あれ、ここどこだろう…?
新居での最初の目覚め。その朝の素直な感想。なにせ天井が高い。立石の住まいは、
ロフト付ワンルーム。そのロフトの上が僕のねぐらだった。正座をすると頭が天井にすれる
高さで寝ていると、屋根が近い。手を伸ばせば、天を掴めるかのような高さである。ところが、
新しい寝床で手を伸ばしても天井に手が届かない。なんという解放感!
そして、家を出て駅までの景色の違い。ああ、僕は新たな場所にいる…そう初めて実感し
た瞬間でした。
別れがあれば、出会いもある。
住み慣れた我が家に、さよならを告げたその日から二週間。新たなまちで新たなお酒との
出会いがありました。今日はそんなお話をしてみましょう。
さて、今日はネットの宅内工事日、それは休みを取らざるを得ないでしょう~ということで、
公然と有休申請。もちろん、目的は別なところにあるんですが(笑)。工事はさっさと午前中
に設定して、午後から飲むのが人としての道理というものです。
予定時刻早々の九時過ぎに電話屋さんご登場。作業はものの十分で完了。午前中にも
ろもろ作業できるじゃないですか。「おっ、これは幸先いいぞな!」と小躍りするワタクシ。
ひひひ、今日は一時半から宇ち入ったるで~と、その前に時間もできたし、本棚見繕いに南船橋まで足を伸ばしますか。なにせ、我が家、本やら雑誌やらで足の踏み場がないけんね…っとその前に、宇ち多の様子はと仲見世をのぞくと違和感が。あれ、まだシャッター閉まってるよ…いやな予感。
…そして、愕然、茫然自失、自我はともかく本日の予定が崩壊した一瞬でした。なんでか休むかねえ、僕のお休みにあわせて…。後日、確認をしたところ、朋友とかげ澤氏が同じ悲哀を前日に味わっていたことが判明。お互い、ついてないねぇ(苦笑)。
その衝撃から抜け出せぬままにフラフラと、船橋競馬場(駅)。メジャー片手にホームセンターをのぞいてみても、どこか上の空。ああ、どこか昼酒スポットはなかろうか…船橋まで足を伸ばして、三時から一平か…あ、晴れ間が射してきた。一回もどってふとんを干さなきゃと、ここでも出戻り。僕はなんて計画性がないんだろう…もう予定がぐずぐずだぁと自棄になろうとしたとき、天啓が訪れたのです。
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昼に飲めなきゃ、その分、夜に飲めばいいのだ…と。
気分を切り替えて、新居お引越し記念、近場の飲み屋を探検しよう企画の発動です。
まずは古巣立石で一軒目。宇ち多からの流れで、当初の予定に組み込んでいた、「江戸っ子」ははずせません。
布団を干して洗濯機を回して、適宜時間をつぶして、午後四時半には店の前。すでに店内は七分の入りで、皆さん営業開始の四時半を、時計をにらみつけるようにして待っています。
そして、天童よしみの一声、「ご注文、どうぞ」。あちこちからかかる声、その大半はやはりボール。僕もボールをひとついただきます。立石さっぱり系ボールの代表格、江戸っ子のハイボール。琥珀色の液体にレモンが一切れくるくると。羽のような軽い甘味と鼻に抜ける香り、そして爽やかなのど越しの三重奏。乾いた体に染み渡る…いぃーねっ!
そしてあて。僕が江戸っ子を訪ねるなら、唱えねばならぬ呪文があります。
「煮込み豆腐ありますか?」この時間帯なればこそ、江戸っ子名物煮込みの
大鍋にぎっしり浮かんだ大ぶりの豆腐。これが早いときは、ものの一時間で
なくなってしまうのだから恐るべし。
江戸っ子のキーワードは、「軽さ」だと思うのです。ボールの軽やかさに加え
て、煮込みもまたしかり。宇ち多は言うに及ばず、ミツワにしてもそうですが、
江戸っ子のそれは味噌味の強い煮込みではなく、もつの旨味の効いた味噌汁
のような煮込み。飲める煮込みこそがこの店の真骨頂だと思うのです。
それに豆腐が加わることで、さらにさっぱり感と旨さが倍加する…そんな気がします。
焼き物はレバかしら混ぜたれで行きましょうか。通常四本で供されるもつ焼き
を、二本ずつ組み合わせるのが混ぜ。味付けは塩、たれ、そしてニンニクの効い
た辛だれの三種類からチョイスします。
中には混ぜられない組み合わせもありま
すので、ご注意を。標準的サイズのもつ焼き(宇ち多、ミツワ、道場は明らかに規格外でしょう。三平がその中間位かしら)は、混ぜを使えば一人でもいくつもの種類を食べられるのが江戸っ子のよいところ。レバの焼き具合も半生で、たれの濃い甘味とぴったり来ます。
肉の旨味をかしらで味わい、その根本に一切れのアブラ…二種の味わいが楽しめます。
さて、店内もほぼ満席ですね、ボールを二つで早めに席を立つとしましょうか。ご馳走様でした。お勘定はしめて1250円でした。
おっ、空が青いね、おひさま燦々、スタートは少し遅れたけれど、昼酒の醍醐味はやはりこの踏み出した一歩の青空でしょうね。さて、次に行こうか!