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雑文と音楽

思いつきの散文や好きな音楽を

※一部加筆しました。内容は変わってません。

 

 修学旅行の最終日は奈良見学であった。

 その日の最後に向かったのは北部の山中にある室生寺であった。到着すると自由見学となった。

 優斗にとっては、ここは初めての寺である。苔生す境内に一歩足を踏み入れた瞬間、優斗はこれまで巡ってきた寺院とは違う雰囲気を感じ取っていた。濃い緑に囲まれた境内は、静けさの中に凛とした空気が漂っていた。

 優斗は、これまでは仲間たち皆でがやがやと回っていたが、今は一人でじっくりと見て廻りたいと思った。

 自然石を敷き詰めた石段を上ると、いかにも歴史を物語るような伽藍が姿を現した。さらに進むと弥勒堂や本堂が見えてくる。ゆっくりと辺りを見回しながら歩いていると周りにいるはずの友人たちの姿が視界に入らなくなっていた。いつのまにかこの寺に一人で立っているような錯覚を覚えていた。

 本堂の奥には、五重塔が見える。屋外にある五重塔では日本で最も小さく、二番目に古いという。室生寺は、女人高野として古くから女性の参拝を許していた珍しい寺院であり、五重塔はその象徴でもあったそうだ。

 五重塔に向かう石段の周りはシャクナゲで覆われているが、今は花の時期ではない。花のあるときに来ればまた違った印象なのだろうと想像してみる。そのかわり、紅葉が真っ盛りで古い伽藍らとのコントラストが美しかった。小さいとはいえ、その下に立ってみれば見事な建造物である。

 

「もっと、先に行ってみようぜ」

 静寂な雰囲気が粉々に砕けるような勢いで突然沼田と吉本が声をかけてきた。

 五重塔を過ぎると奥之院へ向かう長い石段が見えている。腕時計で時間を確認すると、定刻に戻ってくるにはギリギリの時間である。

「俺は遠慮しておくよ」

 優斗は、まだ、一人でいたいという気持ちも強かった。二人の後姿を見送ると奥之院は諦めてそろそろと引き返し始めた。

 ゆったりと歩いていると、遠くで村岡と桑野、高山の3人がいつものようにふざけ合っているのが見えた。せっかくの雰囲気がまた壊れるな。優斗は、彼らに見つからないような廻り路を選んで歩いた。そういえば、橋口の姿を見ていない。大林や北村たちはどのあたりにいるのだろうか。

 広い境内に高校生がひしめいていて、その中から探すのは容易ではない。今は一人でいい。なぜかそう思った。

 

 空はこの寺に到着したときから曇っていた。そんな曇り空もこの寺には似合っている。

 優斗が感慨深げに空を見上げていると灰色一色のキャンパスから絵の具が一滴、顔に落ちてきた気がした。そのうち、石段にも黒い点がぽつぽつと現れた。

 雨か・・・

 優斗は、生憎、傘を持ってきていなかった。降り出した雨は、まだ、濡れるほどの勢いではなかったがもうバスに戻ろうかと思った。優斗がそう思いながら、もう一度空を見上げたときだった。

 先ほどよりも黒い絵の具を注いだように暗くなってきた空が突然パッとカラフルな原色に変わったのだ。驚いて振り返ると、北村杏子が傘を差しだしていたのである。

「濡れちゃうよ。よかったら、入って」

 優斗の気持も杏子の差し出した傘のようにパッと明るくなった。

「ああ、サンキュー」

 二人は、横に並んで石段をひとつずつゆっくりと降りはじめた。

「俺が持つよ」

 優斗は、杏子の持つ傘を左手で受け取ると、杏子の肩が濡れないように気遣った。

「ありがとう」

 杏子は照れながら礼を言う。

 傘を持たない生徒たちは、追い抜きざま一様に振り返って傘の中の二人を覗いていくが興味のないふりをして追い越していく。

 今、優斗の左側には杏子がいる。身体は触れていないのに体温を感じることができる。

 突然のことで何を話したらいいのか言葉が浮かばずにいるとあっという間に駐車場が見えてきた。

 バスの近くまでくると、杏子に礼を言いながら傘を預けると、大事な一言だけ告げて優斗は小走りでバスに乗り込んだ。

 

 そんな二人の様子を本堂の陰で見ていたのは加奈子だった。

「作戦成功かな・・」

 そうつぶやくと、降り出した雨の中を二人の後を追って走り出そうとした。すると、それを呼び止める者がいた。

 橋口が傘をさして立っていたのだ。

「そこのお嬢さん、濡れますよ。一緒に入りませんか?」

 紳士を気取った橋口だったが、

「遠慮しておきます」

 加奈子は一言いうと踵を返して、石段を駆け下りて行ってしまった。

「ちぇ、つれないなあ・・」

 橋口は、“仲直り”を目論んだが失敗に終わり、しょぼくれながら加奈子の後を追うように駐車場に向かって歩いて行った。

 雨はそれを待っていたかのように本降りになってきた。

 2泊3日の修学旅行を終え、優斗たちは雨に煙る奈良を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

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 今年最大の寒波が襲来してきて、長く居座るそうな。日本海側の地域では大雪も心配される。関東は、昨日から冷たい北風が吹き荒れ、埃を舞いあげている。こんな日は家に引きこもり、日がな一日音楽を聴いたり本を読んだり・・

 

 さて、本日取り上げるアルバムは、JENNIFER WARNESの『JENNIFER』(1972年)である。

 

 

 

 

 

 ジェニファー・ウォーンズで思い出すのは、ジョー・コッカーとデュエットした映画「愛と青春の旅立ち」の主題歌「Up Where We Belong」だと、前にも書いた記憶がある。

 

 このアルバムは、彼女の3作目の作品で、ジャクソン・ブラウンやラス・カンケル、ウィルトン・フェルダー、スプーナー・オールダムらを招いてレコーディングされたものである。

 セールス的には芳しくなかったようであるが、ジェニファーの魅力が伝わる味わいのある一枚には違いない。

 

 自作の曲やカバー曲を織り交ぜた10曲。

ビージーズやドノバン、フリーなどバラエティな選曲であるが統一感のあるアレンジでアルバム全体としての違和感はない。

 艶があって透明感のある繊細な彼女の声が好きだ。

 ジャクソン・ブラウンの「These Days」は色々な人がカバーしているが、まだジャクソン本人が世に出す前のレコーディングらしい。

 

 

 

Jennifer Warnes-In The Morning - YouTube

 

 

 

 

Jennifer Warnes-These Days - YouTube