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pontaの街場放浪記

さすらいの街場詩人pontaのライフスタイル備忘録です。
2012年に広島のリージョナル情報誌『旬遊 HIROSHIMA』のWebページでコラムを連載しました。その過去ログもこちらへ転載しています。

この日は、友人の誕生日。奮発して、偉大なシャンパーニュを開けた。

当夜のシャンパーニュは「ポル・ロジェ/キュヴェ・サー・ウィンストン・チャーチル 1999」。

$復活!pontaの街場放浪記-サー・ウィンストン・チャーチル


ネーミングは、ポル・ロジェのシャンパーニュを好んだウィンストン・チャーチル英首相にちなんで。
葡萄の出来の良い年だけ醸造される、ポル・ロジェ社の最高級シャンパーニュである。


一口味わうと、豊かな香りと味わいに感激。

偉大なシャンパーニュには、人間を心の底から感動させる力がある。

『シャンパーニュ基本ブック』(美術出版社)によると、シャンパーニュグラス一杯から出る泡の数は、1,200万個前後になるという。

地球から肉眼で見える星は約8,600個。つまり、シャンパーニュグラスの中には、夜空にきらめく星たちよりもたくさんの泡がある。

一杯のシャンパーニュグラスには、広大な宇宙が詰まっているということだ。

偉大なシャンパーニュはその味だけで満足できるので、本来食事を選りすぐる必要はない。簡素なつまみだって、シャンパーニュの友になる。

しかし、折角偉大なシャンパーニュを開けたんだから、美味しいお料理と一緒に味わいたいよね!

ということで、僕たちは、シャンパーニュグラスを片手に、広島・幟町のイタリア料理店〔リベロ〕の席の人となったのであった。

$復活!pontaの街場放浪記-リベロエントランス


エントランスは瀟洒。

店内もこじんまりとして、落ち着く空間だ。

偉大なシャンパーニュと共に味わうから、という訳ではないのだろうけど、この日の西谷栄人シェフのお料理は「シンプル・イズ・ベスト」なものだった。

食べ手を驚かせる斬新さや、見た目の華やかさは見受けられない。

基本的には、イタリア料理の基本に則った上で、素材の持ち味を活かした、丁寧で食べやすいお料理だと思う。

だからといって、万人受けするお料理か?といえば、それはチョット違うように思った。
 
まさに「シンプル・イズ・ベスト」なお料理。

素直に美味しいお料理ではあるんだけど、ソースなどの味付けが必要最低限に抑えられているためか、食材の持ち味が力強く、明確に感じられた。
 
西谷シェフは、味付けをできるだけ「シンプル」にして、食材の輪郭をぼやけさせず、食べ手に食材の魅力をストレートに伝えようとしているのではないか、と僕は思った。
 
そこで重要となってくるのは、基本的な調理技術である塩加減やソース造りの腕だ。ソースで厚化粧したお料理よりも、ジャストな塩加減で、ソースを必要最低限に抑えたお料理の方が、真に造り手の技量が問われるのではないだろうか。

例えば、当日の冷たい前菜「蒸しあわびとういきょうの冷製トマトコンソメ仕立て」。

一瞬、日本料理の水貝を連想したが、味わうと随所にイタリア料理の技術を感じさせる爽やかな前菜だった。

$復活!pontaの街場放浪記-あわび

 
また、この日のパスタの一皿「車海老とサルディーニャ産カラスミのカッペリーニ」は、車海老はお刺身の状態で登場。

しかも、頭の部分だけ炙っていて、頭の中の美味しいお味噌を頂ける仕掛けになっていた。

$復活!pontaの街場放浪記-えび


少し間違えれば、和食?のような正体不明なお料理になりかねないと思うが、西谷シェフの長年の経験とセンスで、見事なイタリア料理となっていた。しかも、車海老の甘さと味の濃さが、強烈に感じられた。

いや~、うまいのなんの!!!

