修学旅行が終った翌日から平常授業だった。
生徒たちは、修学旅行の余韻から冷めやらず、朝から教室にいくつかの塊になって話が弾んでいた。
優斗も同じようにその塊の一つの中にいたが、皆が楽しげに話していても話題が室生寺にならないかと気が気ではない。自分と杏子のことを訊かれないかと冷や冷やしていたのである。極力、室生寺に触れないように話をそらすのに必死であった。
ただ、一つの傘で杏子と二人で歩いていたことが知られていたとすれば、真っ先に訊かれるに違いない。そうでないということは、まだクラスの誰にも知られていないのだろうといくらか安心はするのだ。いずれ、知られてしまうだろうがまだ内緒にしておきたかった。なぜなら、まだ付き合い初めてもいないからだ。
杏子と今朝会ったときには、互いに平静を装って普段と変わらぬあいさつをしたがアイコンタクトをとっていた。
優斗は、仲間との話の輪には入っていたものの半ばうわの空で、朝から放課後になるのが待ちきれずにいたのである。
放課後になると、優斗は、仲間から声を掛けられる前にそっと教室をでた。校門を出て振り返り、誰も見てないことを確認するといつもと逆の方向へ走った。
通称“アベック通り”の入口角で待っていると、少し経ってから杏子が小走りにこちらにやってきた。
「ここは危ないから、もう少し先に行こう」
二人は校門から直接見えないところまで走った。走りながらどちらともなく笑い出していた。
「俺たち、何をしてるんだろね」
「ほんとね」
杏子は息を切らしている。
「可笑しくて涙が出てきた」
杏子の顔を見るとほんとに涙目になっている。
二人はようやく息を整えると、もういいだろうと狭い舗道を歩きだした。
ここがあこがれの“アベック通り”だ。いつか誰かと歩きたいと思っていたが、それが杏子になるとは優斗自身も想像していなかった。
優斗は、あの室生寺の傘の中で、離れ際に一緒に帰ろうと杏子に告げていたのである。
「誰かに気づかれたかな?」
「大丈夫じゃない」
杏子は、また思い出したように笑い出すと、優斗もつられてしまう。
皆の眼を盗んで二人でこそこそとしていることがこの上なく楽しく思えた。
優斗と杏子は、舗道に伸びた二つの長い影を踏みながら、駅までの路を初めて二人で歩いたのだった。
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さて、本日取り上げるアルバムは、CAROLE KINGの『Writer』(1970年)である。
キャロル・キングのファースト・ソロアルバムである。ジェリー・ゴフィンとともにソング・ライターとして活躍していたキャロルが本格的にシンガー・ソング・ライターとしてデヴューした作品である。
次作の『つづれおり』が名曲ぞろいであまりにも大ヒットした作品であるため、それと比べてしまうと地味に感じてしまうが、聴けば聴くほどジワジワとその良さが沁みてくる。
他の人のために書いた過去の曲とこのアルバムのために書いた曲を含めて12曲、2曲を除けばすべてジェリー・ゴフィンとの共作である。残りの2曲は、トニ・スターンという人が作詞を担当しているが曲はやはり二人で作っているようだ。
バックには、ソロに転向する前に組んでいた「シティ」のメンバーであるダニー・コーチマー(g)やチャールズ・ラーキー(ba)らも参加している。
ジェームス・テイラーもアコギで参加、バック・コーラスでその声も聴くことができる。
