月に飛ばして 第35話「夜のドライヴ」/MARLENE ②
週に一度、片道約35分の一人のドライヴは国道をひたすら北上する。 好きな曲をかけ、胸を躍らせながら通るいつもの道だ。渋滞は一切ない。快適な夜のドライヴである。 小谷野は、音楽はもともと好きであったが結婚してからは家では大きな音量で聴くことができなかった。まして、子どもが生まれてからはゆっくり音楽を楽しむという機会が失われていった。 そのため、車の中が自分の好きな音楽を思う存分楽しめる唯一の空間であったのだ。 雨あがりの夜、小谷野はいつものように一人車でレッスンに向かう。このところのBGMはジャズである。ドライヴにはそぐわないと思っていたが意外に合うということに気づいた。 ウィンドウを少し開けると湿った風がするりと入り込み、それと同時に閉じ込められていたテナー・サックスの音が車外に解き放たれていく。 音量を上げ、ドラムの演奏に耳を傾けながらイメージを膨らませる。 車は、交差点にさしかかった。 右折車線へ移動するのに合わせるようにテナーからピアノにソロが移行していく。 対向車をやり過ごす。 ウィンカーの点滅がハイハットに重なる。痺れを切らして、すかさずハンドルを右へときる。 国道に入るとさらに音量を上げる。シンバル・レガートはその滑らかさをより鮮明にし、星のない夜空に吸い込まれていった。 雨上がりのアスファルトに対向車のライトが反射する。水煙を上げてトラックが追い抜いていく。 まっすぐと伸びた黒い帯には、街灯がその両側に鈍い光を放っていて、誘導灯に浮かび上がった滑走路のようだ。 快調に車を飛ばす。 やがて、いつものショッピングモールが見えてきた。闇夜に煌びやかな赤や黄色の光を放つモールは、まるで巨大軍艦が暗い波間に浮かんでいるようだ。 さ、またドラム頑張るぞ。 ффффф ффффф ффффф さて、本日取り上げるアルバムは、MRLENEの『SOFTLY, AS IN A MORNING SUNRISE』(1985年)である。 フィリピン出身のジャズ・シンガーであるマリーンの8作目にあたるアルバムである。 ポップスも歌うマリーンであるが、本作はジャズ・スタンダード集である。 アメリカのビッグ・バンドをバックに小気味よくスイングした歌いっぷりが心地よい。曲のアレンジもいい。Softly, as in a Morning Sunrise Marlene - YouTube※イントロ長く、ボーカルが聴けるのは1分過ぎからです。