シャンパーニュに続けて頂いた、エドアルド・ヴァレンティーニの銘醸白ワイン「トレッビアーノ・ダブルッツォ 2005」との相性も抜群だった。

$復活!pontaの街場放浪記-エドアルド・ヴァレンティーニ


続いては、事前に「鮎が頂きたいなあ」とリクエストしていたため、供された一品。

「鮎のリゾット 鮎の肝のソース」だ。

$復活!pontaの街場放浪記-鮎のリゾット詰め

鮎一尾のお腹の中に、リゾットがたっぷり。

リゾット自体も美味しいし、肝のソースの豊かなコクが、さらにリゾットの美味しさを引き出してくれる。


そして、メインディッシュ「広島牛A5ランク シャトーブリアンの炭火焼 11年物のイタリアワインのソースで」と、メニューだけみればイタリア料理店で食べなくても、ステーキの専門店で食べても良いかな?と、ナイショだけど実は一瞬首を傾げてしまった。

$復活!pontaの街場放浪記-和牛のロースト


しかし、お肉を一口味わうと、僕の考えが浅はかだったことに気付いた。

これほど肉の旨みを強烈に感じるお料理を頂いたのは、初めてではないかというくらいの衝撃だった。

炭火で上等の肉を焼き、焼き立てではなく肉汁を落ち着かせた後でカットするという、基本に忠実な調理。

そしてソースの味付けを必要最低限にとどめているので、広島牛の持ち味が、はっきりと、しっかりと舌に伝わってきた。

「目黒のさんま」じゃないけど、牛肉食べるなら〔リベロ〕に限る!と声を大にして叫びたい気持ちになった。それくらい圧倒的な旨さだ。

西谷シェフの確かな調理技術が、素材の持ち味を確かに活かしているからこその美味しさだと思う。

また、牛肉の炭火焼きには、ソースに用いたのと同じサンジョヴェーゼ種の赤ワインをグラスで合わせて頂いた。

西谷シェフの細やかな心遣いが、ここでも感じられた。


最後に一言。〔リベロ〕はお料理もさることながら、奥様が担当されるホスピタリティあふれるサービスと、手作りのパンの美味しさは、見事としか言いようがない。

$復活!pontaの街場放浪記-手作りパン


ごちそうさまでした。まんぞく。まんぞく。




(2012年6月26日執筆。「Web旬遊」初出)
「おばんざいを食べに福山へ行こう!」

この誘い言葉を聞いて、喜んでくれる広島の食通は多い。
福山の「おばんざい」の魅力を知る彼らは、都合さえ合えばきっと賛同してくれるだろう。

「えっ?おばんざいを食べるためにわざわざ福山へ?」

そういぶかしく思う方には、逆に僕から質問してみたい。

「お好み焼きや汁なし担々麺を食べに、わざわざ他県から広島へ来る人も多いですよね?」


そもそも「おばんざい」とは何だろう?

「おばんざい」とは、簡単にいえば京都に古くから伝わるお惣菜のことだ。

では、他地域の伝統的なお惣菜と比べ、「おばんざい」の特徴は何か?
それは、京都が海から離れた盆地であるため、伝統的な「おばんざい」に新鮮な魚介類の料理が乏しいことである。
野菜、豆類、乾物を用いた料理が多く、魚介類は乾物を除けば、一汐鯖、一夜干しのぐじ(甘鯛)やかれいなど、日本海側から京都に陸路運んでも鮮度が落ちないものに限られる。

だから質の良い蛋白質を摂取するため、大豆を豆腐、湯葉、揚げや飛龍頭(他地域では「がんもどき」)などに加工し、常食したのだろう。

もちろん現在は冷蔵技術の発達のため、京都でも旨い魚介類にありつけることができる。

しかし、京都の「おばんざい」の旨さは、鮮度の良さに頼った料理とは別種の旨さである。いわば京都の伝統が培った、創意工夫と出汁と味付けによる旨さだといえよう。


元来「おばんざい」は京都の家庭料理だが、いつしか飲食店の料理としても供されるようになった。

「おばんざい」店の嚆矢といわれる京都・祇園〔山ふく〕は、作家の山口瞳が愛した店として知られている。
また先斗町〔ますだ〕は、以前のブログにて紹介した通り、司馬遼太郎を初め多くの著名人に愛された。

