな同じ、僕たちがお店の前に着くと、既に何人かのお客さんがお待ちです。あ、歩く僕たちの横を自転車で通り過ぎていったのは、マキさんですね。最終日だけあってカメラだけでなく、ビデオカメラ回してる人がいるよ…って後で聞いたら、テレビ朝日の取材だったそうです。
通行の邪魔にならないように、プラタナスの木の下でm蔵さんと話しこみつつ、周りの様子をうかがいながら、あの人は同類だろう、この人は通行人だろうと品定め…我ながら趣味悪いなぁ(^^;
やがて開店時刻の四時半を過ぎること五分ほど、ガラスの隙間からおかみさんがつけ場から顔を出すと、常連のみなさんが脇の入り口から中に入られます。そして、見事なチームワークで開店準備をさっと終えて、縄のれんを出すのを手伝われます。
この人数ならなんとか入れそうかなということで、お邪魔すること決定~。お店の前でお待ちになられていた、以前からこちらにお邪魔するとよくお顔を見かけた年配の男性のお隣、角から二番目の席に腰をかけます。
このカウンターに触れられるのも今日が最後かと思うと、やはり思うものがありますねぇ。まあ、湿っぽいことは、あとで考えましょう。
まずはお兄さんが炭酸機の蓋を開けて、その中に氷を砕いて入れています。なるほど、そういう仕組みだったんだぁ。あの機械にもたくさんお世話になりましたね。
僕らの注文、最後はふたりで白をいただきます。シュコシュコ、おかみさんが炭酸を注ぐ姿を目に焼き付けておこうっと。
やっぱり最後の日、おかみさんもお兄さんもてんてこまいです。お隣の方が頼まれたチーズをもって、おかみさんが小上がりの方に行ってしまいます。三人で「こっち、こっち」とアピール。「あら、お恥ずかしい」とおかみさん、本当にかわいらしい、素直な方ですね。お隣の方も受け取りながら苦笑い。僕らにも「はやめに注文した方がいいですよ」と水を向けてくれます。
それでは、火をつかわないメニューで定番きゅうりもみと、最後にこちらでは食べていなかったマグロのブツをお願いします。
この会話をきっかけに、三人で話の輪が咲いていきます。昨日、一昨日は付いていなかったテレビのオリンピック中継も会話の種になりますね。がんばれ、タワラちゃん。後ほどおお名前をお聞きしましたら、お隣の方はやはり常連のy澤さんとおっしゃられて、三年ほど前にこの田端に越してこられたのだそうです。以来、こちらが居場所となって…と、一昨日も違う人から聞いたな、こういう話。僕自身もこの田端での居場所はここでしたからね。やっぱり人の居つく場所なんですね。
来週からどこに行こうかと思って探していたら、いい店を見つけましたよ…なんてご紹介してくれて、最後の最後の日に、こうして新しい知り合いができるのも、また神谷酒場の導きでしょうか。三人でお話しましたが、このお店の真骨頂はやはり混雑ではなく、柔らかくゆったりした時間の中、おかみさんを交えて見知らぬ人同士が店全体で会話ができることにあったんだろうなぁと思います。
この静かな空気と一体感とのあるお店は、なかなかありません。一体感があるとわいがやになるのが普通なのに、こちらではそれでもなお、静かに時間が過ぎていきましたから…やはり積み重なった歴史とおかみさんの人柄ですかね。
y澤さん、焼き鳥屋さん絶対行きますね、ちょうどタイミングの合う頃合を見計らって。
さて、三つ目、最後のシロを空けて、お会計をお願いします。お会計が終わったところで、おかみさんに本を一冊お渡しします。以前におかみさんとゆっくりお話した時に、「ハーブのお料理なんかなさる?わたし、興味はあるんだけどハーブの使い方がわからなくて」と仰っておられたので、この日錦糸町の本屋さんを何軒かはしごして、使いやすそうな本をお持ちしたわけです。
おかみさん、その時のやりとりを覚えておられて、「あら、まあ」と喜んでくれます。あの笑顔、嬉しかったなぁ。「ありがとうございます、お二人もお元気で」と送ってくれるおかみさんに頭を下げて、お店をあとにしましょう。
今日で神谷酒場は幕を閉じますが、それはまたおかみさん、お兄さんにとっては、また新しい一日のはじまりです。これからも元気に過ごしてください、そしていつかまた街角でご挨拶ができたら素敵なことです。
その日まで、さようなら神谷酒場。