暖簾越しの夏の日  -ゑびす(大島) | 丁稚烏龍帳

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today,detch stood live on the earth,too…


谷中青空 白山神社を出る頃には、豪雨で濡れた体もすっかり冷え切り、だるだるちゃん。
寒いし風邪を引いては大変と家路に着こうかなぁと思いつつも、ぶらぶらしてしまうのは、散歩ニストの性か。
白山駅を通り過ぎ、元来た道を日暮里方面に戻ります。
この頃には青空も見えてきて、ん~、さっきまでの豪雨はなんだったんだろうと、自分の雨男ぶりが空恐ろしくなります。


谷中銀座も午前中は開いているお店もまばらでしたが、午後のこの時間になるとお店も人出も増えています。

にゃんころり 夕焼けだんだんに横たわる猫にじゃれ付くジャリの様子や、子猫が「オイラのミルクだ!」と大猫を退ける様をぼんやり見届けていると、時間はもう四時半。あら、もう時期お店が開く時間だわ、ヨホホホホって、決して狙って遠回りしたわけではございません。
白山の最寄の駅は日暮里だったから、そこまで歩いただけだようと、言い訳がましくJRから向かう先は亀戸駅。

三つ目通りを南下して、昨日野宿号で家路を疾駆した新大橋通りで左折。
歩くこと約15分で見えて参りました、亀戸餃子。最寄り駅大島からは徒歩3分の距離であります。目的のお店は亀戸餃子のお隣。
やや傾いた初夏の陽射しが、横長ののれんに照り映えています。
大島ゑびす。墨東にその名も高き、ゑびすシリーズの一角でございます。



大島ゑびす
お店に入ると、長辺10人ずつ短辺5、6人掛けのコの字カウンターに、10人ほどの入り。
カウンター中央には女将さんが「いらっしゃい」とゆったりと迎えてくれます。
テレビの見える、入り口左手のカウンターに掛けますか。丸椅子に腰掛けると、天井が意外に高いのに気がつきます。艶光りする柱やカウンターの板木が物語る歴史、静かな空気が満ちたなんとも心地よい大衆酒場感。
まず、おかあさんに「チューハイ一杯お願いします」というと、高い声で独特の節回しで、「ハイボール一丁~」と奥の厨房に声をかけてくれます。



静かな店内
ハイボールを待つ間に、高い壁中にところ狭しと貼られた黒短冊の数々を見回します。すごい数だなぁ、四つ木もそうですがゑびすのこのメニューの物量感には圧倒されてしまいます。安くはキンピラ、ひじきの150円から、刺身類、レバ焼きや肉どうふといったお肉類、そして卵ものに野菜物と、なんでも揃います。中でも、左手奥に貼られたおにぎり、親子丼、カツ丼といったご飯ものシリーズに目が行くのは、これは人情というものでして。



ゑびすボール ポテトサラダ
と、ほどなく出てまいりました焼酎ハイボール。琥珀色がやや濃い目ですが、これは店内の暗さがグラスに映えているせいかもしれません。口にすると、一言なんて爽やかなんだろう。色味とは裏腹で、極めて丸い味わい。香りのエグさもなく、丁稚的な評価としては、丸好のハイボールの風味感が増した感じと言えばいいのでしょうか。とにもかくにも、これはうまい!

お通しとして出された塩豆をポリポリとつまみながら、アジ酢とポテトサラダをお願いします。

先に出てきたポテトサラダ。これは安さ二番目200円階層。荒くマッシュされたポテトに、軽めのマヨネーズ。固くなく、ゆるくなく程よい口当たり。塩気も程よく、そのままでも、ソースをかけても美味しくいただけます。
続いて出てきたあじ酢も、しまり方がいいですね。添えられたワサビをたっぷり付けて、鼻から息をムハァ~と抜けば、なぜか消えいくグラスのボール。おかみさん、二杯目をお願いします。
それとおなかにたまるものも行きましょうかね、体冷えてるし。肉豆腐をいただけますか?



のれん越しの
そうこうするうちに、店内は八割の入りに。おかみさんの開けた引き戸の隙間、暖簾の向こうにふと目をやれば、道路に照り映える夏の日。
行きかう人の慌しさをよそに、静かな店内からボールを煽りつつ夏の陽射しを楽しむ…いいなぁ。店内の静寂さに、時間が止まったように感じられます。

そして出て参りました、肉豆腐。飴色の豆腐と玉ねぎ、豚肉。甘辛の味わいが見事です。はじめてかぶきさんに連れてきてもらった時に、この味付けの妙に思わずごはんをいただいてしまったのも、頷けるというものでしょう。
是非肉豆腐ご飯試してみてください。



肉どうふ さて、程よくお腹も膨らんできたし、ほろ酔い加減で家路に着きますか。
おかみさんにお勘定をお願いすると、1600円ほどのお会計。
隣の丸椅子のお兄さんに、お先にとかけて、開け放たれた引き戸を潜ります。
やや柔らか味を増した夕方の陽射しが、まだ眩しく照っています。冬の酒場巡りでは味わえない、店を後にしたこの日の高さ。初夏の日の贅沢。心地よい時間をありがとうございました。