いずれも約半世紀の伝統を持つ老舗で、かつては一般の客は少なく、高級料理に飽きた旦那衆や文化人、役者たちが贔屓にしていた。

現在は、両店とも「おばんざい」の名店として知られている。また両店とも一流割烹で修業を積んだ後継者が腕をふるい、伝統の「おばんざい」に一流の技術を加え、今日に至っている。


そんな中、福山在住の一人の主婦が「おばんざい」に魅かれ、探究と研鑽の末、約四半世紀前に「おばんざい」店を開店した。

現在、福山屈指の名店として知られる〔おばんざい木むら〕である。

「おばんざい」が世間に浸透していない時代から、女将の木村さんは地産地消の安心食材、天然・無添加の調味料にこだわり「おばんざい」を作り続けてきた。

木村さんの苦心と努力が実を結び、〔おばんざい木むら〕は連日の人気だ。また〔おばんざい木むら〕の影響もあってか、福山には「おばんざい」店が数軒ありしのぎを削っている。


先日、その中の一軒である〔Foods Bar 田(でん)〕を訪問した。
周囲は福山随一の歓楽街だが、風雅さの気配を感じさせる玄関が周囲との結界となっていた。

$復活!pontaの街場放浪記-玄関


〔Foods Bar 田〕の扉を開けると、店主の北川さんが迎えてくれた。店内には座敷もあるが、カウンター主体の小体で落ち着いた雰囲気だ。

カウンターに並べられた「おばんざい」の鉢の数々に、思わずお腹が鳴った。

まずは同行の友人たちとヱビスビールで乾杯。そして、突き出しの手作り胡麻豆腐を一口。

$復活!pontaの街場放浪記-胡麻豆腐


これが滑らかな舌触りで、胡麻の香りが高く、口の中に広がっていく。本場京都の和食店でも、このレベルの胡麻豆腐はなかなかない。
旨さにつられ、ビールを飲むピッチが速くなってしまった。

続いては人気の〆鯖。新鮮な鯖を浅く〆ているので、鯖本来の旨みが口の中に広がる。

$復活!pontaの街場放浪記-〆鯖


思わずお酒をビールから日本酒にチェンジした。


定番の飛龍頭は安心の旨さ。

$復活!pontaの街場放浪記-飛龍頭


季節の一品である水菜とわらびのおしたし、そして春野菜の揚げびたしは、野菜の持ち味を出汁の旨さが引き立てていて、洗練された味だった。あっさりしつつも深い味わいの出汁が印象的で、ここに店主の日々の努力の一端が見えた。

$復活!pontaの街場放浪記-おひたし


$復活!pontaの街場放浪記-野菜の揚げひたし


「おばんざい」は家庭料理だと侮るなかれ。新鮮な食材に工夫と手間をかけて調理すれば、家庭料理が進化して、多くのお客を唸らせる味に昇華する。

しかも軸は家庭料理にあるから、食べ飽きないし、舌にも身体にも優しい。

店主の北川さんは、料理に対し探究を続け、毎日4時間以上かけて丁寧に仕込みを続けているという。
家庭の主婦は、通常毎日の料理に4時間以上も仕込みはできない。

料理への探究心と毎日の丁寧な仕込みこそが、「おばんざい」のプロとしてお客をうならせることができる最大の理由だと思う。



※追記 〔おばんざい木むら〕は、本ブログ執筆後『ミシュランガイド広島 特別版』にて見事一つ星を獲得されました。

(2012年5月27日執筆。「Web旬遊」初出)
先日「失楽園鍋」を食べるホームパーティのお誘いを受けたので、友人宅にお邪魔した。

「失楽園鍋」?????

