「失楽園鍋」?????
初めて「失楽園鍋」という単語を聞いた時は、正直ピンと来なかった。
聞くと、渡辺淳一の小説『失楽園』の中で、主人公の男女が心中する前に食べたメニューらしい。
「失楽園鍋」というだけあって鍋料理なのだが、昆布とカツオブシから取った和風だしに、クレソンと鴨肉を入れて煮て食べるものということだ。
残念ながら、僕は小説の『失楽園』を読んでいない。また、映画もドラマも見ていないので、そのメニューがどんなものか、具体的にイメージとしてつかめなかった。
「失楽園鍋」を作った友人は、会の前夜に映画『失楽園』のDVDをチェックし、料理のイメージトレーニングをしたという。映画では、役所広司と黒木瞳が「失楽園鍋」を食べ、銘醸ワインのシャトー・マルゴーに毒を入れ、それを飲み干して心中するとのこと。
鴨肉とクレソンというのは斬新な出会いを期待させる組み合わせだと思った。だが同時に、和風だしベースの鍋物と赤ワインがそこまで合うのか?といぶかしく思ったのも事実だ。
とはいえ、百聞は一見に如かず。とにかく食べてみよう!ということで、ある休日の午後、友人宅を訪問した。
お昼ちょっと過ぎに友人宅へ到着すると、既に素敵なテーブルセッティングが準備済み。

友人宅のキッチンでは、数人の友人たちが料理の仕込みの真っ最中だった。
メンバーが揃うと、シャンパーニュや白ワインを飲みながら、テーブルに並べられたオードブルを頂く。休日の昼に、センスの良いしつらえの友人宅で頂くワインは、何故か普段飲む時より1.5倍くらい旨く感じるのは気のせいだろうか。
そして、本日のメイン「失楽園鍋」。
広島中の八百屋でクレソンを買い占めたのか?と思うほどの大量のクレソンを投入し、フォワグラを採取した後の鴨であるマグレ・カナールの肉とつくねと共に味わった。


いや~、実に旨かった!
鴨肉とクレソンがこんなに相性が良いなんて、想像以上の旨さに心底驚いた。
そして、昆布とかつおぶしの和風だしが、甘すぎず、辛すぎず、ドンピシャの味付けだった。さすが、グルメな友人たちが苦心して仕込んだだけある。
残念ながらこの日の宴にシャトー・マルゴーは登場しなかったが、ボルドーの赤ワインとの相性も抜群。和風だしの鍋物が赤ワインと合うのかなあ?っていう心配は、杞憂だった。
「失楽園鍋」。また機会作ってぜひ頂きたい料理だ。
さらに「失楽園鍋」以外にも、旨いもののオンパレード。
ある友人が調理したのは、北欧風のおもてなしオードブル。
海老やイクラなどの魚介類を華やかに盛り付けているが、中には薄くスライスしたパンもはさんである。目にも舌にも美しい一品。

そして、「パスタ名人」の友人が作る絶品パスタも頂いた。
一品は自家製の手打ちパスタ。

一品はショートパスタ。

この日も「パスタ名人」の逸品に舌鼓を打つことができて、幸せな気分になった。
さらにダメ押しで、素敵なチーズプレートも登場。友人のチーズプロフェッショナルが厳選した、直輸入の新鮮なチーズたち。だから味は文句なし。

日常は仕事やもろもろの些事に煩わされることが多い。
それは僕だけではなくて、ほとんどの人がそうだろう。
だけど、休日の昼下がり、素敵な友人たちと共に美味しい料理やワインを共に楽しむと、幸せな気持ちが心を満たし、明日への活力もみなぎってくる。
いつも僕と一緒に、料理やワインを共に楽しんでくれる得難い友人たちに、心から感謝したい。
(2012年5月22日執筆。「Web旬遊」初出)