初めて「失楽園鍋」という単語を聞いた時は、正直ピンと来なかった。
聞くと、渡辺淳一の小説『失楽園』の中で、主人公の男女が心中する前に食べたメニューらしい。
「失楽園鍋」というだけあって鍋料理なのだが、昆布とカツオブシから取った和風だしに、クレソンと鴨肉を入れて煮て食べるものということだ。

残念ながら、僕は小説の『失楽園』を読んでいない。また、映画もドラマも見ていないので、そのメニューがどんなものか、具体的にイメージとしてつかめなかった。

「失楽園鍋」を作った友人は、会の前夜に映画『失楽園』のDVDをチェックし、料理のイメージトレーニングをしたという。映画では、役所広司と黒木瞳が「失楽園鍋」を食べ、銘醸ワインのシャトー・マルゴーに毒を入れ、それを飲み干して心中するとのこと。

鴨肉とクレソンというのは斬新な出会いを期待させる組み合わせだと思った。だが同時に、和風だしベースの鍋物と赤ワインがそこまで合うのか?といぶかしく思ったのも事実だ。

とはいえ、百聞は一見に如かず。とにかく食べてみよう!ということで、ある休日の午後、友人宅を訪問した。


お昼ちょっと過ぎに友人宅へ到着すると、既に素敵なテーブルセッティングが準備済み。

$復活!pontaの街場放浪記-テーブル


友人宅のキッチンでは、数人の友人たちが料理の仕込みの真っ最中だった。

メンバーが揃うと、シャンパーニュや白ワインを飲みながら、テーブルに並べられたオードブルを頂く。休日の昼に、センスの良いしつらえの友人宅で頂くワインは、何故か普段飲む時より1.5倍くらい旨く感じるのは気のせいだろうか。

そして、本日のメイン「失楽園鍋」。

広島中の八百屋でクレソンを買い占めたのか?と思うほどの大量のクレソンを投入し、フォワグラを採取した後の鴨であるマグレ・カナールの肉とつくねと共に味わった。

$復活!pontaの街場放浪記-鴨肉


$復活!pontaの街場放浪記-失楽園鍋


いや~、実に旨かった!

鴨肉とクレソンがこんなに相性が良いなんて、想像以上の旨さに心底驚いた。

そして、昆布とかつおぶしの和風だしが、甘すぎず、辛すぎず、ドンピシャの味付けだった。さすが、グルメな友人たちが苦心して仕込んだだけある。

残念ながらこの日の宴にシャトー・マルゴーは登場しなかったが、ボルドーの赤ワインとの相性も抜群。和風だしの鍋物が赤ワインと合うのかなあ?っていう心配は、杞憂だった。

「失楽園鍋」。また機会作ってぜひ頂きたい料理だ。


さらに「失楽園鍋」以外にも、旨いもののオンパレード。

ある友人が調理したのは、北欧風のおもてなしオードブル。
海老やイクラなどの魚介類を華やかに盛り付けているが、中には薄くスライスしたパンもはさんである。目にも舌にも美しい一品。

$復活!pontaの街場放浪記-北欧風オードブル


そして、「パスタ名人」の友人が作る絶品パスタも頂いた。
一品は自家製の手打ちパスタ。

$復活!pontaの街場放浪記-パスタ1


一品はショートパスタ。

$復活!pontaの街場放浪記-パスタ2


この日も「パスタ名人」の逸品に舌鼓を打つことができて、幸せな気分になった。

さらにダメ押しで、素敵なチーズプレートも登場。友人のチーズプロフェッショナルが厳選した、直輸入の新鮮なチーズたち。だから味は文句なし。

$復活!pontaの街場放浪記-チーズ


日常は仕事やもろもろの些事に煩わされることが多い。

それは僕だけではなくて、ほとんどの人がそうだろう。

だけど、休日の昼下がり、素敵な友人たちと共に美味しい料理やワインを共に楽しむと、幸せな気持ちが心を満たし、明日への活力もみなぎってくる。

いつも僕と一緒に、料理やワインを共に楽しんでくれる得難い友人たちに、心から感謝したい。



(2012年5月22日執筆。「Web旬遊」初出)